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(11)ロクサーヌ子爵令嬢は眠れない

 11

 ロクサーヌ子爵令嬢は眠れぬ夜を過ごしていた。自分たちのお茶会に崇拝しているカミーユ様がいらっしゃるのだ。しかも、本について語り合いたいという。お茶会の誘いの返事には、本を作っている皆様とお会いできるのを楽しみにしていると書かれていた。

(どうしよう。何を話せばいいのかしら。)

「カミーユ様……。」

 ロクサーヌは枕元に置いてある、カミーユの刺繍の入ったハンカチを出して広げ、うっとりと眺めた。

 ロクサーヌがカミーユに会ったのはミュゼラ姫との観劇の時だ。当然話しかけたりはしていないので、ロクサーヌが一方的に顔を見ただけである。

 あまりの美しさに呆けてしまい、劇の内容はほとんど覚えていなかった。むしろ二人の様子を見て妄想が爆発していた。元々恋愛小説を読むのが好きだったロクサーヌは趣味が高じて自分好みの恋愛小説をこっそり書いていた。しかし、カミーユの美しさを文で表そうとしても、満足できず、ロクサーヌの部屋にはくしゃくしゃにした紙が大量に散らばることになった。

「ロクサーヌ様、何かお悩みでもございますの?」

 心ここにあらずといった様子で本好きのお茶会に参加していたところ、他の令嬢に心配されてしまった。

「申し訳ありません。実は、ある方をモデルにした小説を書きたいと思っているのですけれど、上手くできませんの。」

「まあ。ロクサーヌ様も?」

「も?」

 驚いて顔を上げると、そこには顔を赤らめた同好の士が、そっと薄い本を差し出していた。

 それからお互いに語り合うようになった。その噂を聞いて参加してくる令嬢もおり、ロクサーヌ達の書いた薄い本は、あちこちで読まれるようになっていた。

 しかし、ロクサーヌはまだ自分の文章に自信が持てない。あの美しさを表せていないことは自覚していたのだ。

 カミーユ様を知るためにも、聞きたいことは山ほどあるのだ。好きな色、好きな食べ物、趣味……。本がお好きと聞いたけれど、自分の趣味と合うのだろうか。違っていても構わない。

『もしよろしければ、お貸しいたしましょうか。』

 なんて言われたら、どんな難しい本だって頷いてしまうだろう。


 ロクサーヌはハッと、起き上がる。

(もし、もし、カミーユ様が私たちの書いたものをご覧になりたいと言ったらどうしましょう。)

 貴方をモデルにして書きましたなどどは到底言えない。もちろん名前も爵位も変え、すぐには分からないように書いているが、短髪の令嬢などというのは、カミーユ以外にいないのだ。

 悩んだ挙句にロクサーヌは、短髪の令嬢を全て男性に変えたものを作っておくことにした。いざとなれば、それを見せよう。

(カミーユ様がご覧になるかもしれないから……)

 ロクサーヌはそれはそれは丁寧に文字を書き綴った。

 終わる頃には、外が白々と明るんでいた。



「お招きいただき、ありがとうございます。」

 微かにはにかみながら礼をするカミーユに、ロクサーヌは心臓をギュッと掴まれた気分になりながら、平静を装ってカーテシーをする。

「こちらこそ。本がお好きな方と聞いて、楽しみにしておりました。今日は存分にお話しいたしましょう。」

 カミーユの席は上座になる。周りの令嬢もそれぞれ立って、カーテシーをしながら挨拶を交わした。

 今日のお茶や茶菓子の話の後、ロクサーヌは主催者として、カミーユに尋ねた。

「カミーユ様は、どのような本がお好きなのですか?」

「他国の歴史や文化の本などは、旅をしているような気分になり、とても楽しいです。それから、その、恋愛小説なども好きです。」

 恥ずかしそうに言うカミーユ様の可愛らしさをロクサーヌが脳内に焼き付けていると、他の令嬢が声をかける。

「私も恋愛小説が好きなのです。どのような方の本をお読みになりますの?」

 カミーユが有名な作家の名前を上げると、令嬢たちから上品な悲鳴が上がった。

「まあ!あの方の描かれる一途な愛は、涙なくして読めませんわ。」

「名前は仮名で、どこのどなたが書かれているのか分からないところも、魅力的で。」

 堰を切ったように話し始める令嬢たちに、カミーユは戸惑いながらも笑顔を返した。

「私も好きですわ。新作もお読みになりまして?」

 その中の一人がそう尋ねてきた。

「いいえ。最近は仕事が忙しくてなかなか。」

 カミーユがそういうと、令嬢は目を輝かせて身を乗り出した。

「もしよろしければお貸しいたしましょうか?」

「よろしいのですか?」

「ええ!ぜひ感想を話し合いたいですわ。」

「それは楽しみだ。」

 嬉しそうに笑うカミーユにうっとりしながらも、ロクサーヌは焦った。一歩出遅れてしまった。何か対抗できる本は……と考えていると、カミーユが思い出したようにロクサーヌの方を向く。

「そういえば、ロクサーヌ様は自分でも小説をお書きになると聞きました。素晴らしい才能をお持ちなのですね。」

 カミーユ様に褒められてしまった。思わず顔を赤らめながら、ロクサーヌは平静を装った。

「い、いえ。そんなことは。ただ、自分好みの話を読んでみたかったので、書いてみただけですわ。」

「皆様も、その小説をお読みになっているのですか?」

 カミーユが聞くと、令嬢達は一斉に視線を逸らす。

「え、ええ。とても素晴らしかったですわ。」

「ロクサーヌ様は、登場人物の気持ちを書くのが本当に上手ですの。思わず涙してしまいましたわ。」

(自分たちだって書いてたくせに!)

 カミーユをモデルにした小説を書いていたことは皆伏せておきたいらしい。

「私も、そのお話をぜひ読ませていただきたいです。」

 そう頼まれて、断れるわけがなかった。昨日徹夜で書き上げた薄い本をカミーユに差し出す。

「拙い文章で恥ずかしいのですけれど。帰ってからお読みになってくださいませ。目の前で読まれるのは恥ずかしいのです。」

「もちろんです。帰ってからの楽しみができました。本当に嬉しい。次にきた時、感想を話すのは構いませんか?」

 ロクサーヌはカミーユが自分の作品を絶賛するところをちょっとだけ想像した。それだけでのぼせてしまいそうになった。

「で、できればお手紙でいただけると嬉しいですわ。」

 部屋のベッドの上で読む分には倒れても問題はないのだ。

 こうしてロクサーヌのお茶会は無事に終わったのだった。


目の前で自分の文章読まれるのは、苦手です。恥ずかしいですよね?


読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
カミーユたんが楽しそうで、幸せそうで(////)めっちゃ嬉しい♡ ご多忙な中でも読者に素敵な物語を贈って下さる優しい作者様にも*.✧Merry Christmas✧*.感謝を込めて♡
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