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(12)カミーユは友達を助けたい

コメディ少なめです。

これで年内の投稿は終わりになります。

良い年を迎えられますように。

 カミーユは何度目かも忘れてしまったロクサーヌ嬢達とのお茶会を楽しんでいた。小説の素晴らしさに、感想を手紙で書いて渡したところ、他の令嬢達も「実は私も……。」と言って書いたものを見せてくれるようになった。それを読んで感想を手紙で渡すことが、お茶会の定番となっていた。どの令嬢も顔を赤らめながら大事に手紙を受け取ってくれるので、カミーユはそれだけでも嬉しかった。

 ただ、今日はカミーユの右隣に座る令嬢が、カップを持ったまま、何やら思い悩んだ顔をしている。ふわふわとした金髪と、可愛らしい桃色の唇をした令嬢。名前は確か、ヴェリテだった。カミーユに本を貸してくれた人だ。

「ヴェリテ様。今日は何か思い悩んでおられるようですが、何かお困りなのですか?」

 カミーユが声をかけると、ヴェリテはハッとしたようにカップを置き、ぎこちない笑みを浮かべた。

「楽しいお茶会の最中に申し訳ありません。私のことはお気になさらず。」

 その様子に、ロクサーヌ達も顔を見合わせた。カミーユはヴェリテの両手をぎゅっと手を握る。

「何をおっしゃいますか。私たちはお友達ではないのですか?友達とは楽しい話だけではなく、悩みも共有するもの。貴方のその憂い顔を取り除くお手伝いをさせていただきたいのです。」

 ヴェリテは顔を赤らめ、打ち震えている。

「素晴らしい。素晴らしいですう。」

 ロクサーヌ嬢が何やら猛烈な勢いで手元の紙に何かを書き始めた。どうやら小説の神様が降りてきたらしい。最初はカミーユもびっくりしていたが、最近は慣れてきたので放置である。後で楽しく読ませてもらうことにする。

「ヴェリテ様。ぜひお聞かせくださいな。私も心配なのです。」

「私もですわ。」

「私も。」

 何人かが声をあげると、ヴェリテも安心したらしい。桃色の小さな唇をそっと開けた。

「実は、結婚を勧められておりますの。」

「まあ、おめでたい話ですの?相手はどなた?」

 華やいだ声で質問する令嬢とは裏腹に、落ち着いた声でヴェリテは答えた。

「グライフスヴァルト伯爵家の当主様です。」

 名前を聞いた令嬢達がしんとなる。カミーユもその名前を知っていた。評議会にも名を連ねており、王妃派閥に属している。確か年齢は40近かったはずだ。

「その方は奥様がいたのでは?」

「それが、昨年亡くなられたのです。それで後添いにと。」


 おめでたい、と素直に言えない状況に、令嬢達が黙り込むと、ヴェリテが慌てて笑顔になる。

「私の家ではお断りするなんてできませんから。家格の上の方と結婚できるだけで喜ばなければなりませんわ。ただ……。」

「ただ?」

「こちらのお茶会の参加は控えろと、父が。せっかくカミーユ様ともお友達になれましたのに。」

 ヴェリテの目に涙がぷくりと盛り上がる。ヴェリテは慌てて扇子で顔を隠した。

「ちょっと目にゴミが入ったようです。失礼いたしますわ。」


 ヴェリテが席を立つと、令嬢達はため息をついた。

「そんなところにお嫁に行かなければならないなんて。」

「二十近くも年が離れておりましてよ。」

「きっとあの可愛らしさが目に止まりましたのね。」

 どう考えてもヴェリテのあの様子は、喜んではいなかった。ただ、断ってもヴェリテの名前に傷がつく。他の人との結婚も難しくなるだろう。それはカミーユが一番わかっていることだった。

「ヴェリテは好いた人などはいないのだろうか?」

 カミーユが聞くと、令嬢達はくすくすと笑う。

「ヴェリテは本と結婚したいと言ってましてよ。」

「相手の方がたくさん本を用意して結婚しようと言ったらついて行ってしまうかも知れませんわね。」

「ただ、それが許されるかどうか。」

 家によっては、女性が本を読むなど小賢しいと言われることもある。ここにいる令嬢達はどこも下級貴族であり、それほどうるさいことは言わないだけだ。

「その、結婚しないという選択肢は持てないものだろうか。」

 ロクサーヌが首を振る。

「カミーユ様。私たちは結婚し、子供を産むのが役目、と言われております。それが義務だと。」

 家を絶やさないために。それだけを言われて育てられてきた令嬢達に、他の道など見つからない。思いついたように他の令嬢が口を挟む。

「結婚しないのを許されるのは、王宮女官くらいでしょうか。」

「王宮女官。」

 王妃や王太子妃の側に使える侍女達だ。しかし、王妃の周りは帝国から連れてきた侍女達が占めており、現在王太子妃はいない。

「わ、私が王太子妃であれば……。」

 上擦った声でカミーユがいうと、その場が凍りついた。

「カミーユ様が王太子妃になられておりましたら、今頃私たちとこのような話はできておりませんわ。」

 取りなすように話すロクサーヌの声を聞きながら、カミーユは考えた。

 他に。他に方法はないだろうか。ヴェリテの貸してくれた本はヴェリテ自身が他国の本を翻訳し、写したものだった。字も非常に美しかった。

「……あ。」

 カミーユが思いついたのと、ヴェリテが帰ってきたのは同時だった。

「中座してしまい、申し訳ありませんわ。」

「ヴェリテ嬢。私と一緒に働いてみる気はありませんか?」

「……はい?」

 ヴェリテは何を言われているかわからない、と首を傾げた。

「私の今いる部署では、外国との交渉を担っています。ヴェリテ嬢の才覚であれば、私の片腕として働けるはす。考えてみてはくれませんか。」

「カミーユ様、それはひょっとして。」

 結婚という未来に思い悩む自分を思い遣ってくれたのだと、ヴェリテにはすぐに分かった。

 しかし、これは、多分最後のチャンスなのだ。ヴェリテは一瞬目を閉じると、カミーユをまっすぐにみた。

「父を説得できたら、お受けしてもよろしいでしょうか。」

 ぱあっと、周囲の令嬢の顔も明るくなる。

「もちろんだ。私も父に根回しをしておこう。」



「女性文官など、前例にない。それを急に増やせだなどと。」

 カミーユは家に帰って宰相である父と話をしていた。ヴェリテを自分の働いている部署で働かせて欲しいと頼んだのだ。父親は難しい顔をしているが、カミーユは引き下がらなかった。

「ヴェリテはフレランジュの言葉も帝国の言葉も翻訳できます。字も美しい。外交文書を作る手伝いをして欲しいのです。」

「……何か事情があるのではないか?」

「実は……。」

 カミーユが事情を話すと、父親は分かったというように頷いた。

「なるほどな。そういことなら、私も一肌脱ごう。」

「よろしいのですか?」

 ヴェリテの才覚を見せるためのテストでもしなければならないかと、カミーユは覚悟していた。

「なに、お前のやりたいことと、私のやりたいことが一致しただけだよ。」

 宰相は意味ありげに微笑んだ。


読んでくださり、ありがとうございます。

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