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DAY32  近くて遠い道のり

大雨は、この世界を

別の何かへと変える。


狂った気流が街の上で渦を作り、

雨は垂直に落ちず、

刃物みたいな角度で横殴りに突き刺さる。


まるで空そのものが

怒り狂っているみたいだった。


アスファルト叩きつける

激しい雨粒は、

まるで無数の指が

外壁を引っかくように響き、

アスファルトが身を丸くして、

苦痛に耐えるよう映る。


雨宿りとして見つけた廃屋…


1階は脆く、壁も床も穴だらけ。


だからいつものように、

クラフトアプリでペクと補強材料を作る。


錬次がせっせと

スクラップを積んでのバリケード。


この世界のルール…

ルールが身に染みついている証だ。


瑠奈は、濡れた髪をタオルで拭きながら

ぼんやり外を眺めていた。


窓は割れ、風で揺れる板切れが

ぎぃ……ぎ……と不吉に鳴く。


(……嫌な音)


瑠奈の眉が僅かに動く。


雨音を聞きながら、警戒心を高める。


一階の小さめのリビングに

爆睡中の錬次と2人。


瑠奈は豪快にイビキをかいている

ノー天気な筋肉バカに呆れながら

周囲の音に集中する。


その時――


ガタンッ!!

ドカッ。


二階で重い足音の様な音した。


瑠奈「っ……!」


反射で腰のナイフに手が伸びる。


雨を吸った木材が軋む音、

風が吹き込み雨音が大きくなる。


この世界では油断が命取りになる。


瑠奈は静かに足音を殺し、

音のした二階の部屋へ近づいていった。


再び――

ガサ……ッ。


呼吸を止め、目を細める。


少し冷たい空気に…

泥の匂いが混じり漂う…。


(複数?……奥から気配が…)


ゆっくりと近づいて

ドアに手を伸ばそとした、その瞬間。


「おーい、瑠奈か?

タオルある?拭くものなんか無いー?」


聞き慣れた一馬の声が

シャワールームの方から聞こえてきた。


突然の強い雨風から身を避難させ、

一馬、誠、隼人は外の状況を確認しに行った。 


そして2階によじ登り、窓から帰って来た。


瑠奈「……はぁぁ、

あんたらね……」


肩から力が抜ける。


緊張がほどけた反動で、

逆に心臓の音が早まり

苦笑した。


瑠奈「心臓に悪ッ……

タオルなんてそんな物無いわよッ」



雨音に負けないよう

小さく文句を言いながら、

彼女は下に降りて行く。


________


______


____


濡れた雨具を脱ぐ音と、

バケツをひっくり返すほど

滴り落ちる水滴の音が

狭いシャワールームに満ちていた。


一馬は肩から水を払いながら、

いつも通り軽口ばかりだ。


一馬「いや、雨やばかったろ?

あれもう“雨”じゃなくて“液体の塊”だったからね?

痛いわッ重いわッ殴られてんのかと思ったし」


誠はふぅ~と息を漏らし、

濡れたメガネを拭きながら小さく頷く。


誠「ほんと……特に風、

人生で一番痛かった……」


隼人はタオルで髪を拭きつつ、

どこか淡々としていた。


濡れた雨具を手際よく壁に掛け、

装備を解体しながら点検していく。


隼人「でも中断して正確だね。

橋が崩れてた時点で

進むのは無理だったね。

あの風の中で突っ込むのは自殺行為だよ」


一馬「あれは仕方ねぇ……!

てかさ、誠が飛ばされそうになった時、

俺マジで、カロリーゼロほど軽くは無いぞー

って、叫んじゃったね」


誠「飛ばされてないってば!!

……でもちょっと浮いたけど……」


一馬「フクロモモンガ!知ってる?

フクロモモンガ?雨具がモモンガの……」


瑠奈は聞こえてくる馬鹿話に


(ほんとに……)

その声にはどこか安心の色が混じっていた。


ここにいるのは、

クリムゾンムーンを生き延びた“仲間”だ。


……数時間前までは、

雨と風に押されながら、

必死でこの廃墟まで辿り着いたのだ。



――数時間前。


スクラップ工場を出てから、

もう2時間ほど歩いただろうか。


朝の乾いた風が、

昼には一転して重く湿った風に変わっていた。


最初の雨粒が落ちた時、

ただ雨が降るのかな?と考えただけ。


しかし…


ザァァァァァァァァァァッ!!


突然空が割れたように大雨が降り出す。


一馬「いやいやッ!?

なんで急に愛のスコール!?

天気、空気読めよ!!」



瑠奈「前が見えないっ!ちょっ、誠どこ!!」


錬次「マコちん、ここにいる!

濡れてるけどいる!」


誠は必死に地図を押さえ、

風で飛ばされないよう背中を丸めていた。


一馬「廃屋を探そう!このまま行っても……!」


その声に隼人が振り返り、

目だけで状況を読み取る。


隼人「……賛成。あの風で前進は無理。」


隼人は風に逆らうように腕を伸ばし、

遠くの建物を指差した。


隼人「あそこで雨宿りしよう。

廃墟だけど、屋根はまだある」


誠「た、助かった……!」


瑠奈「急ぐわよ!」


駆け込んだのが、この二階建ての古い民家。


一階は崩壊していたため、

素早くバリケードを組み、

避難したのが数時間前のことだった。


________


______


____


現在。


雨はまだ強くて、

外の世界を白い幕のように覆い隠している。


瑠奈がシーツの切れ端を持って

シャワールームの入り口で腕を組むと、

一馬が振り返って満面の笑みを浮かべた。


一馬「お、おつかれルナ!

今ね、隼人さんが誠に

装備は濡れたらヤバいよ講座しててさ!」


誠「いやこれ普通にタメになるけど…

“やっぱ君センスないね”とか言われるし!」


隼人「あははっ事実だよ?」


瑠奈「……あんたら元気ね。

死ぬかと思ったのに」


一馬「いや死なない死なない!

あの大雨はむしろテンション爆上げ、

俺らにはもう日常レベルよ!」


瑠奈「あんたいっぺん死んで来なさいよ」


一馬「あっ!辛辣っー

ピーチは甘くなきゃ、ダ・メ!」


瑠奈「うっさぃ!ピーチ言うなっ!」


隼人が喉の奥でクスッと笑う。


誠が小さくこける。


雨音は大きいのに、

この部屋だけは妙に暖かかった。


錬次がしたから大声で一馬に声をかける。


その声は雨に溶け、

静かに消えていく。


________


______


____

 


大雨は弱まりつつあるが、

空はまだ世界は重い灰色に包まれていた。


廃屋のリビングでは、

簡易ランタンの灯りが

ぼんやりと揺れている。


誠は濡れたメモと地図を広げ、

膝の上でそっと押さえながら呟いた。


誠「……本来のルート、

橋が落ちてるから……

この迂回路をこう行けば……

半日で、ギバーには着くと思う……」


隼人はその横に腰を下ろし、

地図を覗き込む。


隼人「…方向性は合ってるよ。

ただ地図の地形だと、

雨の後は土砂崩れが起きやすい。

ほら、この縮尺だと…

このくぼみ、風の通り道。

雲の動きと風の残り方で、

まだ雨雲が居座る可能性が高い。」


誠「な、なるほど……

ここは回避した方が……安全かも」


隼人は地図の上で指を滑らせる。


隼人「なら、この旧道の斜面を回るルート。

時間は少しかかるけど、

道がシンプルな分、活きている可能性がある。

……ただしゾンビの巣はあるかもね。」


誠「え……そ、それは嫌だ……」


背後で聞いていた一馬が、

工具で斧を拭きながら笑う。


一馬「まぁまぁ誠。

ゾンビなんて俺の軽口で撃退できるって。

……いや、できねぇわ。

俺のしゃべりに嫉妬して牙向けてくるわ。」


錬次「うおぉ!逆にテンちゃんが

噛みつかれてんの見てみたい!」


一馬「お前マジで一回殴るぞ?!」


その会話をよそに、

隼人はM40A5のボルトをさらりと点検し、

濡れが残っていないか丁寧に確認する。


隼人「決まりね。

夜明け前には雨が上がる。

歩けるうちに動こう。」


_______________


二階では、瑠奈が古い毛布に包まり、

雨音を聞きながら横になっていた。


(……一馬の声、錬次の声……

うるさいけど……なんか落ち着くんだよな)


窓の外を流れる雨筋の音が、

神経をほどくように静かだった。


別の部屋では誠が丸くなり、

肩の力を抜ききって眠っている。


瑠奈(……あとはみんなが……無事で……)


そのまま、深い眠りへ落ちていった。


_______________


夜明け前。


雨はほぼ止み、

世界が蒸気のような

白い霧に包まれていた。


一馬は伸びをしながら立ち上がる。


一馬「よっしゃ!

今日も死なないように

頑張りましょうねぇ!」


瑠奈「…朝からうるさいッ、

死なないのは当たり前でしょうが」


錬次「よしっ腹減った!進むぞ!」


隼人は荷物を締めながら、

横目で地平線を確認する。


隼人「雨は大丈夫。

ぬかるみだけ気を付けて。」


誠「……気を付けます……ほんとに……」


古い民家をそっと後にし、

水たまりの残る小道を歩き始めた。


土の匂いが強い。

森の湿気が腹にまとわりつくようだ。


その時――


ガサッ……ガサガサッ。


一馬「……」


手上げみんなの行動を抑止する。


誠「ん?な、なんかいるの?」


錬次「ゾンビかぁ?来いやぁぁ!」


隼人が周囲を警戒し

耳を澄ませる。


隼人「違う……足音が速い。

軽い。複数……」


次の瞬間。


森の闇から、

四つの影が飛び出した。


グルルルルルルルッ!!


ゾンビ化した野犬。


目が白濁し、骨格が歪み、

腹の皮膚が裂けて肋骨が覗いている。


瑠奈「ッ……!!」


一馬「ちょ、待て待て待て!

ゾンビゲームお馴染みの!?

ここに来て登場とかッ」


ズシャアアッ!!


泥の上を滑りながら

突進してくる1体。


錬次が前へ飛び出す。


錬次「うおおおお!!」


しかし、足場が悪い。


ズルッ。


錬次「うお!?滑るッ!!」


野犬の牙が錬次の腕へ迫る。


一馬「バカ!!」


一馬は泥に足を取られながらも

錬次の服を引っ張り態勢を変える。


空振る野犬に錬次は一撃をいれる。


ザシュッ!!


野犬は吹き飛ばされ、

泥の中で痙攣する。


別方向から、もう2体が飛びかかる。


誠「ひっ……!!」


隼人「誠さん、伏せて!」


パンッ!!


隼人の拳銃の弾が野犬の足を撃ち抜き、

野犬の動きを止める。


瑠奈が滑る泥を蹴り、空中で体をひねる。


ククリナイフが白い線を描き、

野犬の喉元を切り裂いた。


瑠奈「次ッ!!」


背後からの唸り声。


一馬「ワァオワァオワァオ!!」


野犬が泥しぶきを上げながら

一馬の足に食いつこうとする。


だが――


錬次「テンちゃーーん!!」


スレッジが 野犬の横顔に直撃。

泥と血が一気に跳ねた。


場が静まりかえる。


荒い呼吸と、

雨上がりの湿った風だけが残る。


隼人が地面に跪き、

野犬の爪痕を確認する。


隼人「……数は4。群れは小さい。

でもまだ近くに気配があるかもしれない。」


誠が小さく息を吐く。


誠「こ、こわかった……

足場悪すぎ……!」


一馬は斧を肩に担ぎ、

泥だらけのズボンを見てため息をつく。


一馬「……俺さぁ……今日一日、

ずっと泥の人じゃん……」


錬次「テンちゃん似合う似合う!」


一馬「だろ?このドロっドロに

イカしたコーデ…まとわりつく見た目…」


瑠奈は肩で息をしながらも、前を向いた。


瑠奈「……行くわよ。

こんなのに足止めされてたら、日が暮れる」


隼人は軽く笑い、小さく頷いた。

ライフルのスコープで周囲を確認する。


隼人「安心して、周りに何も確認出来ない。」


一馬「ふははは……!オレのドロコーー」

瑠奈「しつこい(・・・・)ッ!!」


一馬「…はい」


そして彼らは、

再びジョーカーのギバーへ向けて歩き出す。


赤月の夜を越えた一行を、

新しい試練の朝で迎えた。


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