目が覚めたら無理ゲーの中だった
朝、目覚めたら、いつもの自分の部屋じゃなかった。
おんぼろ絨毯の代わりに草むらがどこまでも広がっている。
パジャマの代わりに俺は鉄の鎧を着ていて、傍らには鉄の剣と盾が置いてあった。
記憶を辿ると心当たりは、あった。
昨日、会社から歩いて帰る時、俺は大型トラックに轢かれたのだった。
「これが転生ってやつか……」
本当にあったんだなと思いながら起き上がると、何やら見覚えのある生き物が、少し離れた草むらの上で蠢いているのが見えた。
「あれって……、ぷるるん?」
学生時代にハマっていたセガハードのRPG『ウランディヤ』に登場する雑魚モンスターだ。
某有名作品のスライムによく似た、しかしそれ以上に弱い、さまざな色の個体がある、グミキャンディーみたいな見た目のモンスター。それが草むらのあっちこっちでぷるぷると蠢いている。
そのことから察するに、どうやら俺はRPG『ウランディヤ』のゲーム世界に転生したようだ。
「まぁ……好きだったゲームだし……」
剣を持ち、俺は立ち上がった。
「あのつまんねー現実を生きるより、こっちのほうが楽しいかもしれねーな」
今は初級の鉄製装備セットだが、モンスターを倒せば金が手に入る。それでだんだんといい装備に変えていけばいい。
今は一人だが、そのうち仲間が増えることだろう。それまでせっせと雑魚モンスターを狩ってレベル上げにいそしむとしよう。
俺は剣を振り上げ、近くでぷるぷると震えているぷるるんに斬りかかった。
ぷちょ!
思った通り、弱かった。
素人の一撃で簡単に倒すことができた。
俺の目の前の空中に文字が浮かび上がる。
経験値3
次のレベルまで386,728EXP
「……は?」
思わず声が出た。
「ぷるるん13万匹ぐらい倒さないとレベルアップできねーの……? っていうか何だよ、38万て……」
ふと気づくと、ぷるるんたちに取り囲まれていた。
仲間を殺された怒りに、みんな色が真っ赤に燃えている。
「仕方ねー……。町へ行ってみるか」
無視して歩き出すと、その態度が余計にぷるるんたちを激怒させたようで、四方八方から襲いかかってきた。
なんとか逃げ延びて、近くにあった町に入ると、人々が賑やかに行き交っていた。
俺はぷるるんたちにヒットポイントを削られ、あとデコピン一発で死にそうになっていた。
「や……宿屋に泊まらなければ」
綺麗なお姉さんが歩いていたので、聞いてみた。
「すみません。宿屋はどこでしょう?」
「キャー!」
お姉さんが悲鳴をあげた。
「このひと、初対面の私に気安く話しかけてきた! 変態!」
すると周囲のひとたちがギロリと俺を睨み、手に持ったフランスパンや酒瓶で襲いかかってきた。
理不尽だ。俺はただ宿屋の場所を尋ねただけなのに──
フランスパンの一撃で、俺は死んだ。
目覚めると、教会の中の『復活の部屋』にいた。
そうだ、あのゲーム……死ぬとここからやり直しになるんだった。
神父さんも誰もいないので、俺は一人でヨロヨロとそこを出た。ヒットポイントは1だった。
「町のひとに話しかけたら殺されたし……自力で宿屋を見つけるしかないか」
教会を出ると、夜だった。
不吉な三日月をバックに、魔王が俺の前に立っていた。
「フハハハ! 勇者ビーバーよ! この先へ行きたければ、我を倒して行くがよい!」
めちゃくちゃだ──
このゲーム、バランスがめちゃくちゃだ。
いや、現実って、こんなものかもしれないな。俺の都合を世界が待ってはくれない。
魔王の攻撃一発で、俺は死んだ。
そして、もう二度と目覚めたくないと思っていた。
恨んでやる。




