DAY1 裸一貫、草刈からクラフト一環
湿った草の匂いが鼻にからんだ。
背中に細い棘みたいな感触がいくつも刺さっている。
土は冷たく、指で触れるたび、濁った水を吸った
スポンジのように沈んだ。
息を吸う。胸の上を風がすべっていく。
そこでようやく、肌を覆うものが
何もないことに気づく。
――裸だ。
言葉がうまく口まで上がってこない。
代わりに喉から短い音だけがこぼれた。
「……あ?」
状況は分からない。
分からない、という事実だけははっきりしている。
ここはどこだ。なんで裸だ。どうして寒い。
なぜ草の匂いがこんなにも具体的なんだ。
そのとき、頭の奥で音がした。
男とも女ともつかない、温度のない声だった。
『まずは、衣服を作れ。』
「は? 衣服?……って、どこで!?
布も裁縫セットもゼロなんですけど!」
手元を見ると、スマホを握っていることに気づく。
勝手にクラフトアプリが立ち上がり
カメラが起動する……
言葉とは裏腹に、体は動く。
近くの草を引きちぎり、手に青臭さが残る。
何度も集め、スマホで撮影。
クラフトアプリに素材が並ぶ。
衣服のアイコンをタップすると、
次の瞬間、腰に巻ける布が手の中に現れた。
腰に巻き、胸元を覆う。
見た目は原始人だが、寒さは和らいだ。
「……くそ、なんなんだコレ、どこだココ」
声がまた頭に落ちる。
『次に、石と枝を拾え。道具を作れ。』
「え? 石? 枝? 道具って……」
周りを見渡し、足元を確認する。
木々が生い茂り、石も枝もいくらでもあった。
平たい小石を拾い上げると、
冷たさが皮膚を吸うように張り付いた。
スマホのカメラで撮影して下さい
納得も追いつかないまま、
頭に響く声に従い、撮影を済ませる。
クラフトアプリを開き、石と枝を選択。
画面をタップした瞬間、
手の中に石斧が現れた。
柄は少し曲がっている。
すぐ壊れそうな頼りなさだ。
いざ斧を手にしてみると、
思わず厨二病をくすぐられる。
少し微笑んでる事も気づかず
試しに近くの木へ近づく。
カンッ…と響く木の音。
「おわっ、腕にビリビリきた!」
二度、三度。木屑が舞い上がる。
顔から次第に笑が消える
確かに感じる感覚と質感
心臓が跳ねる。思考が収束する。
「……夢? 気でもおかしくなったか?
これは…徹夜でゲームとか…やるもんじゃ無いな。」
頭に響く声は待たない。
『武器を持て。』
「……次は……武器かよ」
響く指示に従い、硬い枝をカメラで確認し拾う。
スマホで撮影。クラフトアプリで棍棒を作成。
画面をタップすると、
手に棍棒が現れる。
素振りをすると、空気を切る音と
手のひらの皮が引きつる感覚が残った。
「この重さとこの感覚……
何か出てくるのか……?まさか…ね」
しかし気分が高揚して、何度か素振りをする。
ふと我に返って、額に手を当てた。
「ぷふぅー爽快感ッだぁ!違うッ!」
力強く棍棒を地面に叩き投げつける。
テンションが上がってしまった。
「くっ武器を装備だとか、
ゲーム好きの心を擽りやがる」
しかも棍棒なんて握る機会は現実には無い!
呼吸を整えると、
声がわずかに間を置いた。
『……チュートリアル、完了。
以降の指令は、この端末を通じて伝える。』
「チュ!?チュートリアル??」
スマホの画面が切り替わり、
見慣れないアイコンが点滅する。
【SYSTEM】「チュートリアル完了」
【SYSTEM】「本日の任務:供給者を探せ」
「……ギバー?
いやいやいや、まっ、まてまて……
うそでしょ? ゲームのやり過ぎ?
コレ?えっ?夢…リアル過ぎない?」
地図を開く。
自分の足跡が白い線になって伸びている。
最寄りの地点に印が点滅していた。
「……ギバー。
あの拠点の名前……だよな。
偶然? いや、でも……」
疑いと確信がせめぎ合う。
ここは、あの世界と同じだ。
突然、胸の奥で渇きが爆発する。
喉がひりつき、息が詰まる。
(かはっ!)
思わず周りを見渡す。
足元を見渡すと
水たまりを見つけた。
思考する余地も無く、
喉の渇きを潤す為、泥水をすくって飲む。
「ゴホッ……くっそ不味っ」
何てリアルな喉ごしとマズさ。
「おぇぇぇぇ!」
マズさに耐えきれなく吐く。
確かに感じた潤いと嫌悪感。
間違いなく、これは夢じゃない。
納得はしていないが確かな現実感に戸惑いながら
無造作に棍棒を拾い上げる。
棍棒の重さを感じながら、握り直す。
腰の布が軋む。風は相変わらず冷たい。
今は考えても答えが出ない。
コレか予想通りの内容であれば…。
「……やるしかない、か」
ギバーの印が、遠くで点滅している。
不安も恐怖も、結局は行動でしか
ねじ伏せられない。
俺は歩き出した。




