DAY7 我が家へようこそ
灰色の空の下、拠点候補の家にたどり着いた。
外見はボロボロだが、家としては姿を残している。
「……ここだな。今日の仕事場になる」
腹の底がぞわぞわする。
静まり返った街並みで、ここだけが不自然に沈黙しているように思える。
俺は唾を飲み込み、無理やり気合を込めて前に足を踏み出した。
「あー怖ぇークソっ!いくぞ!」
「って、はい!忍び足ぃぃぃ」
棍棒を握り直し、そっと扉を押す。
――ギィ……。
嫌な音とともに、埃と腐臭が流れ込む。
「臭ッ」
一瞬で鼻の奥が痺れ、胃の底がひっくり返りそうになる。
足を踏み入れた瞬間。
「……チッ」
奥の影が、ゆらりと動いた。
ウォーカー。
顔の皮がずり落ち、濁った目が俺を射抜く。
その目に映る“生者”は俺ただひとり。
呻きながら、襲いかかる。
「うわ、出たな腐乱フェイス!」
無理やり軽口を叩いて恐怖を誤魔化す。
しかしウォーカーの攻撃は単純。
ただ飛びかかって来るだけ。特に昼間は雑魚!雑魚!
棍棒を振り抜く――ドゴッ!
鈍い音。だが倒れない。
よろめきながら、まだ手を伸ばしてくる。
「しつけぇんだよっ!」
二撃、三撃。ようやく頭を砕き、
ゾンビは床に崩れた。
……安堵。息をつく。
だが、息つく間を与えないのが、お約束。
心臓の鼓動はまだ早鐘を打っている。
――背後から複数の呻き声。
玄関の隙間から、さらに影が二つ、三つ。
反射的に振り向く。
「……で、ですよねぇ……」
肩を落とす俺…
「はいはい、ゾンビゲーあるある。次々ご来店かよ」
「いらっしゃいまぁ…せっ!!」
恐怖で背筋が凍る。だが足は止まらない。
棍棒を振り回し、必死に立ち回る。
額の汗が目に入り、息が喉に詰まりそうになる。
だが――バキィッ!
「へっ?」
手に衝撃。棍棒が途中で折れ、
無様に床へ転がった。
「へっ!?えぇぇぇぇぇぇぇえー?」
「嘘だろぉぉぉぉマイサァァァァン!!」
叫びが勝手に漏れた。
俺の戦友、愛しの棍棒――短すぎる別れ。
「お前だけは裏切らないと思ってたのにっ!」
「バカバカバカッもう作って上げないんだからぁぁ」
涙目になりながらも、背後からのウォーカーが迫る。
「うぅっ…きゃぁぁぁぁぁー」
家の中を走り回る。
「なっなにか…殴るものっ??」
周りを見渡すし咄嗟に視界の鉄パイプを掴み、構える。
重いが、握りやすく、手にしっくりくる
「きたきたきたきたぁぁ……まだだ、終わらせねぇ」
息を吐き、気合を込める。
「はぁぁぁ、ゲーム廃人の呼吸…
インドアの型……辟易一閃」
ウォーカーの横を掻い潜り鉄パイプを振り抜く。
鈍い音と共に、ゾンビの頭が床に叩きつけられた。
骨の砕ける手応えが、腕から肩へと伝わる。
その勢いのまま振り向き、後ろのウォーカーにも一撃。
「はぁ…はぁ…はぁ…ふぅ、決まった!これで、終わりか?」
疲労で震える手を握り、息を切らし、荒れた部屋を見回す。
「はぁはぁはぁ」
5秒…10秒…静寂……ようやく全て片付いた。
「はぁはぁはぁ」
膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。
汗でシャツが背中に貼りついて気持ち悪い。
――その時、スマホが震えた。
【SYSTEM】「レベルアップ」
「はぁはぁはぁ……は? マジで?」
半信半疑で画面を見る。
知力、体力、器用さ、筋力の数値が少しだけ上がっている。
シーン…
「……えっ? 何か変わりましたか?
ねぇー何か変わりましたか?」
実感はゼロ。体は同じ。
だが画面は、確かに“成長”を示していた。
「レベルアップとか
マジでゲームの仕様そのまんまかよ……」
どこまでゲームでどこまでが現実か分からない 状況に
呆れ半分、震え半分で笑うしかなかった。
肩で息をしながら、
床に転がるボロボロのペグを拾う。
「まぁいい。考えるのは後、とりあえずコレだな」
スマホをかざし、クラフトアプリを起動。
光と共に、新しい主張ペグが4本完成する。
外に出て、家の四隅に突き立てる。
白い線がマップに浮かび、拠点マークが現れた。
「……よし、これで“俺の家”だ」
生の実感と達成感が湧いてくる。
声に少しだけ力が戻る。
汗を拭い、鉄パイプを肩に担ぐ。
口元がかすかに笑った。
まだ不安は消えないが…
でも、確かに“一歩前進”した。
――ぐずぐずしてられない。
“狂乱の血死潮”まで、あと4日……。




