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(21)カミーユ親子は動き出した。

 話は少し遡る。

 食事の味が微妙に変わったことに、カミーユは気がついた。

「最近味が変わったように思うが。」

 尋ねてみると、給仕がパッと顔を明るくする。

「お気づきになりましたか。実は料理人が変わったのですが、色々と工夫をする方で。私たちも賄いを楽しみにしているのです。」

「ほう。食事が楽しみになるな。そのうち顔を出すように伝えてくれ。」

 上機嫌でそう言ったのは宰相である父だ。

「かしこまりました。」

 給仕が下がると、カミーユと宰相はチラリと目を合わせた。皇太后が倒れ、国王陛下も病床にいる。次に狙われるのは、宰相ではないか。カミーユと父の想像はどうやら合っていたらしい。

「調べてもらったほうがよろしいですね。」

「そうだな。」

 カミーユは父親の食事を毒の専門家のところに極秘で持って行った。

 しばらくしてから、調査員から連絡が入った。

「毒が含まれておりますね。一度では効きませんが、少しずつ身体を弱らせる性質を持っております。」

 調査員は見たことのない毒だと驚きながらも、結果について報告してくれた。

「ちなみにこの食事を摂っていると、どのくらいで具合が悪くなるのかね?」

 宰相が尋ねると、男はしばらく考え込む。

「そうですね。おそらく三週間くらいで食欲がなくなってくると思われます。」

 宰相はその言葉を聞いてニヤリと笑った。

「なるほど。では、その頃から仕事を休むことにしよう。解毒薬は作れるか?」

「しばらくお時間を頂ければ。」

「頼むぞ。」

 高齢の皇太后殿下は間に合わないだろうが、国王陛下は助けられるかもしれない。宰相は大金を持たせて、男を下がらせた。


「さて。この状況を変えられる人物は一人しかいない。誰だか分かるか。」

「王太子殿下……ですね。」

「そうだ。」


 王位継承者であり、王妃に対抗できるただ一人の人物だ。今は王弟と共に国境の守りについている。彼からは一度だけ手紙が送られてきた。

『すまなかった。何かあれば頼れ。』

 それだけの手紙だが、今はそれが頼みの綱だ。


「カミーユ。私が倒れたら、国境まで行ってきてくれないか。」


 宰相にとってカミーユは今や一緒に国を救うための同士だ。

 カミーユは頷いた。全てを精算する時が来たのだ。


 国境で再会した王太子は、前のような軽薄さはなく、目にも落ち着きが宿るようになっていた。別人ではないかと思わず見つめるカミーユの様子に王太子は苦笑した。


「久しぶりだな。カミーユ。」

「……お久しぶりです。」


 今のカミーユは女性用の鬘で髪を長くした、貴婦人の出立だ。これならば馬車で旅をしていても誰にも怪しまれない。


 王弟殿下の屋敷に招かれ、旅装を解くと、カミーユは短髪のいつもの格好に戻った。やはり自分にはこちらの方が合っていると、肩の力が抜けた気がする。応接間では王弟殿下も待っており、カミーユを見るとほう、と感嘆の声を上げた。

「なるほど。女性たちが騒ぐのも納得がいく。」

「お戯れを。……カミーユ・シンクレアと申します。王弟殿下にご挨拶申し上げます。」

 優雅な礼をするカミーユを王弟は目を細めて眺めた。


「戯れなどであるものか。こんな辺境にもカミーユの評判は届いているのだぞ。その格好で外に出るなよ。女性たちが集まって来てしまうからな。」


 豪快に笑うと、王弟は王太子の方を向く。


「見る目がなかったな。」

「それに関しては、反論もできません。」


 怒るでもなく淡々と王太子が答える。王太子の中でも、あれはすでに過去のことなのだ。


「ところで、どうやってピルケール国王を落としたのだ?熱烈に求婚されていると聞いたぞ。」

「……外務部として関わっただけです。特には何も。」

 カミーユとしても、なぜあんなに気に入られたのか分からないのだ。国王をお迎えし、粗相のないように執り行った。カミーユが国王と会ったのは、実はそれほど多くない。それなのに求婚してくる彼の気持ちがわからない。


 不可解だとひたすら首を捻るカミーユの様子をじっと王太子は眺めていた。今の彼女は魅力に溢れている。それに気付かぬ男はいないだろう。そして彼女が振りまく魅力は、女性をも虜にする。誰からも好かれる王妃など、この世界でも数えるほどしかいない。だからこそピルケール国王は欲しいと思ったのだ。残念ながら、そのことにカミーユは一切気づいていないけれども。


「ところで、こんな辺境まで来るからには、何かあったのか。」

 王太子の問いに、カミーユは、そうでした、と持ってきた調査書をみせる。

「父が毒を盛られました。新しく入った料理人がおそらくは犯人かと。彼のことを調べたのですが、帝国生まれであること以外は全くわからず……。」

 彼の経歴を辿ってみるのだが、話を聞けば聞くほど別人の話になっていく。そもそも彼が前に勤めていた場所では、彼は料理があまり上手ではなかったのだ。

「似顔絵はあるか。」

「はい。」

「調べてみよう。」

 王弟殿下に似顔絵を渡す。帝国との国境にあるこの場所が、彼の正体を探すには最適だった。


 そしてカミーユは本題に入った。

「彼と王妃の繋がりが分かれば、王妃を断罪できます。それに協力いただきたいのです。」

 カミーユの言葉に、王弟は眉を顰める。

「王妃を断罪すれば、王太子であるシャールにも累が及ぶ可能性がある。そうすればこの国はおしまいだ。」

「私はかまいません。王太子を辞めてもいいと思っていましたから。」

 シャールが淡々と言う。

「私が生きていると、母は私に帝国の王女をあてがおうとするでしょう。そうすればこの国は帝国の属国に落ちる。それならいっそ私を廃嫡したほうが……。」

「シャール!」

 王弟の厳しい声にシャールは言葉をとめた。

「お前の父はお前になんと言った?『負けたくなければ、死なないことだ』と言ったその意味がお前にはまだ分からないのか!兄は、国王はまだ戦っているんだ。その身を削ってな。それなのにお前がこの戦いから勝手に逃げることを私は許さない。」

「申し訳ありません。」

 シャールが小さな声で詫びる。彼が謝る姿にも驚かされたが、王弟がなぜここを任されている意味を初めて理解したと、カミーユは思った。


「私が断罪すれば、確かに王太子殿下にも累が及ぶ可能性があります。そこで、王太子殿下が王妃殿下を断罪すると言うのはいかがでしょうか。」

「私が母を断罪しろ、と?」

 シャールが狼狽えた。それは当然だ。自分の母親を罪に落とそうと思う子供はいない。

「それ以外に方法はないと、考えました。殿下、あなたはこの国を帝国の属国としたいですか?それとも独立した国としてこれからも存続させたいですか?……ご決断を。」


 シャールは頭を抱えた。彼は迷うと決められなくなることがある。長い付き合いのカミーユはそれをよく知っていた。しかし、シャールはすぐに顔を上げた。


「……わかった。責任を持って私が断罪する。」


久しぶりの王太子登場です。少しはまともになりました。


読んでくださり、ありがとうございます。

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