釣り
「アー、ルミエール〜。コれ残ってるEランク依頼の中で一番報酬が良いヨー」
「どれどれー?ゴーレム三種(土、泥、砂)の素体をそれぞれ一体分ずつで報酬は金貨二枚、期限は残り四日か〜」
「いージゃん、コレ受けちャおうゼー」
「……みんなもっと自然に振る舞うにゃ。そんな事じゃ釣れるものも釣れないにゃ」
そんなこと言われても、こちとら全力で演技してるんだ。
これ以上自然にってどうすればいいんだ?
こういうのが得意そうなルミエールは顔が引きつってるし、ハッチも動きがカクカクしてる。
そこのテーブル席で頭を抱えてるロックさんとナナさん、宿で演技指導している時は大根演技の方が心をぎゅっと掴めるとか、素朴な感じがよく出てるって大絶賛していたのに、何でこりゃ駄目だ感を出してるの?
作戦失敗しそうだから、そろそろアドリブ参戦して欲しいんだけど……。
「その依頼、止めておいた方がいいぞ。釣り依頼だからさ」
来たーーーー!!
五人と一匹の心の声が一致したのが分かった。
そう。
今話しかけてきたのが今回のターゲット。
昨日の男女コンビの青年の方だ。
「──ご主人、数字は見えてるにゃ?」
「うん、二人とも2になってる」
昨日よりも黒味を増した赤い数字が、まるで警告アラートのように点滅している。
「釣り依頼?ここのゴーレムは川で釣れるんですか?」
オレは無害で初心者丸出しの冒険者。
ぶーにゃ曰くバカっぽさが大事らしい。
この大チャンス、逃してなるものか。
「フハッ、お前天然か?違う違う!とりあえずその依頼書の裏を見てみろよ」
「裏?……あっ、※期日切れの際は違約金として銀貨十枚を依頼主に支払うペナルティがありますって書いてる」
「やっぱりな。誰が貼るんだか、たまにこういう違約金目的の悪質な依頼があるんだよ。一種類ならともかく、三種類のゴーレム素体を集める為には、ここから往復で二日は掛かる狩り場に行く必要があるんだ。この依頼は、馬持ちのCランクパーティーでギリギリ達成出来るかどうかって難易度だな」
「……でも土と砂と泥ゴーレムは、大抵一体で徘徊しているから、準備万全ならFランクパーティーでも倒せるくらい動きが鈍いし硬くもないんですよね?三体だけなら大丈夫な気がするけど」
これは純粋な疑問。
アイテムボックスがあれば素材が荷物にならないし、距離も走れば何とかなりそうだから、釣り依頼だと断じる理由が知りたい。
「甘い甘い!君ね、そんな事じゃ冒険者をやってけないわよ?大事なのはここ、ゴーレムの素材じゃなくて素体って書いてるでしょ?ゴーレムはコアを壊せば倒せるけど、攻撃した分だけ素体は減るの。それこそ一体分を集める為に十体は倒さないと駄目なのよ。天候によって出現率も変わるし、たとえ三体分揃えても、やれ品質が悪いだの、一体分には足りてないだのって屁理屈をこねられて報酬を減らされたり、ギルドにクレームを入れられたりして厄介なのよ。この依頼内容なら十日が妥当な線ね」
チッチッチと人差し指を揺らす女性に同意するように頷く青年。
「ま、俺達は駆け出しの時に引っかかって痛い目見たからさ、後輩には忠告するようにしてるんだ。いきなり話しかけて悪かったな」
「いえ、忠告ありがとうございます。勉強になりました。……あの、オレ、サンズと言います。もう一つ聞いて良いですか?」
「おう。まだ時間はあるから構わないぞ。俺はヨーゼフ、こっちはユンリーだ」
「実は昨日お二人をギルドで見かけた時、他の冒険者に比べて装備の手入れがしっかりしてるなって思ったんです。シンプルで実用性重視なところも良いなって。もし良ければおすすめの装備屋を教えてもらえませんか?」
「あら!あらあらあら!ちょっとヨーゼフ、ついに来ちゃったわよ!」
「おいこら、落ち着け。せっかくのファンが逃げたらどうすんだ」
「おホホホ、ごめんあそばせ」
ファン?
まぁ装備のファンではある、かな?
「サンズは駆け出しだよな?」
「はい。昨日冒険者登録したばかりです。今日は依頼を受けてみようかなと思ったんですが、あまり残っていなくて……」
「あー、ここは新規依頼を朝の六時に張り出すんだよ。だからいい依頼をゲットしたいなら朝飯前に来ないと駄目だな」
「朝まで飲んでそのまま来る冒険者も多いから雰囲気は最悪だけど、ギルド内での争いはご法度だからそこまで危険はないわ。慣れないうちは弾き出されるから注意が必要だけどね」
「だな。それでサンズ、俺達に声をかけたのは、手入れのことだけじゃなく、剣と魔法どちらの装備も知ってそうだからだろ?」
「……あはは、すみません。でもヨーゼフさんとユンリーさんの装備がカッコいいと思ったのは本当です。オレの中のThe冒険者ってイメージそのままで良いなって」
「そりゃ嬉しいけどよ、後ろの奴等は同じパーティーなんだろ?見るからに実力者だし俺らよりよっぽど詳しそうだが」
「昨日パーティーを組んだばかりで、彼等もこの町は初めてなんです。それに正直実力差があり過ぎて、おすすめされてもオレには扱えないと言うか……」
「ああ〜、それはあるわね。私も修行修了のお祝いにお師匠様からもらった杖、まだ装備出来ないもの。ねぇヨーゼフ?サンズくん良い子だし、大丈夫だと思うわ」
「だな。サンズ、俺達がこの装備を揃えた店を紹介してやるよ。駆け出しが無茶して命を落とすのは見てられないからな」
「……やっぱり駆け出しは経験不足だから死にやすいんですか?それとも強いはぐれがいるとか?」
「うーん、それがね、私達もここで冒険者登録して十年近いんだけど、毎年一定数の駆け出しや中堅冒険者が不審死してるの。三年前、冒険者ギルド本部からソウさんが派遣された事で、あってないような規律やなあなあな銭勘定が一斉に引き締められて、汚職していた受付嬢や職員も逮捕された上に不審死も収まったんだけど、求人募集しても新人が居着かないみたいで常に人員不足なの。しかも釣り依頼書が貼られるようになったから、また不審死が出るんじゃないかって……」
不審死。
先輩冒険者に心構えでも聞こうかなと気軽に尋ねただけなのに、思ったより重い答えが返ってきた。
もしやヨーゼフさんとユンリーさんはその件に巻き込まれて死亡するのでは?
ちらりとぶーにゃ達を見ると、みんなオレと同意見のようだ。
「ねぇねぇお姉さん?まさかダンジョンの罠に掛かったり、魔物の群れや巣に遭遇して死亡する事を不審死だと言ってないよね?」
ハッチがユンリーさんに尋ねる。
演技を止めたのか、さっきの固さがなくなってる。
「ええ、もちろん。そういう事故の類じゃないわ。……体の一部が消えた遺体がこのギルドに落ちてくるのよ」
実際に目撃した事があるのか、両腕をさするユンリーさん。
「落ちてくる?」
「そう。何にもない所から突然落ちてくるんだ。
しかも死因が分からない。頭や腹ならまだ分かるんだが、指や耳が欠けてるだけなのに死んでる奴もいた」
「人体錬成や傀儡作成が目的では?ネクロマンサーや死霊術の専門家の意見を聞いてみては?」
ルミエールの言葉に成る程と思う。
確かに遺体を継ぎ合わせて理想の存在を作ろうとしたとか、愛しい人を蘇らせるために人から素材を集めたって物語あるよね。
あくまでフィクションだから読めるけど、ノンフィクションだとしたら恐ろしすぎる。
名探偵ルミエール。
どうか事件を解決してくれ。
二人の頭上の数字が主張してきて怖いんだ。
「それがな、その筋の専門家にも何度か遺体の検分に立ち会ってもらったそうなんだが、術を行使すれば必ず残るはずの痕跡がなかったらしい。遺体が苦悶や恐怖の表情を浮かべてたら魔物の仕業だと思えるんだが、普段通りだから余計に悲惨でさ、結構な冒険者が他の町に移動したよ」
「不審死するのはソロ冒険者限定?」
「いや、ソロよりも二、三人のパーティーの方が多いな。しかも不審死するのはパーティー全員だ」
「一人だけ助かった事例は?たとえば体調不良で休んだとか、急用ができたとか」
「俺が知ってる中ではない」
「──ねえ、そろそろ移動しない?私達も依頼を受けてるから、昼過ぎには出発したいの。続きは装備屋で話しましょ」
「はい、そうですね」
確かに依頼書の前で話し込むような内容ではない。
ロックさんとナナさんも合流し、ヨーゼフさん達おすすめの装備屋に向かうことになった。
ぶーにゃにちらりと目配せをするとコクリと大きく頷いてくれる。
昨夜の夕食は、異世界なのに食材や味付け、提供順までイタリアンのフルコースそっくりだったけど、ルミエール達の雰囲気が硬いと言うか冷えていると言うか、とてもじゃないけど食事を楽しめなかった。
早々にお暇したかったけど、ヨーゼフさん達の数字が気になったので何とか踏みとどまり、ロックさんの、町に居る冒険者は日に一度は依頼書を見に行く習性があるから、彼等も外に出る前にギルドに寄るという推理と、面倒見が良さそうだったにゃというぶーにゃの言葉に背を押され、昨日ハッチが見つけていた釣り依頼を前に一芝居打って接点を持とうという話になったのだ。
演技指導されるうちに雰囲気が解れていき、朝食の名前も見た目もエッグベネディクトそのものを食べる頃にはほぼ元通り。
ぶーにゃのお墨付きも貰えたし、昼食は美味しく食べられそうだ。




