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DAY28 狐影の夜と揺れない影

ローザの拠点を離れた直後、

街は、明るく陽が出て暖かい。


冷えたアスファルトが、

夜露を残したまま光に照らされる。


遠くで風が抜けるたび、

古びた看板の鎖がかすかに鳴った。


隼人はバイクは置いていくと言い

一馬たちと行動を共にする。


ローザのギバーを

後にするその朝、

一馬の頭には

“あの会話”がまだ少し残っていた。


あれは、

ローザが

「もう気分が良いからお茶出しちゃう」と

騒いでいた頃のことだ。


カウンター横の

テーブルに全員が腰を下ろし、

ローザが差し出した

甘ったるいハーブティーの匂いが

拠点全体にふわりと広がっていた。


その中央で、隼人がニコッと笑い、

胸を張ってこう言った。


隼人「じゃ、俺の

“自己PR”タイムいきますか〜」


錬次が目を輝かせた。


錬次「出たな自己PRッ!

いいねぇ~なっテンちゃん!」


瑠奈は眉をひそめ、

誠はニコニコと座ってお茶を飲む。


隼人は脚を組み、

肘をついて

「トーク番組のゲスト」みたいに話し始めた。


隼人「まず俺ね、サバゲー施設で

インストラクターしてまして。

装備の扱い? まぁちょっと得意なんですよ」


瑠奈「サバゲー……?何っ?」


隼人「うんうん。

サバゲーって奥深いの。

弾道、姿勢、索敵、風の癖……

ほら、美人さんも一回やってみる?」


瑠奈「やらない」


バッサリ即答する。


隼人は気にした様子もなく、

むしろ心地よさそうに笑った。


隼人「あとね、バイクいじりが趣味で。

さっき外に置いてたの、俺の愛車。

可愛いでしょ?

あれと旅してこの世界回ってた…感じ?」


錬次「なぁなぁ!

あれマジでカッケェよな!?

俺あんなの初めて見たわ!」


隼人「だよねぇ〜〜君、

見る目あるなぁ錬次くん!」


褒められた錬次は、

大型犬みたいに

尻尾が見えるほど嬉しそうだ。


瑠奈はその様子を、

「馬鹿だ……」という目で見ていた。


誠は笑顔で会話を聞きく。


一馬はただ静かに、

隼人を観察する。


隼人「……で!結論言うね」


隼人は笑顔のまま、

唐突に一馬の目を射抜くように見た。


隼人「俺、君らと一緒に行動したい。

一緒にいたほうが、生き残れると思ったから」


瑠奈「はぁ?……勝手に決めないで」


隼人「いや〜。

決めたっていうより、希望ね希望。

ほら、俺チャラいけどさ、

足手まといにはならんよ?」


なぜか錬次が得意げに腕を組み

考え込むフリ(・・・・・・)をする。


錬次「よし!良いでしょう」


瑠奈「はぁ?あんた馬鹿っ?

なんであんたが勝手に決めてんのよッ!」


錬次「なぁテンちゃーん!

いいじゃんいいじゃん!」


瑠奈「…っ!あんた話聞きなさいよ話!」


隼人「でしょ〜? 錬次くんは話が早い!」


誠「まま瑠奈ちゃん。

隼人さん……優しそうですし……

一緒でも大丈夫じゃないかな……?」


隼人「ありがとう誠さん

癒しオーラあって最高だわ〜キミ」


誠(真っ赤)「えっ……そ、そんな……」


隼人は一馬の方へ、

椅子を持って近づき座る。


その距離の詰め方が

“詐欺師のように滑らか”。


元々営業畑の一馬には、

何となくわかる独特の雰囲気。


隼人「よろしくね、カズマくん。

君……その感じ…ちょっと、

普通じゃない?

何となく…ね。興味があって」


瑠奈「……何?

含みのある言い方?気になるけど」


一馬「あれぇ~?何でそんなカッカッ

してるの?嫉妬しましたぁ瑠奈ちゃん(・・・)

紅一点のヒロイン枠独り占めオツです。」


瑠奈「はぁー!!何言ってんのよっ!」


隼人「あはははは。夫婦漫才だね」


瑠奈「違うっ!」


隼人の空気に合わせるように

軽口を叩く一馬。


一馬は軽く息を吸い、

隼人の目を観察した。


笑っているのに、

瞳孔が開ききっていない。

冷めた光が一筋中に走っている。


一馬(……詐欺師タイプ…

でも、敵か味方か…。

けど、“本当の目的”も言ってない)


隼人はローザに向き直り、

ウィンクした。


隼人「ローザさんもさ、賛成でしょ?

俺ら、仲間ってことで」


ローザ「いいわよぉ♡

アタシの可愛い子ちゃん達をよろしくねぇ?」


一馬「いつから俺が

ローザの可愛い子ちゃん(・・・・・・・)なんだよ」


ローザの鋭い視線と一言が刺さる。


ローザ「なんだとっ」


低く響く迫力のある声と、

盛り上がる二の腕に血管が走る。


一馬「あっ!いえ、問題ないっス。

僕は可愛い子ちゃん(・・・・・・・)で間違いありません。」


隼人「ははははッ任せて〜。

命の保証?ないけど♡」


瑠奈「冗談にもならないわよ」


隼人「だよね〜〜!ごめんごめん♡」


一馬はそのやり取りを

横目で見ながら思った。


(……損得がある限り協力は

惜しまない人間…)


だが、一馬の胸には不思議と

拒絶の感情は湧かなかった。


むしろ、似た感覚と

「面倒なやつだが嫌いじゃない」

そんな感情が残る。


これも隼人の社交術の

なせる技なんだろうと思うが…。


_____________

________


正午前に出発して歩き進む。


やがて、一馬達が足を止めた。


一馬「……ここなら、夜を越せる」


その視線の先には、

半壊した二階建てのオフィス跡。


壁の抜けた窓枠からは、

風がゆっくりと出たり入ったりしている。


瓦礫こそ散らばっていたが、

四方を囲むように倒壊した壁が風を遮り、

死角が少ない。


錬次は建物を見るなり、にかっと笑った。


錬次「よっしゃ!寝床確保!

腹……減ったぁ!!」


瑠奈「ちょっと!!」


瑠奈は声を潜めながら錬次を抑止しようと

するが、錬次の耳には届いていない。


一馬と瑠奈が、ゆっくり周囲を見回す。


瑠奈「ゾンビの気配は…ないわね」


一馬「こっちも……今日はここでいい」


隼人「一馬君、瑠奈ちゃん、

裏も問題ないみたいだよ。」


いつの間にか裏を確認してきた隼人。


その言葉に、

誠がほっと息を吐いた。


肩から下ろした荷物が、

砂埃を巻き上げて地面に沈む。


隼人は少し

離れた場所に立ったまま、

建物の骨組みを

目でなぞるように見ていた。


影を踏んで移動する。

靴音ひとつ立てずに。


そして、

誰にも頼まれていないのに

剥き出しの柱を押し、

わずかに傾いた(はり)を片手で支えた。


滑らかな動作…


瓦礫の重さを

身体全体で“受ける”やり方が

体を動かす事を熟知した

人間のそれだった。


(……ただのサバゲー講師?)


一馬は少し離れた位置で、

釘を拾いながら

隼人の背中を一瞬だけ見た。


その立ち姿に、

言いようのない安定感。


隼人「錬次君、そこの梁……押さえて」


隼人が声をかけると、

まるで現場監督のようなテンポで

次の作業が流れていく。


押さえる位置、角度、荷重。


言葉で説明しなくても、

隼人の指が示す

“そこ”がすべて正確だ。


錬次は言われるまま梁を支え、


錬次「おぉ!?なんか、俺、

職人みてぇじゃね?」


と嬉しそうに鼻を鳴らす。


隼人は軽く笑う。


隼人「いや君、力があるからさ。

こういうの向いてるよ〜。

デカいし筋肉ムキムキっ!最強だね」


錬次は満更でもない。


瑠奈は、その様子を

腕を組んだまま冷静に眺めていた。


瑠奈(……あの馬鹿、

もう飼いならされてる)


隼人の言葉は軽いのに、

手元だけは異様に正確だ。


誠が隼人の横で荷物を整えながら

素直に感心する。


誠「すごいですね……

こういう作業、慣れてるんですか?」


隼人「昔ね、遊び半分で

サバゲー施設(いじ)っててさ。

ああいうのって設備弄る(いじ)のも込みだから。

身体が覚えてんのよ」


一馬「いや実際、大助かりです!

野営するのに手際は命ですから。

作業中にビックリゾンビは、

日常茶飯事で万事休す手前ですから」


瑠奈は遠目にみて、

まだ警戒心が溶けていない。


隼人の笑顔は柔らかいのに、

足の捌きだけは、

獣のように静かで、安定していた。


■ 夜の支度──“些細な衝突”


日が落ち、

風の湿度が少しだけ冷気へ傾いたころ。


誠が小さなバーナーを火にかけ、

丁寧に刻んだ芋と肉を鍋へ落としていく。


誠「今日は……鍋つくるよ。

こういう日は温かいのが良いでしょ」


錬次「鍋!? 肉は!?

肉入んねぇの!?」


瑠奈がゆっくり、

冷たく言い放つ。


瑠奈「……あんたは

ジャーキーでも食べてれば?」


錬次は能天気に笑う。


錬次「えっ?瑠奈!

鬼の面みたいな顔になってんぞ」


瑠奈の拳が、

膝の上でわずかに震えた。


瑠奈「……くっ」


一馬「瑠奈っいちいち怒るな。

錬次…鬼の顔なんて言いすぎだぞ?

ほら…み…ほんまやっ!!」


一馬と錬次が爆笑する!


瑠奈「一馬ぁぁ殴る!!」


誠は鍋の前で固まり、

一馬がその間に滑り込むように座る。


一馬「まぁまぁほら、落ち着け瑠奈!

誠の鍋が泣いてるぞ」


誠「あははっ。よし出来た。」


隼人は焚き火代わりの

バーナーの光を眺めながら

細かい表情をいっさい変えず、

ただ静かにシーンを見ていた。


一馬はその視線に

ふと背筋を冷やす。


数時間後。

錬次と誠は早々に寝息を立て、

瑠奈も壁際で薄く目を閉じた。


風は静かで、

夜の街がいつもの

“死んだ景色”を

取り戻している。


一馬は眠れないでいる。


胸の奥に

狙撃の金属音が残っているようで、

呼吸を深くしても

肺の奥がざらついたままだ。


屋上へ登り、

冷えたコンクリートに腰を下ろす。


見下ろす街は、

闇に溶けて輪郭を失い、

星の光だけが

屋根の破片を細く照らしていた。


一馬「ふぅ……酒でも飲みたい気分…」


吐いた息が白く散る。


その時──サクッ。


背後でコンクリートを踏む、小さな音。


隼人「酒?あるよ……起きてたんだ?」


振り向くと、

隼人が片手を上げて

ひょいと屋上に姿を見せた。


いつの間にか近づいていた。


まったく気配を音に出さずに。


隼人「疲れた後って、

脳が逆に興奮して寝れないんだよな。

昔、似たような……ま、作戦?

そういうのがあってさ」


一馬「……作戦?」


隼人は少し笑って誤魔化した。


隼人「言い方が硬かったね。

ただの仕事よ。

それにほら、今日は特別にさ」


ポケットから取り出したのは、

小さくて古めかしい金属フラスコ。


月光を浴びて、

薄い銀色がゆらりと揺れる。


隼人「“隠し酒”。

一馬くんだけ特別に、ね」


一馬「おおおおおっ

ウィスキーですか?

こんな世界で酒が飲めるとはっ!」


隼人「何っ?一馬くんもいける口?」


キャップを軽く回すと、

微かなアルコールの

香りが夜風に漂った。


正直ガソリンと灯油ぐらいしか

この世界では見たことが無い。


隼人の目が細く笑っている。


ぐいっ

隼人がひと口飲み一馬に手渡す。


一馬も続けてひと口飲む。

ストレートならではの風味と強さ。


一馬「かぁぁぁぁ…強っ熱っ」

隼人「あははは、いいね」


喉が焼けるように熱い。

しかしこんな感じは

とても久しぶりに感じる。


夜の闇が、

ふたりの間にゆっくり沈んでいく。

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