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DAY22 セントマーク病院⑤

夜はまだ黒いが、

空気に張り詰めたものがあった。


一馬は階段の踊り場で、

銃を抱えたまま息を整える。


手のひらに馴染んだ冷たい金属。


光に反射して、

わずかに赤い火花が踊る。


下の通路は、

彼らが仕込んだ罠の列だ。


薄暗いタイルの上に、

小さな塊が幾つも置かれている。


踏むと音が出る。

焼ける匂いが立つ。


錬次が通るべき“狭さ”を、

あの通路が()いている。


一馬は弾倉を確かめる。


弾は十分ある。


ローザの箱が

重たくなるほどに補給してくれた。


無線はない。


声で呼べば、

群れは全方位へ散る。


だから位置と音で操る。


リズムを作る。

誘導の拍子を刻むのだ。


最初の一発を撃つ。


空気が裂け、

金属の乾いた音が

アーチ状に反響する。


反射で近くのパイプが小さく震え、

遠くのウォーカーの首がわずかに向く。


狙いは正確でなくていい。

方向を示すだけでいい。


二発目は少し離れた床の

コンクリに当てる。


弾が跳ね、火花を散らす。


そのたびに、群れの塊が

ゆっくりと向きを変える。


扇状に広がろうとする侵攻が、

音の軸に沿って擦り寄る。


一馬は拍子を変える。

速く、遅く、二発、三発。

音の“道筋”が作られていく。


ウォーカーは単純だ。

音に沿って進む習性を持つ。


その習性を利用して、

彼らは通路という“(かご)”に入る。


足元の罠が、

最初に小さく鳴った。


金属同士の乾いた衝突音。


一体が足を取られてひっくり返る。


錬次の場所から聞こえる、

殴打の重い音と混ざる。


これが狙いだ。

密度を上げ、動きを殺す。


更に銃声を刻む。


火の粉が上がる位置を変えるために、

わざと近い方の壁を狙って打つ。


火花は壁に伝い、

煙が小さく流れる。


煙は目くらましに使える。


視界が切れる瞬間、群れは迷う。

迷いが、罠を踏ませる。


足音が近づく。


鉄が擦れる音、

肌が裂けるような嗅ぎ鼻の音。


一馬は冷静にトリガーを引き続ける。


身体は動くが、脳は静かだ。

計算のリズムが心臓より速い。


罠が次々に、順に作動する。


小さな爆ぜる音、

鉄のはじける音、

そして木の破裂。


群れの列が切り裂かれ、

流れの向きが変わる。


二列が三列に、

三列が一つの塊に纏まる。


その塊を錬次が迎え撃つ。


一瞬、通路が赤く染まる。


炎の壁がうねり、

熱が階段の踊り場まで押し寄せる。


一馬は一息で

三発を撃ち切り、弾倉を替える。


その動作は無駄がない。


手順は繰り返され、精度は上がる。


「来い。そこだ。」


唇がそこだけ動いた。

声ではない合図。


錬次の重い一撃が通路に響き、

続けて金属が砕け、肉が崩れる。


罠が効いている。


計画が回り始めた事を、

体の底が告げた。


夜はまだ終わらないが、

今は確かに流れがある。


銃声が誘導線を描き、

罠がその線を閉じる。


一馬は次の拍子を読み、

目の前の暗闇に向けて音を刻み続けた。


煙の層が、

ゆっくりと薄くなっていく。


炎の波は鎮まり、

焼け焦げた臭いだけが残った。


どれほどの時間が経過したのか?

錬次は?誠や瑠奈は?


一馬(錬次にはキツイ場面を

背負わせている…)


安否が気のなるも警戒が解けない。


耳の奥が静かだ。


錬次の打撃音も、

誠の瓶の音も、今は遠い。



一馬は、通路の端に立ち、

周囲を見渡した。


炎の明滅に照らされる残骸。

動く影はもう数えるほどしかない。


血死潮(クリムゾンムーン)の波が、一度引いた。


(……かなり効果があった)


肩で息をしながら、銃を下げる。


耳の中で心臓の音が跳ねる。

煙の向こう、空気が少しだけ軽くなっていた。


その瞬間だった。


遠く、白いものが動いた。

光を反射して、夜の中に浮かび上がる。


――人の形。

ゆっくりと、スピードは無い。


だが確かに“走って”くる。


一馬はスコープを覗いた。

風で髪が流れ、顔が見える。


ドクんッ!!


心臓が一瞬跳ね上がる。


長い黒髪…

土と血で汚れた頬…

長い前髪に覆われた目元…


口は、裂けたように開いていた。


白いドレス。

純白ではない。


煤と血で灰色に染まり、

裾が泥を引いている。


(……無垢の女ウォーカー)


脳が即座にタグを出す。


ゲーム時代、

同名の特殊種を思い出した。


“喚声型”――群れを呼ぶタイプ。


見た目こそ儚げだが、

叫び声が“信号”になる。


「やばい……やばいッやばいッ」


小さく呟いた瞬間、

女ウォーカーの頭がこちらを向いた。


距離はまだ50メートル以上ある。


だが次の瞬間、

その口が、裂けるように開いた。


空気がねじれる。

高音と低音が混ざった叫び。


金属を削るような悲鳴が、夜気を貫いた。


同時に、一馬の足元の地面が震えた。

遠くの通路で、何かが蠢く音。


死にぞこないのウォーカー達が、

炎の残骸を踏み越えて這い出してくる。


「呼びやがった……」


一馬は即座に銃を構える。


狙いはその“白いドレス”。


トリガーを引く。

火花が閃き、銃声が夜を裂く。


弾丸は胸を貫いた。


弾丸の勢いに肩を後ろに弾くが、

だが女ウォーカーは倒れない。


わずかにのけ反り、また走り出した。


反射的に駆け出し錬次の元に向かう。


階段を飛び降り錬次に

聞こえるように大声を上げる。


「錬次、下がれッ!」


叫ぶが、返事はない。


一馬(無事でいろよぉ錬次ー)


錬次の姿が見える…

手にスレッジハンマーを握るも

動きがない。


白いドレスが、

非常用出入口に近づいてくる。


そのまま向かえば錬次が居る!


一馬まずい…クソが


走るスピードは一馬が若干早い。


錬次を横目に追い越し

非常用出入口に向かう。


白いドレス姿が可視化される。

一馬は歯を食いしばる。


“喚声型”は

走りながら再び口を開いた。


一馬は即座に判断した。


狙うのは声の源、

つまり喉。


銃を下げ、構え直す。

丁寧に両手を添える。


照準の中央に、

裂けた口が入る。


走る勢いで片膝をついて

体のブレを安定させる。


ゆっくり息を吐き

軽く吸って息を止める…


一馬タン…


指が触れるイメージで

引き金を引く。


乾いた音。


銃身が上に跳ねあがる。


火薬の爆発力が

弾丸を高速で筒から解放させる。


弾丸が喉を貫いた。


白いドレスの女は、

弾丸の勢いで後ろにのけぞり動きを止める


錬次「……うるせぇ、、よ」


いつの間にか

追いつき追い越していく錬次…


呟きと共にハンマーが

頭蓋をたたき割る。


叫びが止む。

世界が一瞬、静まる。


だが、遅かった。

すでに群れが動き出している。


通路の奥、炎の向こうから、

這いずる音が波のように戻ってくる。


暗闇の奥で、

数十の影が一斉に動き出した。


一馬「……マジかよ」


一馬は息を吸い、銃を構え直した。


その横で、

錬次の咆哮が再び響く。


瑠奈の矢光が夜を裂き、

誠の炎が通路を再び照らした。


夜が、再び動き出した。

第二波――クリムゾンムーンの本番が、始まった。

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