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(21)王妃は全てを手に入れたい。

王妃はジレンマに陥っていた。

カミーユをピルケール王国の妃になどしたら、宰相の立場が更に強いものになってしまう。ただでさえカミーユは女性や平民の間で大人気なのだ。飢饉を救うため他国の妃になったなどという話になれば、未来永劫語り継がれてしまう。面白くもない展開だ。

かと言って国に置いておけば、その人気で王妃を脅かす存在になってしまう。

「何か、何か良い方法はないものか。」

最近の王妃の相談相手は帝国の医師だ。王の病状の相談として王妃の部屋に足繁く通う男は、ヨボヨボとした年寄りに見えた。しかし、白いつけ髭とカツラを取ると途端に20代の若者の姿になる。男は帝国の暗部だった。

「殺してしまえば良いではありませんか。」

男は事もなげに言った。

「……カミーユをか?今のカミーユに何かあれば、大騒ぎになるぞ。」

王妃は眉を顰めた。忌々しいが、今のカミーユの勢いは止めようがない。

「カミーユ殿はまだお若い。この毒が効くまで時間がかかるでしょう。それに、彼女が死ねば、『悲劇のヒロイン』として永遠に人々の心に刻まれてしまう。それはご本意ではありますまい。」

「ならば宰相を。」

「ええ。父親の具合が悪いのに他国に嫁になど行く娘はおりません。それを口実に返事を引き延ばし、飢饉をやり過ごすのです。」

確かに、ピルケール王国からの食料は喉から手が出るほど欲しいが、それは今だけのこと。

「その間にピルケール王のために舞踏会を開き、カミーユ殿より良き女性を見つけてもらうのです。」

もちろんそこに呼ばれるのは、王妃の息のかかった女性だけだ。

「うまくすればピルケール王国も手に入るかもしれんのう。」

王妃は高揚感を覚え、クスクスと笑った。



王妃にとって都合の良いことに、その後、皇太后の容態が急変した。

「国家の大事に結婚の話でもなかろう。他国への挨拶もあるゆえ、帰りにまた寄ることにする。」

そういうと、ピルケール国王は、一旦旅立った。次に来るのは三ヶ月後だという。暗部の男は使用人の男になりすまし、宰相の家へと潜り込んだ。後は良い報告を待つだけだ。

王妃は良い知らせを首を長くして待っていた。

それはある日の議会だった。

「宰相殿は具合が悪いそうで、本日欠席されるそうです。」

「ほお。珍しいこと。」

王妃は扇子を口の前でぱらりと広げた。万が一にも緩む口元を見られてはならぬ。

「なんでも胃の腑の調子が悪いとか。仕事に気を回しすぎたのかも知れませぬ。」

「それは心配なことじゃな。後で医師でも差し向けてみよう。」

「なんと。王妃殿下のお優しさに、宰相閣下もお喜びになることでしょう。」


大袈裟に感激する大臣に鷹揚に頷きながら、王妃は自分の勝利を確信し始めていた。

外務部からも、カミーユの婚姻に反対する旨の嘆願書が上がってきている。残念ながらカミーユ自身は未だもってそのことに対し、沈黙を貫いている。宰相の体調が思わしくないこともあり、仕事も休んでいるらしい。


そのまま、夏が過ぎ、秋になった。

冷夏の影響で、小麦はいつもの半分の量しか収穫できなかった。国の予算も縮小しなければならない。帝国も同じ状況で、民は飢えに喘いでいるらしい。助けてもらうことは不可能だ。

「なんとしてもピルケール国王に、農作物の輸出をお願いしなければ。」

大臣達も口を揃えてそう言うようになってきた。


そんな中、ピルケール国王がまた戻ってきた。王妃はこの日のためにと、準備していた舞踏会を開いた。交渉のためだと言われれば、宰相がいない今、誰も文句は言えなかった。ピルケール国王に次々と挨拶をする女性達はどれも花のように美しい。しかしピルケール国王は面白くなさそうにそれを眺めていた。


「カミーユはどうした。我はカミーユに会いたい。」

「カミーユ様は父親の病床に付き添っております。」

「なんと。宰相殿は具合が悪いのか。皇太后殿下も身罷られたと聞いたぞ。それなのにこの舞踏会とは。」

ピルケール国王は眉を顰め、参加者を睨みつける。その視線に触れると、誰もがバツが悪そうにそっと視線を逸らした。そこに高らかに訪れを告げる声が響いた。



「アルデルタ・シンクレア様。カミーユ・シンクレア様。ご到着にございます!」



その声に釣られるように入り口を見ると、父である宰相にエスコートされたカミーユが入場してくるところだった。人々はその装いに目を見張った。一見すると銀色に輝くドレスだ。しかしふわりと広がったスカートの前は大きく開かれており、その間からパンツに包まれた足が見えている。

「なんと、足首を見せるとは……。恥ずかしくはないのか。」

「はしたないこと……。」

ヒソヒソと声が上がるが、それでもやはり彼女から目を離すことはできなかった。それだけの美しさがカミーユにはあった。

「おお、カミーユ殿。会いたかったぞ!宰相も息災のようだ。」

ピルケール国王は立ち上がり、カミーユを迎える。カミーユは国王の前で膝を曲げ、淑女の礼をとる。

「ピルケール国王にご挨拶申し上げます。」


王妃はカミーユの横、宰相から目を離せずにいた。扇子を持つ手が震えてしまう。毒で弱っているはずなのだ。しかし、目の前にいる宰相は健康そのものだ。驚く王妃の姿を見て、宰相はにこやかに笑う。

「しばらくお休みをいただいたおかげで、健康を取り戻すことができました。ありがとうございます。」


「病気のはずの宰相とカミーユ殿が揃ったのだ。何か面白いものが見られそうだな。」

楽しげなピルケール王の言葉にカミーユは顔を上げる。

「この場をお借りして、皆様に伝えたいことがあるのです。」



切りが悪いのですが、この続きを書くと長くなってしまうので、また来週でs、


読んでくださり、ありがとうございます。

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