DAY47 怪しい訪問者とプロフェッショナル
ドゥドドドドドッドッド……ドルンッ
カチャンッ。
ゆっくりバイクの、
サイドスタンドを下す。
バイクからは降車せず、周囲を見渡す。
セントマーク病院が見えている。
あと3回夜も過ごせば、
狂乱の血死潮がやってくる。
目印になる大きな木の陰に
目立たないよう、
深い緑のシーツを被せ、
病院から少し離れた場所に、
バイクを隠しておく。
誰が来るか分からないし、
何より気配を晒したくない。
サバイバルの状況において
人の気配は極力削る努力をする。
生存本能が略奪者を作り出す。
ましてや過酷な世界だと尚更。
隼人は周囲を見渡し、
潜伏ポイントを探す。
まずは、病院近くの飲食街…
小さな商業施設が集まった場所。
しかし建物は軒並み低く、
建物としての構造も脆弱だと判断する。
隼人(やっぱり病院施設の方が、
潜伏にはいいんだけど…)
隼人が気が乗らないのには、
理由がいくつかある。
病院は医療品の宝島みたいな場所。
医療品は高く売れるし、
何より命を繋ぐためには必須アイテム。
枝で足を切っただけでも、
この世界では命取りになりかねない。
公衆衛生が崩壊した世界は、
言わば不衛生な世界と言い換えれる。
文明が退化した世界の天敵は、
感染症である事を隼人はわかっていた。
セントマーク病院正面は、
大きな駐車場になっている。
右側に地下駐車場の入り口があり、
その奥には4階建てのビル。
委託企業用の、
セントマーク病院別館。
隼人(さてっと…掃除しますか)
大き目な施設には、
別館を設けてある事が多い。
病院も守秘義務の保守や、
作業エリアの確保と分割は、
効率的だという事は、言うまでもない。
無造作に割られた入口に
壊された自動販売機。
隼人はスマホに爆竹を、
クラフトするように呼び掛ける。
手に現れた爆竹に火をつけて、
爆竹を建物に投げ入れる。
パンッバチバチバヒバチ…
火薬が派手にはじけ飛ぶ。
大きな音を鳴らし爆竹が暴れまわる。
暴れつかれた爆竹がぐったりする。
ウォオオオオオオ…
うなり声を上げながら、
活発にゾンビが動き出す。
隼人「1、2……4…7?8…8体。」
ハンドガンに、
簡易消音器を取り付る。
1体、2体と外に出てくる。
パシュンッパシュンッ!
隼人は頭の中心を、
正確に打ち込んでいく。
簡易消音器は5発が限界。
残り3体はナイフで仕留める。
隼人にとって昼間のゾンビは、
生きている素人より扱いやすい。
ゾンビになった時点で、
ゾンビは学習する事はないから。
**********
大方ゾンビも片付いたから、
ペグを出して建物周辺に刺していく。
板を繋いだもので、
入口の扉や1階部分の窓を、塞いで潰す。
適当に板を叩きつけ、
所々隙間も作る。
隼人は建物の
適当なパイプ椅子を持ってくる。
わざと投げつけ、
さらに複雑に組み、
他の侵入者を阻む。
潜伏にはコツがある。
雑に強固に導線を塞ぐ事。
壊れた演出は人間を錯覚させる。
あっ!もう荒らされた後なのかな…とか。
ゾンビが居そうだな…嫌だな…とか。
ゾンビは隙間があっても、
思考が無いから、そこを掻い潜る事はしない。
ゾンビの腕を叩き切て、
変色した血を無造作に撒いていく。
動かないゾンビを少し並べ
ゾンビが伏せて寝かせ、
あたかも寝ているように演出をする。
2階と1階の踊り場まで、
パイプ椅子やテレビや収納などを
無造作にばらまく。
侵入者が侵入に、
時間がかかる様にする。
非常用出入口も同様に潰す。
こちらは最低限の広さで、
潰すのに時間は掛からなかった。
隼人(さて、屋上を確認しておくか…。)
隼人は狂乱の血死潮の待機位置を考える。
今晩は4階で過ごし、
本番は屋上で身を潜める。
残ったパイプ椅子に、
ゾンビの死体を座らせる。
帽子を目深に被らせ、
シーツで覆い隠す。
侵入者が4階のドアを開けて、
目に入る位置にゾンビを配置する。
そしてドアの付近。
ゾンビの対角に、
隼人はパイプ椅子に座る。
”ミスディレクション”
視界の最初に、
人間”らしき”人物の情報が、
目に飛び込んでくる。
人間の脳みそは、
同時に二つの情報処理が出来ない。
”人が座っている?”と認知した瞬間に、
”ドアの近くに隠れている?”とは
情報処理しようとしても、しない。
思い込みによる、
心理誘導の基本中の基本。
ハンドガンを胸元に添え、
腕を組むように眠りにつく。
コンクリートが寒気を吸い込み
冷えた空気が、床に沈んみでいく。
**********
2回目の夜が来る。
隼人は昼間の状況を反芻する。
昼間に2人組の人間が、
セントマーク病院に入っていく。
その前に大きな男も、
単独で入っていくのを確認した。
隼人(狂乱の血死潮を、
あの人数で過ごすとなると…荒れそうだね…。)
隼人には所詮、他人事…
離れた場所に居れば問題ないと知っている。
昨日と同じ配置に座り、
ハンドガンを胸に添え腕を組み目を瞑る。
隼人は長く熟睡する事は無い。
特殊な訓練と環境で、
そう体に刷り込まれていた。
1時間…3時間…6時間
時間がゆっくりだが、
確実に進んでいく。
カチャ…
隼人は思考は、
瞬時に臨戦態勢に入る。
しかし椅子からは動かない。
聞き耳を立て、
迷い込んでくるのを待つだけ。
パイプ椅子を押し込むほど、
絡みあう構造に組み上げている。
隼人(あきらめて…ない、ね。)
10分ほど物音が聞こえてくる。
気づけば朝日が、
視界を鮮明にしていく。
物音が聞こえなくなったが、
代わりに気配が濃く感じる。
隼人は決して超能力者では無いし、
信じてもいない。
しかし経験からの勘は、
大切にしている。
隼人(まいったね…殺るか…。)
隼人のスイッチが入る。
殺意や殺気は必要では無い。
覚悟さえあれば反応するだけ。
ドアの前で足音が停まる。
スライド式のドアノブに手がかかる。
足がドアを跨ぎ、
部屋の敷地に入ってくる。
「だっ大丈夫ですかッ」
男がパイプ椅子に、
座ったゾンビに駆け寄る。
ゾンビ肩を触り、
男は声をかける。
「隼人さん!大…丈……。」
隼人は背後に回り、
銃を構え、後頭部に銃口を向ける。
**********
隼人は黙ったまま、
銃を押し付ける。
しかし内心、驚きを隠せない。
隼人(誰だコイツ?
なぜ名前を呼んだ?
なぜ名前を知っている?)
銃口を突き付けられた男は、
反射的に両手を上げる。
「ままままっまった!
まった!待ったッ!?待ったッ!!!
撃たないで下さい。撃たないでッ!」
隼人「……誰だ?」
一馬「かっ、一馬!一馬ッて言います。」
隼人「知らないな…。
もう一度聞く…誰だ?」
一馬は隼人の態度に、
正直、虚を突かれた。
一馬は愛想のいい、
隼人の記憶しかない。
しかし後ろで銃を構える、
隼人の声には感情が感じられない。
一馬「………」
静かに放つ、
隼人の冷たい殺意に言葉が出ない。
隼人「……時間切れだッ」
ドンッ
電源が切れた
モニターのように視界が暗くなる




