(10)カミーユは悩みを解決したい
推し活と言えば……です。
カミーユには悩みがあった。
ミュゼラ姫との外交の成功から、フレランジュ王国との窓口はカミーユの担当と決まった。迎賓館の中にある事務所で働いては家に帰る毎日を送っていた。
帰る頃になると、文官達はその後の予定について話し始める。
「帰りにサロンでチェスをどうだ?」
「いいね。今日は勝たせてもらうよ。」
「美味しい酒を出す店を見つけたんだ。」
「それは楽しみだ。」
楽しそうに会話をしながら帰るその様子をみて、カミーユは思ってしまったのだ。
(羨ましい……)
思えば今までカミーユには仲の良い友達がいなかった。休日に友達同士で街に出掛けてみたりとか、食事を一緒に食べたりとか、そういうことをしたことがない。ミュゼラ姫と一緒に買い物や観劇に出かけたことで、カミーユはその楽しさに触れてしまったのだ。
王太子の婚約者候補として、誰とでもある程度距離を置いて付き合っていたということもあるが、そもそも、カミーユ自身が自分から仕事以外で人に話しかけることが苦手だった。かといって男ばかりの文官たちに、仲良くなろうと話しかけるのも、勘違いされそうで怖い。
こういう時に、母親や姉妹がいれば相談できたのだが、そういう相手もカミーユにはいなかった。
(どうしたらいいのだろう。)
そう思った時に、ふと思い浮かんだのはヴァロア伯爵夫人だ。彼女はいつもカミーユに対して親身に受け答えをしてくれる。確か今度の休日にちょうどお茶会の誘いがきていたはずだ。カミーユは出席するとの手紙を出すと、その日を待った。
「なるほど。今まで友達とのお付き合いをしたことがない、と。」
ヴァロア伯爵夫人の今回のお茶会は、伯爵夫人と同年代のご婦人達の集まりだった。カミーユの話を聞くと、みんなが痛ましいものを見るような顔でカミーユを見る。
「若い頃の友達は、歳を取ってからも大事でしてよ。」
「ええ。遠い領地に嫁いで行った友達とも、いまだに手紙のやり取りはしていますわ。」
若い頃の友情を思い出した婦人たちの顔が、まるで十代の女性のように華やいだのを見て、カミーユは思わずため息をついた。
「私は皆様が羨ましいです。どうやったらそのような友達を作れるのでしょう。」
「その憂い顔を見られただけでも、今日来た甲斐があるというものですが。そうですね。せっかくですからアドバイスして差し上げましょうよ。」
うっとりとしながらも、そう言った婦人の言葉に頷きながら、他の婦人が思いついたように言う。
「そうそう。趣味の合う友達などいかがかしら。カミーユ様のご趣味はなんなのか、お聞かせいただける?」
なぜか全員の目がきらりと光ったような気がしたが、それはカミーユの気のせいだろう。カミーユは顎に手を当てて考え込んだ。
「趣味、ですか。そうですね。王妃教育が忙しくて、自分の時間など皆無だったものですから。」
まあ、とため息が落ちる。
「なんとおいたわしい。」
「ああ、でも。本を読める時間は楽しかったように思います。」
「まあ、読書がお好きなのですね。どのような本がお好きでしたの?」
「そうですね。他国の歴史や文化などが書いてある本は旅をしているようで楽しかったです。それから、その。」
カミーユは少し躊躇った。自分の好きなものを言うというのは、意外と恥ずかしいものだ。
「その?」
促され、顔を赤らめながらカミーユが答える。
「れ、恋愛小説なども、自分とは違う世界を見ているようで、楽しかったです。あのように誰かに一途に愛されたら幸せだろうなと。」
「はうっ。カミーユ様が可愛らしすぎる。」
「しっかりなさって!」
胸を押さえ、悶絶する婦人達の様子に、顔を赤らめ俯いているカミーユは気づいていなかった。
「確か本を読む会を開いている方がおりましたわよね。」
ヴァロア伯爵夫人がコホンと咳払いをしてから、話題を修正する。
「ええ。確かうちの娘の友達が参加していると聞いたことがありますわ。」
「最近は自分でも本を作って、感想を述べ合っているとか。」
「ああ、私も見せていただ来ましたわ。素敵な物語でしたわね。」
カミーユは驚いた。本を読むだけではなく、自分で書ける女性がいるとは!
「そんなすごい方々がいらっしゃるのですね。ぜひお話しさせていただきたいです。ご紹介いただけますか?」
一瞬婦人達は顔を見合わせた。何か問題があるのだろうか。扇子をばさりと開いたヴァロア伯爵夫人が、顔を半分隠しながら頷いた。
「きっとあちらもカミーユ様と仲良くしたいと思っておりますわ。一度行ってみるのも良いかもしれませんわね。私が手筈を整えましょう。」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに茶菓子を摘むカミーユを見ながら、ヴァロア伯爵夫人の隣に座っていたご婦人が扇子を出し、そっと伯爵夫人に顔を近づけた。
「よろしいんですの?彼女達の書いている話のモデルはカミーユ様ですわよ。」
最近彼女達が書き上げたものは、ミュゼラ姫とカミーユの禁断の恋物語である。当然このお茶会のメンバーは全員目を潤ませながら回し読みをした。カミーユ様を愛でる会の会員なら当然だ。ヴァロア伯爵夫人は頷いた。
「ええ。カミーユ様が友達になりたいと願って、あの娘達が断れるわけがない。そして彼女達はきっとまた新しい話を作り出してくれます。私はそれが読みたいのです。」
皇太后が職人達を東の国へ送ってだいぶ経つ。彼らが帰ってきた暁には、美麗な絵と共に、物語を楽しめるようになるだろう。伯爵夫人はその日が来ることを確信して待ち望んでいるのだった。
交流会まで書くつもりが、長くなってしまいました。
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