DAY39 仲間になる為の条件
赤い月の夜が薄れ始め、
空気は朝を迎える準備を始める。
ゾンビは数も少なく、
勢いもなくなっている。
一馬、錬次、隼人の3人は
合流地点に向かう。
……追っては?来ていない。
一馬「はぁはぁはぁ…。」
合流地点の職員用ビル。
狂乱の血死潮の事前に
一階部分を潰して2階からはいる前提に準備した。
足場は崩れていて、上る事が出来ない。
一馬「錬次ッ!隼人さんッ!」
遠慮を知らないゾンビが襲ってくる。
数は圧倒的に少ないが、
こちらの体力にも限界がある。
「一馬ッ!」
声が聞こえる。
非常階段から瑠奈が叫ぶ。
ロープ梯子がぶら下がっている。
瑠奈「早くッ」
一馬「錬次ッ先に上がれ!」
その瞬間、
ゾンビの腕が振り下ろされる。
身体を屈め間一髪、
爪を避け脇腹目掛け斧を入れる。
追撃に備え体勢を整えた所で、
ゾンビの背後から頭にナイフ刺す。
隼人「大丈夫?片付いたね。
今の内に上がろう」
一馬「はい」
ロープ梯子を上りきり、
二階部分に入る。
床に足をついた瞬間、力が抜けた。
膝がわずかに笑い、
一馬は壁に手をつく。
瑠奈がすぐに駆け寄る。
瑠奈「……全員、いる?」
一馬「……ああ、痛ッ。」
隼人が後ろから続き、
最後に梯子を蹴るように外した。
ロープが揺れ、
下で何かが引っかかる音がしたが、
もう追ってくる気配はない。
周りは赤い月明かりが薄れ、
窓の向こうに灰色の朝が滲み始めていた。
誠が奥から顔を出す。
誠「……よかった」
それだけ言って、
言葉が続かない。
瑠奈は一馬の返事を待たず、
床に荷物を下ろした。
瑠奈「座って。順番にやる」
まず錬次が腰を下ろされる。
肩、脇腹、太腿。
殴打痕と擦過傷。
血は止まっているが、色が悪い。
瑠奈は残った消毒液の瓶を手に取り、
中身を確認する。
――少ない。
誠も分かっている。
黙ってガーゼを差し出す。
瑠奈は一瞬だけ、
使う場所を計算するように視線を動かし、
錬次の傷にだけ、
必要最低限を落とした。
錬次「……悪ぃな」
瑠奈「喋ると染みる」
錬次は口を閉じ、
奥歯を噛みしめる。
肩を包帯で固定する。
次に、一馬。
瑠奈の手が止まる。
斧を握っていた手は
擦り切れ血まみれになっている。
腕に痣が複数あり、
肩とそして首元にも。
しかし見える傷はあるが、
致命傷になるような傷は見当たらない。
瑠奈「特に痛い所……どこ?」
一馬「んッ……全身バキバキ。
疲労感半端ない感じ…。」
瑠奈は残った消毒液を傾け、
一滴、二滴だけをガーゼに落とす。
それを一馬の腕に当てた。
ひやりとした感覚。
一馬「ひゃ……っ」
瑠奈「うるさい」
一馬「……はい」
消毒は、それだけ。
それ以上はしない。
残りの液体を、
誠がそっと仕舞う。
隼人は少し離れた場所で、
壁にもたれ、周囲を警戒していた。
服に汚れはあるが、
目立つ傷はない。
一馬は隼人を観察し口を開く。
一馬「……隼人さん」
隼人は振り向く。
隼人「ん?」
一馬「……さっきの、狙撃……」
言葉が上手く続かない。
途中で切れる。
隼人は、
ほんの一瞬だけ間を置いた。
そして、淡々と。
隼人「俺……じゃないよ」
空気が、
少しだけ張る。
瑠奈が顔を上げる。
瑠奈「……?」
隼人「ははっ驚いたよね?
でも、僕も驚いているよ。」
一馬「…何に?」
瑠奈も、
誠も、黙って聞いている。
隼人は淡々と話を続ける。
隼人「腕はいい男…
迷いもない…
警告も無い…本気の狙撃」
隼人「一人で動いてるとは思えない。
たぶん……」
言葉を選び、
一拍。
隼人「向こうにも、
“専門”がいる」
専門家…少なくとも
サバゲ―の専門家ではない。
隼人「セントマーク病院の狙撃…」
一馬「…」
隼人「一馬くん、
俺だと睨んでいたんでしょ?」
瑠奈「ッ!!」
錬次「ん?」
誠「……。」
その場の空気が冷たく固まる。
深く長く感じる沈黙。
一馬「………はい。」
隼人「うん。
そうだろうなーっと感じてたよ。」
一馬「疑問はいくつかありますが、
少なくとも今は殺す気は無い…。」
黙ってはいるが、
瑠奈から緊張感が伝わってくる。
隼人「あはははは。
安心してよ!元々、狙った覚えもないよ」
一馬「じゃあ、なぜ?
仲間になろうと…近づいたんですか?」
隼人「んー…」
隼人が少し考えるが、
隼人の答えは拍子抜けするほど単純だった。
隼人「おもしろそう?…だからかな」
一馬「へ?」
隼人「だって遠距離射撃を斧で防いで、
更に追撃までする男…興味湧くでしょ?普通」
無邪気な笑顔に
警戒心も薄れてくる。
隼人「病院で隠れてたら
君たちが来て…」
隼人は経緯を淡々と喋りだす。
隼人は単独で病院に乗り込んで
狂乱の血死潮が近いので
身を潜め隠れている事に決めた。
しばらくして、病院内に乗り込む
人間を発見する事になる。
一馬、瑠奈、誠の3人である。
一馬「…………え?まてまてまてまって!?
病院内?えっ?居たの?隼人さん。どこに?えっ!?
っで、あのパニック劇場を見ていたの?」
隼人「あはははは!
|Nailed it!!《大正解》」
隼人が潜伏していた建物は
セントマーク病院の
地下駐車場入り口横の4階建ての守衛用ビル。
そこの4階から駐車場を監視していた。
隼人は単独行動を好み
この世界の人助けはリスクを伴うと説明する。
何より、狂乱の血死潮の
襲われない重要ポイントは
「熱」であると説明する。
一馬「……熱。」
人が集まれば集まる程、
熱が一か所に集まる。
隼人「匂いや銃火器の音もそうだけど
そこから出る熱や光の熱源、
…後は、そう!は体温だね」
ゾンビ共はそれを感知するが、
狂乱の血死潮は一層強く感知する。
隼人「ゾンビにとっては、
人間の体温は、灯台の道しるべなんだと思う」
隼人「とりあえず
死ぬリスクは最小限にしたいし、
何より君たちが、
良い奴か悪い奴かもわからない。」
一馬は状況と
ゾンビが集まる条件を聞いて、納得する。
隼人「だからって、
襲われないわけじゃ無いし、
単独行動が安全だとは言わないけど。」
理路整然と語る隼人。
一馬「でも、それだと
仲間になるには選択しは無いような…」
隼人「うん、そうだね。
強いて言うなら
いい笑顔だったからかな」
一馬「え?」
隼人「まずは何処から喋ろうか…。
僕は元軍人で
周辺状況を確認する…癖?があるんだよ」
その場に、
朝の光が差し込む。
赤い月は、
もう見えない
ゾンビの唸り声も、遠い。
隼人は続けて淡々と説明をする。
正面の駐車場の先にある
ダイナーがある小さなビルに人影。
守衛用ビルの方が少し高いので
あちらからは確認しにくい構造であった事。
隼人「でも最初、君たちは
病院の中で応戦してたでしょ?」
隼人は簡単な推測をぶつける。
隼人の潜伏位置は死角になっているので
当然、戦っている様子は見えていなかった。
そこに駐車場に男(一馬)が走ってくる。
隼人「あれ、ポルータでしょ!
爆発する系のゾンビ。
外で近接戦を仕掛けた事はすぐにわかったよ。」
そこで再び、
ビルの狙撃手と一馬を観察する。
ここまで聞いて、
隼人が頭で巡らせた構図が
一馬の頭にも視えてくる。
・男のグループは敵か味方か?
・グループな何人構成か?
・狙撃手は男の敵か味方か?
隼人は観察を続ると、
驚きの光景が目に飛び込んでくる。
ビルの狙撃者は一馬に向けて撃つ。
そして弾を防ぎ、
追撃する一馬を目視する。
隼人「偶然なのか?
狙いが外れたのか?」
隼人「追撃した時点で
ビルの男は仲間以外が確約される。」
一馬「でも同一人物と特定するには…」
隼人「うん、材料は足りないね。」
隼人「それでも、僕には
情報としては十分だったんだよ。」
追撃を諦めて、
病院まで引き返して合流した一馬たち。
隼人「合流した君たちを確認してみたら、
生き抜いた後の君たちの笑顔……
この世界に来て、一番印象的だったかな。」
一馬「仲間になるきっかけが笑顔?
そんな事が?
隼人さんには
リスクでしかないのに…。」
隼人「いや、重要だよ。僕にはね。」
隼人「生き抜く力強さ…
戦争にはとても大切だよ。」
一馬
しばらく沈黙が流れる。
瑠奈も誠も口を挟まないで耳を傾ける。
一馬「話は変わりますが、
じゃあ、今回俺を狙っていたのが…」
隼人「そっ!病院で狙撃した奴」
一馬が少し考え込む。
一馬「でも待って下さい。
いくら照準器とかで確認しても
そこまでわかるものですか?」
隼人「ん~まぁ、わかるよ。
…特に、顔見知りならね」
隼人は笑顔だが
なぜか、寂しそうな表情を浮かべる。
隼人「黒羽アレックス…
通称は”クロウ”で呼ばれている。」
一馬「クロウ…。」
隼人「僕が軍特殊部隊時代の
……後輩で……教え子だよ。」
赤い月を乗り越え
29日目の朝を迎える。




