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DAY35 駆け抜けるための弾


――空気が、重い。


自分でもはっきり分かる。


気が付けば呼吸が浅くなる。


肺に入る空気が少なく

吐くたびに胸の奥が少し遅れて軋む。


それでも足は止められない。


左、前、右、背後。


首だけを小さく振り、

視線を円を描くように回す。


視界の端に、動き。

布切れの揺れか、それとも――違う。


生き物の「遅れた反応」。


隼人「……来てる」


湿った娯楽施設が並ぶ

少し小さい街。


昼間よりも温度が

下がっているはずなのに、

空気は妙に生ぬるい。


湿気と埃、

腐った匂いが混ざって、

鼻を突き喉を刺す。


靴底が地面に吸いつく感触が、

走るたびに微妙に違う。


隼人(…不味いな。)


大通りは、選択肢としては最悪だ。


だが塞がれたゾンビの群れに割り込み

裏通りにわざわざ死には行けない。


隼人「誠君、俺の後ろから離れないで」


誠「は、はい」


隼人は瑠奈に、

視線を合わし息を合わせる。


余計な言葉は要らない。


誠の気配の気配を

背後に感じながら

移動を試みる。


瑠奈は誠の背中を守る。


後ろでククリナイフを構え

周囲の警戒をする。


ここで地図を広げて、

決めた避難ポイント。


大通りを横断して、

交差点を越え、

崩れかけた倉庫の裏。


倉庫を管理する為の

職員専用のオフィスビル。


問題は


そこまで

「群れが待ってくれる保証」

がないこと。


鼻から大きく深呼吸をする。


湿った空気が、

粘ついた膜みたいに肺に広がる。


――撃つ。


判断は、思考より先に落ちる。


「|Glock 19 Gen 5《グロック19》」


隼人の右手が腰に走り、

ハンドガンが抜かれる。


金属の冷たさが、掌に吸いつく。


安全装置は意識の外。


引き金までの距離は、

もう指先が覚えている。


隼人「走るぞッ!」


声を張る。


最初の一発。

乾いた破裂音が夜を裂く。


頭部。

一体、崩れる。


続けて二発。


反動を殺しながら、

照準は「止める位置」だけを見る。


撃ち抜くのは頭。


道を開ける為の穴!


ゾンビは――速い。


狂乱という言葉が、

ひしひしと伝わってくる。


普段の引きずる歩行じゃない。


まるで跳ね回る”水を得た魚”。


転んでも、すぐ起き上がる。


骨が折れても、

勢いが止まらない。


――来る。


前方右、五体。

左、建物の影から三。


背後から…音が増えている。


360度視界を回し警戒する。


円の中心に、誠。


隼人は身体を

半回転させながら後退射撃。


一発。

二発。


弾数を、頭の片隅で数える。


マガジンは…

装填できる弾丸は9mmを15発。


残弾は…

一本目、まだ半分以上。


だが……このペースだと、足りない。


十分じゃない。


しかし使い切らないと

逃げきれはしない。


隼人「止まるな、誠君!」


誠の足が、もつれる。

一瞬、視線が下を向く。


その一瞬が、致命的だ。


隼人は誠の背中を

押し出すように前へ送る。


同時に、左から飛び込んできた

個体へ銃口を振る。


隼人(近いな…!!)


引き金を引く。


火薬の匂いが、一気に濃くなる。


脳が、赤黒く弾ける。


距離、ゼロ。


「……ッ!」


歯を食いしばる。

肩が、重い。

腕が、震え始めている。


訓練でも、こんな数は…


隼人(まぁ、攻めてこない。)


あの頃は、制圧する側だった。


数は管理され、

時間も管理されていた。


今は違う。

増え続ける。

止まらない。


時間が掛かれば、

尽きるのは、こっちだ。


瑠奈が前で方向を手で示す。


合図だけ。

声は出さない。


――右。


大通りを横断する。


アスファルトが滑る。


濡れた靴底が、

踏ん張りを奪い体力を削る。


ゾンビは遠慮無しに走り込んでくる。


真正面、右から左から、後ろから。


全速力!


隼人は照準を低く落とし、膝を撃つ。


崩れたところを、

瑠奈がナイフを振り抜く。


倒れた個体が、障害物になる前に。

瑠奈のナイフが、正確に止めを刺す。


誠が、遅れる。


――クソ。


銃口を戻し、

誠に食いついてきたゾンビの頭に1発。


弾はみるみる減っていく。


音が、さらに群れを呼ぶ。


だが止めない。

止まった瞬間、終わる。


隼人(避難ポイントまでは…。)


もう少しの距離が

迂回とゾンビの群れで曖昧だ。


息が、荒くなる。


心臓が激しく動く。

汗が目に入り、視界が滲む。


それでも、

視線は回し情報を集める。


前。

右。

上――屋根。


隼人(上から!?)


落ちてくる。


隼人は誠を突き飛ばし、

自分が半歩遅れる。


肩に、衝撃。

爪が掠る。


隼人「……っ!」


痛みが走るが、思考を切り替える。


今は、後だ。


倉庫の影が、見える。


隼人「足を止めるな、突っ込むぞ!」


最後の直線。


ゾンビが、雪崩れるように追ってくる。


狂乱の血死潮(クリムゾンムーン)


潮とはよく言ったものだ。

名は、伊達じゃない。


隼人は最後に振り返り、

残った弾を

“追わせないため”にばら撒く。


止める。


――走れ。走れ。走れ


暗い。


倉庫の影に飛び込んだ瞬間、

赤い月明かりが断ち切られる。


空気が変わる。


外より冷たい。

冷えた鉄骨と油、

埃とカビに古い木材の匂い。


隼人「止まるな!」


隼人は誠の背中を押し、

そのまま倉庫の奥へ走らせる。


背後で、何かが雪崩れ込む音。


倒れた棚に

金属が擦れ、跳ねる。


――来る。


倉庫内は意外に広い。


だが、開けている分、

逃げ場は少ない。


ゾンビが流れ込んでくる。


入口から出口…

左右の割れた窓。


乱戦になる。


隼人は走りながら撃つ。


近すぎる個体は足元壊す。


転ばせ、踏み越え、

トドメにまた撃つ。


瑠奈が前に出る。


周囲に障害物があるほど

瑠奈の機動力が活きてくる。


ナイフが閃き、

掴もうとした腕が床に落ちる。


誠が叫びかけるが、

声は鉄骨に吸われているような。


隼人「奥だ!」


職員用のオフィスビル。


裏に非常階段がある。


走る。

靴底が滑る。


瓦礫を蹴り、跳び越える。


銃声音が反響し広がっていく。


弾が減る感覚が、手に伝わる。


……残り、少ない。


倉庫を抜ける。


夜風が、肺に刺さる。


オフィスビル裏口の非常階段。


二階部分の踊り場が、

半分崩れている。


隼人「先に行け!」


瑠奈が迷わず動く。


事前に用意してあった

足場に乗り、軽やかに

非常階段の2階踊り場を昇る。


続いて誠が挑戦する。


瑠奈は誠の腕を掴み、

体重を預けさせ、一気に引き上げる。


誠の靴が、宙で空回りする。


瑠奈が歯を食いしばり、

肩で支え、引きずり込む。


瑠奈「次!」


――ミシッ。


嫌な音。


金属が、鳴る。


隼人が足を掛けた瞬間――


隼人「……ッ!」


踏み込んだ足場が、崩れる。


隼人の身体が一瞬、浮き、

次の瞬間、下へ引きずられる。


瑠奈「隼人さん」


瑠奈の声が、遠い。


隼人は体制を整え、

起き上がり、

非常階段に目をやる。


――無理だ。


判断は一瞬。


ゾンビ共が

隼人目掛けて走ってくる。


瑠奈と誠に視線を合わせ

笑みを浮かべ、倉庫側へと走る。


隼人(さてと…劣勢だねこれは)


撃つ。

撃つ。

撃つ。


――カチ。

カチカチッ。


乾いた音。


弾切れ。


「……チッ」


即座に背中の

スナイパーライフルへ手を回す。


長いくて重い。


小回りが利きにくく

狭所では不利…。


だが、今は

頼れる相棒はこれしかない。


しかし残弾数はの残り僅か。


隼人は構え、

入口付近へ一発。


胸から足…足から頭。


次。


銃身の重さを使い、

距離を取る。


頭を打ち抜き、逃げ道を作る。


ゾンビが、銃声に引き寄せられる。


狙い通りだ。


――来い。


ここで引きつける。

ビルには行かせない。


呼吸が荒らくなる。


腕は重い。

視界の端が、赤く滲む。


それでも、照準はブレない。


一発ずつ。


止める!道を作る!


隼人は一瞬だけ、

非常階段の方を振り返る。


――OK


その視線を切り、

再び銃口を前へ。


ここからは、一人だ。

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