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DAY8 初めての決戦前夜

夜明け前。世界はまだ浅い青。

息を吸うたび、胸が冷える。


拠点の室内は静かだ。

昨夜打ち込んだ釘が、

かすかに月光を拾っている。


腹は鳴らない。眠気も切れた。

やることは山ほどある。

ぐずぐずしてる場合じゃない。


狂乱の血死潮(クリムゾンムーン)”まで、あと1日。


スマホを起動。依頼アプリを開く。

依頼は好きなタイミングで取っていくスタイル。


しかも、対象区域で討伐なり回収=引き渡しすると

勝手に依頼が完遂され、報酬が支払われる。


今日の掲示板はこんな感じだ。


・【収集】乾いた枝×20/布切れ×8

・【補給】種袋トウモロコシ×1

・【交換】釘1束⇔ゾンビペイ200

・【掃討】ウォーカー2体の確認


「……近場優先。命は一つ」


クエスト受注。ピロン、と軽い音。

依頼の地図ピンが、拠点のすぐ裏に灯る。


棍棒(マイサン)は昨日で殉職(じゅんしょく)


哀愁を残し遠い目を向け静かに合掌…


今日は鉄パイプに持ち替え。

握ると、冷たさが掌に貼りつく。



窓の隙間から外をうかがう。

影は薄い。風だけが草を撫でている。


「行くか。短期決戦、速攻帰還」


――


裏庭に転がる板切れを(あさ)る。


小枝は多い…が、太い板は少ない。


ためしにクラフトを立ち上げて、

小枝を「合板」にできないか試す。


【合成不可:素材のスケール不足】


「ですよねぇ……小さい→デカいは無理」

スキル次第では何とかなるのか?


代わりに「短い板」がクラフト可能に。

数を作って、窓の内側へ斜め打ち。


鉄パイプで釘の頭を叩く。

カンカンカン…釘の音が妙に大きく聞こえる。

……補強音がBGMとか、不安すぎ。


壊れかけの鉄パイプを確認する。

傷だらけ。少し曲がってる。


「修理ボタンは……」


探すが見つからない。


【修理不可:交換を推奨】


「直せないのかよ。作るのは出来るのに」

「修理NGって……サブスクよりタチ悪いな」


そう、これは“便利そうで”

肝心なところは置いてけぼりだ。


・クラフトは素材をカメラで撮って合成

・質量以上のものは合成不可

・でも「食料」は生めない!作れない !

保存庫ストレージも無い

・大きすぎる物/精密機械はスキル必須

・修理は基本不可。作り直し


「覚えた。覚えたけど、厳しい」


「マニュアルに“優しさ”の項目が欲しい」


ゲームの世界観には間違いないが、妙に現実的な所がある。


――


暗くなる前に素材を集めに出る。



路地でウォーカー2体に遭遇。

よろけた足取り。腐った息。


背筋に冷たい糸が走る。


「うわぁぁ……来るなって!」


1体目の足首をパイプで払う。

ぐにゃ、と嫌な手応え。転ぶ音。


2体目が腕を伸ばす。

近い近い、まずい。


床板に残った釘を拾い投げる。


カチン、と額に当たり、

一瞬だけ顔が跳ねた。


「今っ!」


のど元にパイプを押し込み、

体重を乗せて壁に叩きつける。


矢継ぎ早に、転倒ゾンビに一撃


「サービス残業っ……勘! 弁!」


崩れる音。息が荒い。心臓がうるさい。


……背中の汗が冷えてゾワッとする。


足元の静けさを確認。よし、終わり。

依頼アプリで「掃討」にチェック。

ピロン。小さな達成音が可愛いのだけムカつく。


「効果音だけ可愛いの、やめろよ……」


――


帰りがけ、路地の箱から「ボロボロのパイプ」発見。


撮影→クラフト。鉄パイプを作成

地図で拠点を確認白い枠が現れ、可視化されている。


「見える化最高、生存のグラフ化」


拠点に帰り狂乱の血死潮(クリムゾンムーン)の備えをする。


フェンスの残骸を「短い板」で繋ぎ直し、

窓の内側は交差貼りで補強。


入口はL字に家具で迷路化。


罠じゃないが、簡易的なバリケードで

時間は稼げる。


釘が足りなくなったので、

依頼アプリ経由で「交換」へ。


ギバーのカウンターでQRコードをかざす。


【ゾンビペイ:200 支払完了】


この世界の通貨はQRコード決済の

キャシャレスもしくは物々交換である。


討伐や交換報酬でゾンビペイが手に入る。

しかし、こんな世界で電子通貨に意味あるのか疑問ではある。


なんとまぁ…現代的ではあるが…まぁ良しとしよう。


釘1束を受け取り、ポケットに落とす。

ついでに「種袋」の引き渡しも完了。


レシートは不要。生きて戻るのが領収書だ。


「よし。もう一ラウンド」


――


夕方。拠点へ戻って最終チェック。

壁の隙間は布と土で目張り。

床のきしみ箇所に薄板を載せる。

逃げやすい動線を一本、頭に刻む。


スマホの画面にふと「ラジオ」の設計図が出る。


胸がざわつく。欲しい…けど――


【作成不可:精密工具Lv1が必要】


「はい解散。また今度な、文明」

「スマホあるならラジコでしょ??」


「ってかLv1って、誰が研修してくれんの?」


息を吸う。吐く。吸う。吐く。

胸の奥の怖さは、まだいる。

でも、昨日より薄い。手順が味方だ。


空は鈍い灰。月はまだ白い。

今日はもう走りたくない。


ドアに横木を渡す前に、

スマホの地図で拠点をもう一度確認。


白枠の中に、自分の影だけがある。


「準備、完了。……たぶん」


パイプを横に置き、耳を澄ます。

遠くで一声、犬の遠吠え。沈む気温。


明日は赤い月の夜(クリムゾンムーン)が…くる。


俺は深くうなずき、

静かに扉の横木を落とした。

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