冒険初日終了
日暮れ前に無事野営予定地にたどり着き、各々テントを立てると、ナナさん、ユンリーさん、ハッチの三人が食事の準備をしてくれるというので、残りのメンバーで魔物退治に行くことになった。
正直体力面でも精神面でもへとへとだったけど、明日の不測の事態に備えて武器の強化は必須だと思い、ゾンビ系ホラー映画と化した森に突入、腐敗臭にノックアウト寸前の俺を他所に、誘いの大鎌が八面六臂の活躍で魔物を倒してくれた。
ぶーにゃが風魔法で臭いを散らしてくれたから何とか耐えられたけど、森の中でこの臭いだとしたら、ダンジョンなどの密閉空間だととんでもないんじゃないかな。
剣を使うロックさんとヨーゼフさんが、どうやって実体のない魔物を倒すのかというオレの疑問は、日が落ちるにつれて明らかになった。
どうやら二人とも刀身にエンチャントがされているらしく、斬撃を飛ばしたり、魔物に触れると静電気みたいな光を放つのだ。
スキルを唱えなくてもサクサク倒す様子は圧巻で、称賛の言葉しか出てこない。
まあ一番驚いたのはルミエールの戦い方だったけどね。
指からレーザーを出して魔物を貫いたり、切り裂いたり、燃やしたり、オレの中の光魔法の概念を次々と壊していったのだ。
魔物を一掃する際、全ての指からレーザーが出て、ぶっとい木の幹までスパッと切った時は、まるでSF映画みたいだとちょっとテンションが上がった。
アイテムボックスに入れた欠片が結合し、八つ目の闇の魔石が完成する頃、どうにかこうにか魔物と対峙してもビビらずに武器を構えられるようになり、誘いの大鎌の勇姿も目を閉じることなく見届けられるようになった。
刃が放つなかなかどうしてカッコいいエフェクトに、内心ちょっと得意気になった事は秘密だ。
頃合いだし野営地に戻ろうというヨーゼフさんの言葉で緊張の糸が切れたのか、慣れない森の中での行動で早めの筋肉痛がきたのか、何とか歩みを進めていたけど、途中で足が棒になったかのように動かすことがままならず、ぶーにゃの風魔法で運んでもらったのが締まらないけど、戦いを通して冒険者としての心構えみたいなものが少しは出来たと思う。
道すがらヨーゼフさんから、今日の野営地は、例の地図の場所への最短ルート上にあり、いつもよりも魔物が強めで、エンカウント率も高いと言われたけど、野営地には中級の結界石を設置しているから安全らしい。
野営地に戻ると、鼻が正常になったのか、いい匂いがしていた。
ナナさん達お手製のミルクスープと燻製肉のサンドイッチを食べながら、夜の見張りについて話が出たんだけど、オレは疲労困憊でぶーにゃの風魔法がなければまともに動けないため、ぶーにゃと共に免除してもらえた。
残念だったのが、ご飯は美味しいのに体力が限界で、味よりも御椀やサンドイッチを持つ手に集中しないといけなかったこと。
焚き火を囲んでみんなで食事をするなんて、これから先何度もあるかもしれないけど、初日だから万全の状態で楽しみたかった。
後片付けはくじ引きで夜の見張りを回避したユンリーさんが買って出てくれた。
水魔法を高圧洗浄機みたいに器用に操り、食器類をピカピカにしていく様子は面白かった。
みんなにおやすみなさいと言って、オレはぶーにゃに運ばれてテントに入る。
親方の野営セットに入っていたテントは、見た目は一人用の大きさなのに、中は実家のリビングより広かった。
しかも床一面にクッション素材が敷き詰められていて、入って即就寝できる快適仕様。
温度管理もばっちりで、掛け布団も必要ない。
「ご主人、今日はどうだったにゃ?」
寝間着のスウェットに着替えたオレにぶーにゃが聞いてくる。
「……そうだなぁ。とにかく凄かった。後ちょっと勿体ないなって」
「にゃ?勿体ないってどういう事にゃ?」
「オレみたいなライトユーザーじゃなくて、ヘビーユーザーというか、異世界もの好きな人が来てたら、今の状況をもっと楽しめたんじゃないかなって思うとさ、勿体ないというか申し訳なくて」
「ご主人は楽しくないにゃ?」
「……楽しさよりも戸惑いの方が大きいかな。それにルミエール達はオレをリーダーとして立ててくれているけど、さっきの戦いぶりからして一廉の人物だよね?ぶーにゃも肩に乗ってるだけに見せて、スマートに邪魔な枝を切ってくれたり、飛んできた枝とか石を防いでくれるのが只者じゃない感じだし。だからオレもみんなの足を引っ張らないよう頑張ってるつもりなんだけど、気ばかりが急いて空回ってるというか、迷惑を掛けてるんじゃないかって思うと楽しむ余裕がないんだ」
「ご主人は考えすぎにゃ。面倒なことはぶーにゃ達に任せて悠々自適に過ごせばいいのにゃ。だってご主人はあり得ないレベルで弱々にゃ。その辺の石に躓いて打ち所が悪くてぽっくりいきそうなくらい激弱にゃ。でもご主人は頑張ってるにゃ。ちゃんと現状と向き合って、自分の足で立ってるにゃ。それをみんな分かってるにゃ。だから心配しなくても大丈夫にゃ」
「オレ、そんなに弱いんだ……」
「装備がなければ幼児レベルにゃ。でもそんなご主人だからぶーにゃ達は召喚に応じたのにゃ。ぶーにゃもルミエール達も、サポートするに値しないと思えば拒否できるのにゃ。それを条件に女神と契約したのにゃ。だからさっきご主人が言ったような相手なら、確実にぶーにゃは無視していたにゃ」
「それって、サポートアニマルやサポーターが居なかった可能性もあったってこと?」
「それはないにゃ。全員に拒否された場合は、女神お手製の木偶がサポートに付くのにゃ。見た目はともかく神力が込められているから実力は確かにゃ」
「……ぶーにゃ達がオレのサポート役で良かったよ」
「その通りにゃ。ご主人は誇っていいにゃ。ぶーにゃ達がいれば明日も何とかなるにゃ。大船に乗ったつもりでいればいいにゃ。だからご主人、今は体力回復に努めるにゃ。晩御飯の時、ご主人がスライムよりもプルプルしててぶーにゃお腹が捩れて大変だったにゃ」
「……ああ、あれマッサージじゃなかったんだ」
「結果的にマッサージみたいなものにゃ。ご主人と一緒にプルプルしながら変顔したら、見事みんなの緊張を解せたにゃ」
「……ハッチが突然鼻からスープを吹き出したのはぶーにゃのせいだったのか」
「可愛いイタズラにゃ。それより明日のためにそろそろ寝るにゃ。ぶーにゃが添い寝してあげるにゃ」
「うん、出発までにスライムは卒業するよ」
隣でプルプルするぶーにゃにおやすみと言って、冒険初日が終了。
明日はどんな日になるんだろう?




