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(3)王太子殿下は負けたくない

王太子ざまあ回ですが、なんか話が重くなりました。


 王太子シャール・ド・アルクールは苛立ちに顔を歪めていた。

 彼は婚約者であるカミーユが気に入らなかった。

 王太子ともなれば、私情で相手を決めることなどあってはならない。それは分かっていた。だから、幼い頃から決まっていたカミーユと親交を深めていたし、カミーユが王宮へと上がることが決まった時は、部屋にたくさんの花を贈った。

 しかし、学園に上がり、他の女生徒と交流が始まった頃から気持ちが変化してきた。

 他の女生徒は、顔を合わせれば必ず、うっとりとした顔で自分を見る。ランチの招待は毎日。何人かで組んで行う課題などでは、自分と組ませてほしいとちょっとした争いが起こるほどだ。

 しかし、カミーユは自分を巡っての争いに参加することはなかった。妃教育もあったため、授業を受けては王宮に帰る。その繰り返しばかりで、カミーユと交流する時間すらなかったのだ。そして成績は常にカミーユの方が上だった。

 さらに気に入らなかったのは、身長だ。学園に入る頃には自分の方が少し高かったのに、気づけばカミーユに抜かれていた。カミーユも気にしているのか、ヒールの低い靴を履き、少し猫背で下向きに歩く。その姿が自分を憐んでいるようで、見るのも嫌だった。


 学園を卒業してほっとしたのも束の間、カミーユに仕事をさせてはどうかと言う話が持ち上がった。

 また自分と比べられる。そう思った王太子は、


「女はお茶会でもして社交をしていればいいんだ。書類作業なんてできるわけがない。」


 とカミーユに言った。そしたらカミーユは仕事をしなくなった。


「お前の声は低くて男みたいだな。歌など歌わない方がいい。」


 そう言えば、歌うのをやめた。自分の言うことは聞くのだなと気分が良くなった。


 次期王妃という肩書きが彼女も欲しいだけなのだ。であれば、多少好きにしていても大丈夫だ。


 その頃王宮に上がってきた侍女がいた。鈴を転がすような声で話す彼女に、興味を惹かれた。気を引くためにちょっと贈り物をすると、学園にいた頃のように、彼女は自分をうっとりと眺めるようになった。自分が欲しかったものはこれなのだ、と王太子は満足していた。


 それなのにだ。

 皇太后の部屋で見たカミーユは、王太子が見ても美しい男だった。月から降りてきたと言っても信じたかもしれない。カミーユはこの男に夢中なのか。俺はまた、負けたのか。


 一瞬の激情に駆られた王太子は、うっかり婚約破棄の書類にサインしてしまった。その後、それがカミーユ本人だと分かった時には、愕然とした。


「お前は自分のしたことが分かっているのか?」


 カミーユが出て行った後、皇太后が見たことのないような冷たい目を向けてきた。今までは孫として可愛がってくれていたのに。


「あ、あんな髪を短く切った女など、気が触れているとしか思えませぬ。」


 思わず言った王太子の言葉で、なぜか部屋全体の温度が下がった気がした。


「カミーユがお前の婚約者だったからこそ、お前はこの国の王になれたのだ。それすらも分からぬ愚か者とは。しかも王宮から追い出すとは何事か!会えなくなるではないか。」


「皇太后様、趣旨が外れておりますわ。」


 伯爵夫人の一言で、皇太后は咳払いをする。


「今回のことは王にも報告しておく。下がれ。」


 王太子は黙って部屋を出た。その足で母親である王妃の元へと向かった。そして今あったことを洗いざらいぶちまけた。

 王妃は黙って話を聞いていたが、カミーユを王宮から追い出したところで、大笑いを始めた。淑女である王妃の見せた事のない様子に、王太子は呆気に取られた。


「つまり、カミーユはもうこの王宮には上がれないのね?まさかこんな簡単に追い出せるとは思わなかったわ!」


「母上は、カミーユを追い出したかったのですね。」


 やはり母は自分の味方だったとシャールは安心した。


「もちろんよ。宰相の娘なんてね。ああ、お前には他の婚約者を用意してあげる。ちょうど第三王女があなたと釣り合いが取れそうだと連絡があったところなのよ。」


「第三…王女?」


 王太子の母親は隣国であるギラーン帝国の貴族の娘である。帝国は今近隣で一番力のある国であり、周りの国を次々と併合していた。


「あの狸が、宰相の娘を婚約者になんてするから計画が先に進まなかったのよ。これで、帝国との結びつきが更に強まるわ。

 あなたが第三王女と結婚して子供が産まれれば、この王家に皇帝陛下の血が入るの。素敵じゃない?」


「母上……。」


 その後、どうやって部屋に戻ったのか、王太子には記憶がない。

 気づくと朝になっていた。

 侍女を呼ぶが、どこかよそよそしい。訝しみながらも朝食を一人で済ませていると、国王である父親から、部屋に来るよう呼び出しがあった。皇太后から話を聞いたのだろう。


「ち、父上……。」


 部屋にいる父親に、なんと言えばいいのか分からず、王太子は下を向いた。


「馬鹿なことをしたな。せっかく宰相と儂で用意したものをむざむざ捨てるとは。」


「申し訳ありません。」


「母上は契約を反故にしたいようだが、それは難しいだろう。それ程に契約は重い。」


「申し訳……ありません。」


 他にいう言葉が見つからなかった。ただ一つ、気になっていることがあった。


「カミーユは、この婚約の意味を知っていたのでしょうか。」


 シャールの質問に国王は苦々しい顔になる。


「何のためにカミーユに政務を振ろうとしていたのか分からぬのか。」


 どうやら自分はあちこちでこの国を破壊へと導いていたらしい。国王は大きくため息をついた。


「お前をしばらく儂の弟の所へ行かせることにする。」


  王太子は息をのんだ。父親の弟は今国境の守りについている筈だ。


「なぜそんなところに行かなければならないのですか!」


「お前のためだ。シャール。一つだけ教えておこう。」


 国王はこれ以上話す気はないというように、背中を向けた。


「負けたくなければ、死なないことだ。」


 それからしばらくして、シャールは王弟のところへと送られた。表向きは王弟の元で戦を学ぶため、である。


 しかしこれはただの時間稼ぎなのだ。シャールと帝国の王女との婚約までの時間を稼ぐための。そして帝国が武力で押してくるのであれば、自分が真っ先に殺されるだろうということも分かっていた。


 シャールは必死で武力を磨いた。王弟に教えを請い、政治のことも学んだ。今まで遠い世界だと思っていたものが、やっと自分の手に入った気がした。


 カミーユが王都で評判になっていることは、風の噂で知った。あの美しさ、聡明さがあれば、仕方のないことだ。もうシャールにはカミーユに勝ちたいという気持ちはなかった。

 何があってもいいように、宰相には手紙を送ってある。


 やがて、皇太后が亡くなり、国王も重い病にかかったという知らせが届いた。王妃からは何度も戻るように手紙がきたが、全て無視をした。


 シャールが帰るのは、国王の崩御という大義名分と、王妃との最終対決の時だけなのだ。


おかしい。コメディだったはずなのに。王太子がやらかしたので、皇太后も推し活しかできなくなったという……


読んでくださり、ありがとうございます。

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