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DAY40 失敗の悔恨と支配による圧

拠点の扉が閉じた瞬間、

外の世界は完全に遮断された。


黒羽(クロウ)(今回も…仕留めそこなった。

そしてなぜ?、あの男が?)


湿気に交じる埃とカビの匂いが鼻につく。


赤い月は消え

銃声も、血の匂いも

すべてが、朝の空気に押し流されている。


だがクロウの胸には、

何一つ“終わった”感覚はなかった。


一室に入り上着を脱ぐ。


左肩に激痛が走り、

思わず奥歯を強く噛みしる。


更に肌着をナイフで裂き、

左肩を露出させる。


弾は貫通はしていない。

しかし致命傷というわけではない。


それでも、

内部に残る鈍い痛みが、

一定の間隔で刺すように思考を止める。


(……二度)


脳裏に浮かぶのは、

同じ顔の男に、

そして顔なじみの男の顔。


一度目。

確実に仕留めれたはず(・・)の場面で、

殺せなかった事。

二度目。

完璧な射線。

距離、風、角度、すべて揃っていた。


絶好の好条件の中での狙撃。


それでも……。


(ふざけるな)


思わず力が入るが

左肩が強く脈打つ。


(失敗は、許容範囲だ。)


だが、前回と今回の失敗は何か違う。


黒羽(クロウ)にとって、

それは“誤差”ではない。


何処からともなく世界の力が、

自分の計算を否定したような瞬間だった。


女「代わって下さい。」


黒羽(クロウ)「……葵」

葵「痛いですよ」


葵が近づき、

ナイフの先を傷口に差し込む。


黒羽(クロウ)「ぐッッッ」


手際はとても静かで、

慣れた動きをしている。


弾を取り出し、消毒をしてから

医療用タッカー(スキンステープラー)

で傷口を塞ぐ。


治療は終わり葵は席を外す。

クロウは天井を見つめたまま、

何も言わない。


狙った相手は怪物ではない。

超常の物でもない。


それなのに、なぜ?

“来る”と分かっていた?


それが、

一番腹立たしかった。


奥方から、足音がする。


ゆっくりで、

ためらいのない歩調。


空気が、変わる。


朱華(しゅか)だ。


女帝は、

黒羽(クロウ)の前に立つと、

まず肩の包帯に目を留めた。


品定めをするかのように、

1秒…2秒…。


そして、

小さく息を吐く。


朱華「……無様ね」


黒羽(クロウ)の喉が、

わずかに鳴る。


黒羽(クロウ)「……だまれ」


朱華は、

それを聞いて笑った。


朱華「ふうん」


朱華はゆっくりと近づいていき

左肩をゆっくり力を入れて掴む。


黒羽(クロウ)「ぐッ!」


朱華「痛む?」


黒羽(クロウ)は睨みつける。


次の瞬間、

指が、包帯の隙間に滑り込む。


そして、

更に朱華の手に力が入る。


肉が押し広げられ、

神経を直接掴まれる感覚。


「――ッ……!」


激痛で、視界が一瞬揺れる。


朱華は、その反応を楽しんでいる。


朱華「ねえ、黒羽…

あなた、何をしに行ったの?」


黒羽(クロウ)の拳がしびれ震える。


朱華は、

黒羽(クロウ)の表情を覗き込む。


朱華「……ああ、その顔…

お前、悔しいのね」


指が抜かれる。


血が、

じわりと滲む。


朱華は立ち上がり、

黒羽を見下ろした。


朱華「まぁ、いい」


理由など、ない。

気分だ。


朱華「でも――」


少しの沈黙が流れる。


朱華「三度目は、私がお前を殺す。」


その言葉が、

場の空気を縫い止める。


朱華「落ち着いたら、私の所にこい!」


朱華は(きびす)を返し、

何事もなかったかのように去っていく。


残されたのは、

静寂と、痛み。


黒羽(クロウ)は、

ゆっくりと呼吸を整えた。


悔しさより怒りを感じる。


黒羽(クロウ)(次は……)


頭の中で、

思考を巡らせる。


二度、仕留め損なった。


だからこそ

次は、確実に終わらせる。


それだけが、

今の黒羽(クロウ)を支えていた。

________


______


____


瓦礫のような建物の

隙間から、

六花は遠くを見ていた。


距離を取り、近づく必要は特にない。

見るべきものは、

すでに十分に見えていた。


セントマーク病院。

そして今回はギバー近くの飲食街。


赤い月が薄れ、

朝に切り替わる直前の時間帯に差し掛かる。


セントマーク病院を占拠していた

人間たちは生き延びた。


それ自体も問題だが、

1番の問題は

今回の物資が回収困難な状況だという事。


六花は静かに指先でメモをなぞる。

書いてはいない。

記録は頭の中にある。


・想定より早い対応力

・巨体個体を利用した混戦…失敗

・混戦を利用した狙撃…失敗

・物資回収、未達成


そして、その作戦を

失敗に導いた斧を振るう男。

そして…今回も。


六花は観察を終え

地下に設けられた拠点へ戻る。


朱華は、優雅に

椅子に腰掛けていた。


長い脚を組み、

肘を置き、

頬杖をつく。


そこにいるだけで、

この空間が荒廃した世界だと忘れさせる存在。


六花は一礼する。

深くも、浅くもない。

従属の距離を正確に測った角度。


朱華「報告を」


朱華は低い声で短く命令する。


その声には苛立ちもなく興味の色、

どちらも混ざっていない。


六花は淡々と語る。


・セントマーク病院。

・回収予定だった物資未達。

・他の生存者チーム。

・今回の失敗。

・その中心にいた男。


朱華は途中まで聞き、

ふっと鼻で笑った。


「……斧?」


興味がない、

というより

取るに足らないという響き。


六花は言葉を選ぶ。


六花「はい。ただし…」


朱華の指が、

テーブルを軽く叩いた。


コン、と乾いた音。


六花はそこで話を切り替える。


六花「問題は、物資です。

混戦を利用できず回収できませんでした。」


朱華の目が、

ほんの僅かに細くなる。


それだけで、

周囲の空気が張り詰めた。


朱華「黒羽(クロウ)は?失敗したっと」


六花「はい」


問いは短いが、

だが、逃げ場はない。


六花は即答する。


六花「現場判断です。

ただし、回収を阻害した要因は、

セントマーク病院と同一」


朱華「同一?」


朱華が首を傾げる。


六花は一歩踏み込み、

声を落とす。


六花「二度とも、

“奪われた”形になっています」


朱華の指が止まる。


沈黙。


数秒。

それだけで、

場にいる全員が息を止める。


朱華は、

ゆっくりと立ち上がった。


六花に向かって

一歩一歩近づいてくる。


六花の臀部を鷲掴みにして

身体ごと引き寄せる。


六花「あっ…」

朱華「奪われた?同じ奴らに?」


朱華は笑った。

だが、目は笑っていない。


朱華「それは……

私の顔に泥を塗った、

という意味かしら?」


六花は即座に答える。


六花「結果…的には

その…可能性を…

否定…で、できません」


朱華は顎に指をかけ、

持ち上げる。


朱華の整った顔立ちに

冷たく妖艶な瞳と唇が六花の顔に近づいてくる。


六花「はあ…はあ…はあ」


朱華「…面白いわ」


朱華は六花の目を覗き込む。

親指で唇をなぞり耳元で囁く。


朱華「私のものを、

二度も横取りした存在は、

気に食わない」


六花の全身が熱くなると同時に、

膝が震え足の力が抜けそうになる。


六花「命令を…」


朱華は笑みを深くする。


朱華「いいえ」


歩き出し、

玉座に戻る。


朱華「生かしておきなさい。

価値があるかどうか…」


少しだけ考え込む…


朱華「私の前に出る資格が

あるかどうか、

それを見てから決める」


六花は深く、

静かに頭を下げた。


六花「承知しました」

朱華「黒羽(クロウ)が戻ってきたら報告しろ。」

六花「承知しました」


朱華はもう興味を失ったように、

手を振る。

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