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(20) 宰相は困り果てている

なんと20話。こんなに長くなる予定はなかったのですが。

20

宰相は紛糾する議会を前に、対策を出しあぐねていた。昨年の夏、いつもより涼しく、ちらほらと不作の話が出ていた。一時的な税の軽減でなんとかなるだろうと思っていたら、今年は更に涼しさを増した。麦が青々としたまま膨らむ気配がない。

「このままでは国の財政が破綻してしまいます。」

「いや、まずは飢饉に備えて備蓄をせねば……。」

「冷夏の影響を受けていない国から麦を買う算段を取り付けるのが先ではないか。」

この話し合いに更に混乱を招いたのが王妃だ。国王の代わりに議会に出るようになってから、あれこれと税の使い道について口を出すようになった。

「王の病状が思わしくなくての。薬代として王宮予算を追加してもらえぬか。」

「帝国から医師を招く。ついては外交費を追加してもらえぬか。」

王の病を理由に出されては、逆らうことなどできぬ。仕方なくあちこちの予算を削っては王妃の望みを叶えてきたが、

「冬に帝国の王族が王の見舞いにくるそうだ。そのための外交費を調達せよ。」

王族がくるとなれば、どれだけの予算が必要なのか。宰相は気が遠くなった。

「王妃殿下。税収が見込めませぬ。王宮予算を外交費に当てさせていただいてもよろしいですかな。」

そう言いながら宰相は王妃の身につけている宝石をチラリと見やった。どれも新しいものだ。あれを売ればだいぶ楽になるだろうに。

「増税すれば良いではないか。」

王妃の言葉が議会に響き渡る。帝国派の貴族も流石に賛同はできないのか、黙ったままキョロキョロと目を彷徨わせている。

「民が死んでしまいます。」

「ふん……。」

議会をチラリと見た王妃は、持っていた扇子をパチリと叩く。

「では、こうしよう。皇太后殿下に離宮に行っていただく。寝台から出ることもできず、おいたわしい状況でな。離宮でゆっくりと過ごしていただく方が良いだろうと医師も勧めておる。物の整理もできるであろう?」

離宮に行かせて人員を減らし、なおかつ皇太后の所有物を売れと言うことか。王妃としては目の上のこぶであった皇太后が目に入らなくなれば嬉しいのだろう。


背に腹は変えられぬ。そう思った時、事務官が慌てた様子で議会に入ってきた。宰相のところへやってくると、こっそりと耳打ちをする。

「南の国から文が届きました。新しく国を興したとのことで、新王自ら挨拶に赴きたいとのことです。いかがいたしましょう。」

「また王族か。」

宰相の頭痛の種がまた増えた。


「ピルケール王国ですか。最近できた新興国ですね。いくつかの小国がまとまってできた国だとか。こちらでも調べを進めているところです。」

夕食の際カミーユに聞いてみると、案の定、南の国についてすでに知っていた。話しながらもスープを掬う仕草がなんとも美しく、自分の娘ながらも眺めたくなってしまう。

仕事をする女性の筆頭として、カミーユの評判は類を見ない。自信に満ち溢れたその姿をみると、娘のとった行動は間違いではなかったのだなと考えさせられる。同時に申し訳ない気持ちも湧いてしまうが。


「挨拶のために我が国に赴かれると言うことなのだが、今は財政が厳しくてな。あまり予算が出せないのだよ。」

「この冷夏では、致し方ありませんね。ただ、彼の国は南国。小麦の生産量も我が国の倍以上はあるとのこと。ぜひ通商の契約を結びたいと、契約書の草稿を作成中です。出来上がりましたらぜひ宰相殿に見ていただきたいと思っております。」

「うちの外務部は優秀だな。」

お世辞ではなく本気で褒めると、カミーユは苦笑した。

「私ではありません。ヴェリテをはじめとした部下たちが頑張ってくれているだけです。私はその頑張りを無駄にしないよう動き回っているだけですから。」

魚の上にかけられているクレソンの緑色とほろ苦さを噛み締めながら、宰相は、自分の娘の成長をしみじみと味わった。


後日、皇太后殿下の離宮入りが密やかに行われた。同時に後宮の整理も始まった。

「カミーユ・シンクレアに国家とこれらの品を託す。」

そう書かれた紙と共に、宝石などの皇太后殿下の品が外務部に運ばれてきた。


カミーユはその手紙をありがたく受け取ることにした。これで予算にも余裕が出る。

「皇太后殿下がそんなことを……ありがたくいただき、外務部の役に立つようにしたいと思います。」

その話を聞いた王妃は、いたく悔しがったという。


そして、大海を渡る大きな船を何艘も引き連れ、ピルケール王国の国王がやってきた。

「あんな大きな船、どうやって作るのか……。」

「新しい国だからと侮ってはなりませぬな。」

港で待ち受ける貴族たちのヒソヒソ声の中、現れた国王は、赤い髪を長く垂らし、筋肉隆々とした大男だった。歩く立ち居振る舞いは美しく、粗野な男とも思えない。優しく見える眼差しの奥には鋭い光が見えた。

「ピルケール国王は、小さな国の領主の次男だったそうです。戦いの駆け引きがうまく、自ら先頭に立って戦場に赴く英雄だと讃えられています。彼がピルケール国だけで満足しているのかどうか、見極める必要があります。」

宰相の元に届けられたカミーユからの情報だ。

気を引き締めて対応する必要があるな、と宰相は気合を入れた。


しかし、数日後。

「宰相。そなたの娘を妃として迎え入れたい。」

想像もしていなかった展開が、宰相を打ちのめすのだった。



読んでくださり、ありがとうございます。

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