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DAY38 黒き瞳と羽根が光る夜明け

赤い月の光が、

背後から照らし影を落とす。


廃屋の屋根に伏せたまま、

ライフルを傍らに設置する。


まだ照準器を覗いていない。


双眼鏡で、

視線を遠くに残し息を潜める。


風向きは安定していた。


距離も、角度も、遮蔽物の配置も、

すべて、問題はなかった。


赤い月の夜は約6時間程…

時間も十分にあった。


狂気のゾンビがぞろぞろと

流れていくのが見て取れる。


(やれやれ…動き出した)


双眼鏡を覗きながら、

一段と息を潜め、

静かに呼吸を整えて狩りの機会を探る。


今回、病院に向かった

想定人数は3~5人。


観察を続けているが、

プロの傭兵のようには見えなかった。


しかし手際はとても良く

本番への準備は万全…

(……いいチームだ。)


アスファルトの、

無機質な冷たさが体に伝わってくる。


数時間が経過し、

いよいよゾンビの数が、

大きく減ってきている。


双眼鏡から照準器へと持ち替える。


巨体の見た目の悪いゾンビが

流れ込んでいる。


男が病院から飛び出してくる。


(獲物が現れた!!)

絶好のタイミングが訪れる。


相手からは肉眼でとらえるには

距離と高低差からして難しい。


当然、男は巨体のゾンビと

戦う事に夢中で動きまくる。


ターゲットがどこで停まるのか?

勝利を確信したその瞬間…


(もう少し…)


ターゲットの男はトドメを刺しに行く。


そして次の瞬間…


スッ。

引き金に添えてある指を掛け引く。


ドンッ…ィィィィィィ。


だが、その結果は、

想定されたものではなかった。


遠距離からの一撃。

頭部への射線。


刃が動いた。

一瞬の反射。

金属が、弾道に割り込む。


それを、

「防がれる」という結果。


偶然か?


ゆっくりと息を吐いた。


偶然?

という言葉が、頭に浮かび、

すぐに消える。


偶然というのは、

計測できない要素に対して使う言葉だ。


だが、今の動きは、

射撃に対しての反応のような動き。


音か…いや、でもない。

光か…いや、でもない。

匂い…いや、遠すぎる。


(…来る?、と分かっていた動き?)


一瞬、思考を止める…。


ターゲットの男は更に

驚く行動に出てくる。


さらに反撃を仕掛けてくる。


2、3発追撃はしてみるが、


(位置を把握…されている…か。)


狩りに失敗すれば深追いはしない。


これは狩りの鉄則。

機会はまた、いずれ訪れる。


注意を引くための

レザーポインターをそっと置き、

その場を片付け離れる。


________


______


____


撤退後、

合流地点までの道を歩きながら、

彼は一度も振り返らなかった。


合流地点の廃ビルに入り

仲間の足音が聞こえる。


武器の擦れる音。

息遣い。


部屋の影に入ったところで、

一人が歩み寄って近づいてくる。


「浮かない顔ね……外した?」


答えない。


もう一人が周囲に

聞かせるように声をかける。


「まぁいい…

とりあえず時間を置いて撤退する。」


答えない。


代わりに、

マガジンを抜き、

残弾を確認する。


少ない。

だが、そこが問題ではない。


問題は、

“なぜ止められたか”。


遮蔽物はなかった。

距離も十分。

狙撃を察知する要素も、存在しない。


それでも

刃が、そこにあった。


壁にもたれ、

ゆっくりと座り込む。


視線は床。

だが、見ているのは、

さきほどの一瞬。


斧が上がった角度。

身体の角度に動き。


間に合うはずのない時間。


「……」


問いは、形にならない。


だが、

思考は止まらない。


偶然ではない。

必然でもない。


想定外。


それだけを

静かに受け取った。


(次は…?)

手順を頭で組み直す。


(どう殺す?)


そして、

その機会は早々に訪れる事になる。


________


______


____


「えっ?」


撃たれた…

そう、思った。


音が先だったのか、

衝撃が先だったのか、

一馬自身にも分からない。


ただ、

世界が一瞬だけ裏返り、

足の裏から力が抜けた。


一馬「――っ」


声にならない息が漏れ、

身体が勝手に後ろへ倒れる。


ドサッ。


尻もちをついた拍子に、

アスファルトの冷たさが

腰から背中へ一気に広がった。


視界が揺れる。

赤い月が、歪む。


一馬(えっ……撃たれ……た?

また、1日目…。)


痛みは、ない。

だが、それが逆に現実味を失わせる。


頭に鳴り響く音が

キィィ……と細く残っている。


斧を握る指に力が入らない。


金属の重さが、

急に道具に戻った感覚。


一拍遅れて――


錬次「……は?」


錬次の声が、

間の抜けた音で落ちてくる。


理解が追いついていない声。

怒号でも、叫びでもない。


錬次は立ったまま、

一馬と、その先の闇を

交互に見ている。


錬次「……な、何?なんだ?」


答えはない。


一馬自身も、

答えを持っていなかった。


その時。


パァンッ!!


乾いた銃声が、

夜気を切り裂く。


今度は、

はっきりと遠い。


銃声は一発で終わらない。


パァンッ!

パァンッ!


間隔を刻んだ、

意図的な意思を感じる射撃。


弾道音が、

一馬たちのさらに向こう

闇の奥へ伸びていく。


同時に、

硬い足音が近づいてくる。


ザッ、ザッ、ザッ。


迷いのない足運び。

全力静かに近づく足音。


走り近づきながら、もう一発。


パァンッ!!


反響が建物に跳ね返り、

遅れて耳に刺さる。


そして――


「一馬くん!」


はっきりとした声。


怒鳴り声に近いが、

恐怖を煽る響きではない。


足音が、

すぐそこまで迫る。


隼人「立って! 一馬くん、早く!」


隼人の声だった。


隼人は走りながら、近づき

一度だけ闇の奥へ銃口を振る。


撃たない。

だが、向ける。


それだけで、

空気が一段、締まる。


隼人は一馬の前で止まらない。


横を抜け、

半身で一馬を庇う位置に入り、

再び銃口を外へ向ける。


隼人「大丈夫だった?一馬くん」


一馬に無事か

どうかの確認をする。


隼人は一馬を見下ろさず、

あくまで前を警戒したまま、

声だけを投げる。


隼人「今は座る時間じゃない!」


少し顔を向け隼人が叫ぶ。


隼人「立て! 一馬くん!」


その声に、

ようやく現実が戻ってくる。


撃たれていない。

――生きている。


一馬は、

アスファルトに手をつき、

歯を食いしばる。


錬次が、

遅れて警戒態勢に入る。


錬次「…………」


隼人の背隠れ、

一馬は体制を整え警戒に入る。


一馬「隼人さん…何が…」


隼人「……黒羽(クロウ)…。」

一馬「えっ?ク?」


隼人「説明は後!

とりあえず合流地点まで戻ろう…いいね」


一馬「は、はい。錬次っ!」


錬次「えっ?」


一馬「合流地点まで競争するぞっ!

何っ?足震えてるんじゃない?

飯は俺が全部頂きます。」


錬次「あっ?えっ?飯っ!

ヘロヘロのテンちゃんが

俺に勝てると……

おっ、おい!ズるッ!待てよ」


隼人「ははっ、相変わらず、

一馬くんは機転が利く…っね」


パァンッ!!

建物を影に一馬は走り出し、

一馬を追いかけるように錬次も走り出す。


カチッ!

カチッ!

隼人のライフルの弾が尽きる。


そして隼人も、

一馬と錬次に続き走りだす。


朝の気配と共に、

赤い月の夜が、

終わりを迎えようとしている。


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