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(14)服飾師フィーレは崇めたい

 服飾師フィーレは憤っていた。カミーユから令嬢がドレスの締め付けが原因で倒れたと連絡を受けたのだ。フィーレにとってドレスとは女性を美しく見せ、社交界という戦場で戦うための言わば戦闘服である。その服が女性にダメージを与えているとはどういうことだ。

「私が思うに、この、胸の下を締め上げすぎるのは良くないと思うのです。それが原因で息苦しさを感じたり、ダンスの後に倒れてしまうのではないかと。」

 フィーレにそう相談を持ちかけたのは医師のジョセフだ。フィーレもジョセフもあちこちの貴族の家に呼ばれることが多く、面識があった。そのジョセフもドレスによって女性達が苦しんでいるのではないかと言う。

 確かにドレスは一人で着られるように作られてはいない。コルセットも侍女が後ろから引っ張らなければ締められない。しかし、それは自分のことを人任せにするしかないということだ。


「コルセットを自分で緩められるようなものに変えるのが良いですわね。」


 フィーレの言葉にジョセフも頷いた。


「それができれば、令嬢達の気持ちも楽になるでしょう。」


 フィーレは早速コルセットの改良を始めた。後ろだから緩められないのであって、前に最後の紐の部分を持ってくれば、自分でも調節できるはずだ。ここまでは上手く行った。

 しかし、このコルセットをドレスの中につけ、さて緩めようとすると、問題が起こった。ドレスが邪魔で緩められないのだ。

 ドレスはそもそもその人に合わせて作られている。多少の幅はあるものの、コルセットをつけた状態を想定して作られているのだから、ゆとりの幅は小さくなる。

 試しにドレスを緩めた状態を基準として手直ししてみたが、最初の美しい形に歪みが生じてしまう。それは服飾師としては許せないものだった。


 フィーレが途方に暮れた頃、お茶菓子を持って訪れたのは、カミーユだった。


「お忙しいのに、また仕事を増やしてしまって申し訳ありません。」


 最近ドレスの仕事も、後回し気味になっている。それを噂に聞いたのかもしれない。


「いいえ。私にとっても大切な仕事ですから。せっかくだからお茶にいたしましょう。」


 フィーレの仕事場は二階にあるが、一階はドレスの採寸ができるような場所と、打ち合わせのためのテーブルがある。針子の一人にお茶の用意を頼むと、カミーユに椅子を勧めてから、フィーレも座った。


「コルセットを緩めることはできたのですが、ドレスの方が緩められなかったのですわ。」

「なるほど。例えば、ドレスも紐で調節できるようにするというのはいかがですか?」

 カミーユが提案してくるが、フィーレは首を横に振った。

「私どもが調節するならそれでも構わないのですが、見える部分ですからやはり難しいかと。」

 下手な調節の仕方をすれば、ドレスの変な部分に皺が寄ってしまうかもしれない。

「そうなのですね。布がストッキングのように、伸び縮みしてくれたらいいのですが。」

「伸び縮み……?」

 そのカミーユの何気ない一言に、思わずフィーレは立ち上がった。

「カミーユ様、カミーユ様の新しい服に少し工夫をさせていただいてもよろしいですか?」

「私の服ですか?お好きにしていただいて構いませんが。」

「ありがとうございます!しばしお待ちくださいませ!」


 カミーユの新しい執務服は、仮縫いの状態だった。その服に近づくと、フィーレは両脇の縫い目を取り払う。


「フィーレ様?」


 驚いた針子達が声をかけてくるが、フィーレは気にも留めなかった。


「誰か、新しいストッキングを持ってきて!」


「は、はい!」


 針子がよく分からぬまま持ってきたストッキングを切り取り、脇の縫い目にそれを当て、縫い始めた。少しでいい。コルセットが緩んだくらいの幅だけストッキングが広がるように。

 縫い終わった服と新作のコルセットを持って、フィーレはカミーユの所へ戻った。

「カミーユ様の思いつきを形にしてみましたわ。試していただいてもよろしいですか?」

 言われるがままに、カミーユはコルセットをつけ、仮縫い状態の服を身につける。針子達がその様子を息を詰めたまま見つめていた。


「では、コルセットを緩めてみてくださいませ。前に持ってきた紐を解いて、少しだけ。」


「分かりました。」

 服の中に手を入れてカミーユは紐を調節する。すると、おや、という様子で、眉が開かれた。

「きつく感じませんね。」

「少し見せていただいてもよろしいですか?」

 フィーレはカミーユに近づき、脇の部分を確認する。服に変な皺はできていない。緩めた分ストッキングの部分が見えているが、これを目立たないようにすればいいのだ。ギリギリまで調節し、美しく見せるようにする。それこそフィーレの腕の見せ所だ。


 感激のあまり、フィーレはカミーユの手をぎゅっと握りしめた。


「ありがとうございます!カミーユ様は私にとって暗闇を照らす女神にも等しいお方です。今後どのような注文でも、命を賭して受けさせていただきますわ!」


 カミーユは一瞬目を丸くした後、月の女神のように微笑んだ。

「では……この工夫をぜひ私の友達のドレスにも施していただけますか?それから同じように困っている女性達にも。」


「もちろんですわ。ただ、少しお時間をくださいませ。この『魔法の縫製』を完璧にいたしますので。」


 この後、フィーレの作るドレスは「翼が生えたように軽い」と評判になる。自分のお気に入りのドレスを仕立て直して欲しいとこっそり訪れる貴婦人が後を絶たなくなった。フィーレは彼女達のコルセットを緩め、脇に魔法の布を忍ばせながら、最後にこっそりと囁くのだ。


「これは、カミーユ様が授けてくださった、『自由への鍵』なのですわ。」

 と。

カミーユも下着としてコルセットを身につけていますが、ドレスではないので、緩やかな感じです。ブラウスの脇がちょっと伸び縮みする感じだと思っていただければ。


読んでくださり、ありがとうございます。

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フイーレ嬢ゎ偉大な服飾家である( ・`д・´)b 中世ヨーロッパでゎ子供服の概念が無くて、大人用をそのまま縮小して着せて居たため……子供もコルセットしてたそーですね?子供の肖像画の顔色が悪い理由や子…
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