DAY27 はじめまして、ちょっと怪しい男です
銃声の反響は、
まだ夜気の底に沈んで震えていた。
商業ビルの屋上から狙撃していた男は、
煙の中に消えた。
追撃に向かったのは──
一馬と錬次の二人だけ。
瑠奈は駐車場の外れから
走って合流し、
そこから後方支援に回った。
誠は病院側で動かず、
3人が戻るのを待っている。
夜はまだ冷たい。
クリムゾンムーンの熱が去り、
風だけが静かに生き残っていた。
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一馬と錬次は、
石灰の残り煙と車影を利用して
挟み込むようにビルへ近づいていた。
距離にして約200〜250メートル。
この距離を、狙撃者は正確に撃ち抜く。
(近づくなら一気に行くっ)
ビルの壁に貼りつき、
二人は視線だけで合図を送った。
錬次はスレッジを構えたまま、
荒い息を抑えきれずに漏らす。
錬次「……ぶっ潰す!」
一馬「……ああ」
屋上へ上がるルートを探り
屋上にたどり着く。
錬次は崩れた非常階段を飛び上がり
無理やり2階によじ登る。
一馬は隣のビルから侵入して
一気に駆け上がる。
空気が抜けるような静けさがある。
狂乱の血死潮でゾンビがすべて
で払った後がある…。
足跡や薬莢…
普通なら何かしら残る。
だがそこには、
“消えた痕跡”しかなかった。
屋上の隅に置かれた
小さな赤いレーザーポインター。
一馬が拾い上げる。
冷たい。
外気温と同じ温度。
一馬「……時間稼ぎ……か。
逃げられた。遅かった。」
錬次「ちっ……」
足で床を蹴る錬次の動きが、
夜の静寂に重く響く。
まるで
「追ってこいよ」
と置かれた“おもちゃ”のようだ。
一馬の胸の内で、
何かが静かに噛み合う。
(……目的はなんだったんだ?)
セントマーク病院の駐車場に戻る。
瑠奈と誠がいた。
彼女はホッとした表情を
一瞬見せ二人を見回す。
瑠奈「…どうだった?」
一馬「ああ、もう誰もいなかった。」
誠「三人共無事で良かったよ…ゴホッゴホッ」
そう言う誠の声の方が
大丈夫そうに思えないが。
錬次は鼻を鳴らして言う。
錬次「なんか腹減ってきたな」
一馬は短く言った。
一馬「よし!準備してギバーに戻ろう。」
瑠奈は頷く。
錬次は誠の肩に手をまわし
食事の催促をしている。
胸の奥に
冷たい不安がひとつ灯った。
4人はギバーへの帰路についた。
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今回は早々に出発し、
夜も歩き続けた。
ギバー周辺の空気は、
戦闘の緊張がまだ張りついている。
錬次が足を止めた。
錬次「うわぁ!スゲーカッコいい、バイク……?」
どこか温度感の違う乗り物。
ギバーの照明だけがぽつんと灯り、
赤い光が周囲の影を長く伸ばす。
その影の向こうに
見慣れないバイク が
ひっそりと鎮座していた。
夜露に濡れたボディの
表面は黒曜石のような艶を放っている。
手入れし続けてきた事を語る。
一馬は思わず足を止めた。
(……この世界のどこをどう走れば、
こんな状態でいられる?)
そして
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カウンターでローザが
誰かと盛り上がっていた。
「いやぁ〜ん♡ ちょっとアンタ〜!
そんなに褒められたらアタシ、
腰抜けちゃうわよぉ?」
男は軽く笑いながら、
片手でジャケットを肩にかけ、
もう片方の手で
ローザの手首を軽く握っていた。
チャラい!
チャラすぎる!
でも、その立ち方だけが──
妙に“整って”いた。
男「いやいや〜ほんと
マジで助かったッスよ、ローザさん。
こんな朝早くから
荷物運んでるなんてさ、働きすぎっしょ?」
ローザ「アタシ働き者だもの〜♡」
一馬と錬次が近づくと、
男はこちらへ笑顔を向けた。
男「おっ、君らが噂の4人組?
ローザさんから聞いたわ〜。
セントマーク病院の帰り?」
一馬「……え?誰?」
男は満面の笑みを浮かべ手を上げる。
錬次は男を見て眉をしかめた。
錬次「おっさん……誰だ?」
男「あ、自己紹介遅れたわ。
俺、**隼人**って言います。」
一馬「あっどうも初めまして。
唐突ですが、ハンドルネームは…ありますか?」
隼人「んっ?あーIronFoxって
呼ばれたりもしてたけど」
隼人「……まぁ昔の話ね。
今はただのバイク好きの遊び人よ〜」
喋りは軽く
物腰も柔らかい。
──だがその“立ち方”が軽くない。
重心が、まったくブレない。
地面に吸い付くように安定している。
一般人の体の置き方じゃない。
一馬(……なんだ…この違和感)
気配が止まっている?
息をしていないような気配?
まるで軍人が屋外作戦中にやる
省エネの立ち姿。
だが隼人は軽く笑う。
喋りは相変わらず軽いのに、
目だけが笑っていない。
光が揺れていない。
隼人「いや〜凄いね
大きな施設で生きて戻るとか」
瑠奈がじっと隼人を見た。
瑠奈「……あのバイク、アナタの?」
隼人「ははっ、俺の!いいでしょ?
デートしちゃう?
二人でデストピアラブ決めちゃう?」
瑠奈「なっ……」
絶句する瑠奈をみて一馬は少し笑う。
言葉は自然。
だが足元に目をやると、
ブーツも綺麗に手入れされている
汚れがあるが手が行き届いている。
一馬(……性格なのか?)
隼人はさらに柔らかい笑顔を向けてくる。
隼人「それにしても君ら、本当に運がいいよな〜。
セントマークから無事に戻るとかさ。
あんな地獄、普通行かないって」
錬次「ふんっ俺とテンちゃんなら当たり前だろ」
錬次をスルーして
ただ微笑むだけ。
隼人「ま、縁だしさ。よろしく頼むよ」
誠「あっ僕、誠です。宜しくお願いします。
で、彼女が瑠奈ちゃんで彼が錬次君です」
隼人は瑠奈にウィンクをして錬次に近づく。
隼人「おおーすごいねデカいね!
すげぇー強そうじゃん!」
錬次がまんざらでもない顔をする。
隼人「うわっすっごぃ筋肉だね」
錬次「えっ!へへっ…腕、太いでしょ」
隼人「君の手にかかればゾンビなんて一掃しそうだね」
錬次「へへっテンちゃん!
こいついい奴だな」
一馬・瑠奈(はぁー…バ!カ!)
隼人は錬次と
硬く握手をして肩を叩く。
そして
一馬の方に歩み寄り近づいてくる。
その瞬間、一馬の背筋に
小さな“逆流するような寒気”が上った。
言葉は軽い。
態度も軽い。
だが──
さらに一歩だけ近づく。
隼人「よろしくね、カズマくん」
その距離感だけが──
なぜか玄人感を感じさせた。




