DAY30 巨体の訪問者、押し売りにはご注意
赤い霧は、まだ廃工場の
屋根にまとわりついていた。
血の気配は重く、
鉄の匂いが微かに漂っている。
ウォオオオオオオ…
その呻き声が、
地鳴りのように低く揺れた。
一馬の視界の奥で、
“巨影”が二つ…三つ……
こちらに走ってくる。
巨体ウォーカー群…。
普通のウォーカーとは
桁違いの体躯。
皮膚は乾いた
粘土のようにひび割れ、
目だけが赤い光を反射していた。
瑠奈が小さく息を吸う。
瑠奈「……何?あれ…キモっ」
錬次は逆にニヤリと笑った。
錬次「よっしゃああああ!!
デカいの来たァッ!!」
その背後で、低い影が
バサリと羽音を立てる。
赤い月明かりの抜け目から、
灰色のハゲワシ型ゾンビ が
二体、三体、五体と空を飛び回る。
鋭い鉤爪が鉄骨を
引き裂かんと言わんとばかりに主張している。
一馬「おいおいおいおい
おいおいおいおいおい」
一馬「さっきよりデカい、
デカっキモが
群!群で来てますけど?」
一馬「しかも何?ハゲワシゾンビも群?
ほんと勘弁してくださぁーぃ」
隼人が即座に判断し、声を張った。
隼人「一馬くん!上は任せろ!
誠さん、スリンガー構えて!」
誠「う、うんっ!」
誠は震えているのに、
スリンガーの構えは妙に安定していた。
巨体ウォーカーの一体が、
鉄板を踏み抜くほどの勢いで突っ込んでくる。
一馬「デカいの潰すぞッ!」
錬次「おうッ!」
錬次が先頭に出て、
スレッジを上段に担ぐ。
巨体が腕を振り下ろす瞬間、
一馬は錬次の足元に
滑り込みながらその腕に斧を叩き込んだ。
ドガァン!!
巨体の腕が横に跳ねる。
錬次「ナイスッ!!
そんじゃあ──ッ!」
スレッジの一撃が、
巨体の胸板に叩きつけられる。
鉄骨がきしむような音が広がり、
巨体が数歩よろけた。
一馬はすかさず距離を詰め、
巨体の膝裏へ斧を滑り込ませる。
バギッ──!
巨体が片膝を落とす。
そして錬次が頭にトドメの追撃。
錬次「へへッ!
二人ならこんなもんだろ!」
その時、崩れた巨体ウォーカーが、
錬次の足首を力強く握る。
錬次「!!!」
ドスッ!
一馬は首の頸椎に斧を振り下ろす。
一馬「油断すんなっ!!次が来るッ!」
二体目、三体目が
猪のように突っ込んでくる。
バサァァアア!!
ハゲワシが錆びた水銀灯を蹴り、
瑠奈に向かって急降下。
鉤爪が風を切り、
裂け目のような鳴き声が響く。
瑠奈は迷いなく横跳びし、
コンテナの縁に指一本で着地。
返すように回転しながら矢を放つ。
ズギィィッ!!
一体の頭蓋を的確に貫く。
隼人は上階でレミントン M40A5 を構え、
飛行軌道を読むように照準を滑らせる。
隼人「誠さん、二時方向もう一羽ッ!」
誠「い、いくよッ!」
誠が石を握り
改造スリンガーにセットする。
パシュッ!
バシュッ!
ハゲワシの翼に被弾して、
よろけ勢いを失う。
落下してくるハゲワシを、
瑠奈が体を反転させて矢を射る。
誠「瑠奈ちゃーん」
瑠奈は親指を立て、
誠に大丈夫をアピールする。
パンッ──!
隼人は軽く笑い、
その笑みのまま
飛ぶハゲワシの頭蓋を正確に吹き飛ばす。
頭部が吹き飛び、勢いよく
瓦礫の上へ落下していく。
巨体ウォーカーが咆哮しながら突進。
錬次「おっしゃあああ来いやァァ!!」
巨体ウォーカーの背後から、
他のウォーカー達も襲い掛かる。
一馬「錬次、左から回り込めッ!」
錬次「了解っ!!」
息が、噛み合う。
一馬は走りながら
地面の影の流れを読む。
赤い光が横から揺れる
(来る……右腕!)
一馬が斧で
その軌道を逸らす。
錬次はその隙に
スレッジを真上から振り下ろす。
ドゴォォッ!!
巨体が左右に揺れる。
すかさず
瑠奈の矢が巨体の足に
突き刺さり、動きが鈍る。
誠の石が
ハゲワシに向かい飛んでいる。
隼人の弾丸が、
ハゲワシ頭頂部を吹き飛ばす。
巨体ウォーカーが一体、
また一体と崩れていく。
残ったのは、最大の一体。
廃工場の入り口を塞ぐように立ち、
腕ひと振りで鉄骨を薙ぎ払う怪物。
錬次「テンちゃん!!!」
一馬「……錬次、合わせるぞ!」
錬次「上等ッ!!」
二人は左右から同時に走る。
超巨体ゾンビは
近くの廃材鉄骨を振り回す。
尋常ではない風切り音だが…
一馬は持ち前の反射神経でかわす。
一馬は巨体の懐に入り、
斧を横に滑らせて重心を崩そうとする。
錬次は反対側から
思いきり体当たりを入れる。
錬次「おっっも!!」
ビクともしない巨体ウォーカー。
一馬はその一瞬、
“視線だけ” を隼人へ向けた。
隼人のいる工場2階、
そこにいる隼人と“目が合う”。
ただの一瞬の合図。
隼人は微笑した。
隼人「……了解」
一馬は体を回転させ
足首目掛け斧を振り抜く…
一馬(低く…低く)
体の構造的に
細い部分に当たる足首に一撃。
重心を失った
巨体はよろけだし、
一瞬動作が止まる。
空気が一点に集中していくように
M40A5 の照準が吸い込まる。
隼人
音が、消える。
巨体の頭蓋へ収束。
パンッッ!!!
巨体ウォーカーの頭部が、
まるでスイッチを
切られたかのように消し飛ぶ。
巨体がゆっくり
膝から崩れ落ちた。
一馬が追撃の一撃。
廃工場の空気が、
初めて“静寂”を取り戻した。
瑠奈「……っ、終わった?」
誠「……みんな、生きてる」
錬次はスレッジを肩にかけ、
でっかい満足げな笑みを浮かべた。
錬次「ハハッ!やったなぁ俺ら!!」
一馬は汗を額で拭い、
まだ薄く光る赤い月を見上げた。
一馬「……初めてだな。
ここまでの“完勝”ってやつは」
隼人はM40A5を肩に担ぎ、
軽く笑って地上に降りてくる。
一馬たちに歩みよる。
隼人「やっぱりイイね!
いいチームだわ、君たち」
一馬「いえ、隼人さんこそ流石っス。
援護のおかげで、何も考えず戦えました。」
錬次「どう?俺達最強コンビっしょ」
瑠奈「…最強の馬鹿二人…」
一馬「あっ?聞き捨てならないよ
ピーチちゃん!馬鹿はひとりでしょひとり」
瑠奈「ぴっ!……殺す!」
錬次「あー腹減ったー
マコちん何か無い?」
誠「あはははは」
隼人「とりあえずお疲れさん」
一馬は久しぶりに、
仲間という存在を実感しつつ
赤い月は静かに沈み
朝の準備を迎えていく。




