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DAY18 セントマーク病院①

夜が明けきる前、

空はまだ灰色を残していた。


「セントマーク病院」。

かつて白かった外壁は煤け、

鉄骨が骨のようにむき出しになっている。


正面玄関は見る影もなかった。

巨大な非常用シャッターが完全に降り、

その上からさらに鉄骨と廃車が

無理やり積み上げられている。


瑠奈「……ここ、完全に塞がってる。」


誠「うん。たぶん、内部からもバリケードされてる。」


一馬「正面は無理だな。下層から入るしかねぇ。」


息を潜めながら、

三人は側面にある非常階段を見つけた。


錆びた扉を静かに押し開け、

鉄の階段を下る。


歩くと広く続く空間に

金属音が夜気に混ざり溶けていく。


階下は薄暗く、湿った空気がまとわりついた。


非常灯だけが、

断続的に赤く点滅している。


一馬「……地下駐車場、か。」


誠「みっみんな、き、気を付けてね。」


怯えながらも勇気を振り絞る誠に

周辺を警戒し見渡しながら歩く瑠奈。


無数の車が並ぶ。


どれも錆びつき、ドアが歪んで開いたままだ。


床には――

ウォーカーとも人間ともつかない、

風化した血の跡が点々と続いている。

カビと埃の匂いが鼻を刺す。


人の気配も感じない。

それなのに、

“奴ら”の気配も、何故かまったく無い。


瑠奈「……妙ね。」

一馬「……ああ。静かすぎる。」


(……嫌な沈黙だ。)


階段を上りきると、

重く錆びた非常扉が待ち構えていた。


一馬が耳を近づける。

何の音もしない。


だが――「しっ!」


何かが「息を潜めている」気がした。


金属の取っ手をゆっくり回す。

わずかな音が、妙に大きく響いた。


瑠奈が弓を構え、誠がライトを準備する。

一馬が小さく息を吸い――押し開けた。


ギィ……と鈍い音。


薄暗い一階フロア。


瑠奈「少し周りを見てくるわ。

誠…いきましょ…」


誠「あ、ああ。う、うん」


倒れたストレッチャー、

散乱したカルテ、

壁には手の跡と古びた血。


しかし、誰の気配もない。


奥に進み病院から駐車場へ繋がる入口付近。


散乱する物をどかし一馬は前へ出て、

周囲を見渡す。――その瞬間!!!


――ガァンッ!!


反響する鉄の衝撃音。

反射的に一馬が振り向く。


視界の端で、何か巨大なものが振り下ろされた。


(ヤバい――ッ!)


瞬間、身体が勝手に動いた。

床を蹴り、左へ転がる。


スレッジハンマーが床を砕き、

粉塵と火花が散った。


コンクリが砕ける乾いた音が鼓膜を打つ。


一馬「なっ……だ、誰だッ!」


薄暗がりの中、

巨体の男が立っていた。


「はぁはぁはぁはぁ…ぷふー」


肩で息をし、

血と汗と鉄の匂いをまとっている。


汚れた作業服、

腕には黒いタトゥー。


その手に握られた鉄槌が、

光を鈍く反射した。


「そこかぁ――っ!!」


怒号とともに再びハンマーが振り下ろされる。


一馬は身を屈め、

床を滑るように回避。


勢いで肘が擦りむける。


すぐさま立ち上がり、

横に倒れていたストレッチャーを蹴り飛ばす。


ストレッチャーが転がり、

男の足元にぶつかる。


「あ()ッ!!」


ハンマーの頭が床に落ちる。


金属が鳴り、

隙が生まれた。


(いける――!)


一馬が距離を詰め、

腰の鉄パイプ斧を引き抜く。


構えた瞬間――。


「うおおおおおおっ!」


男の反応が速い。


腕でストレッチャーを弾き飛ばし、

ハンマーを水平に薙ぎ払う。


金属と金属がぶつかり弾かれる。


衝撃が腕に突き抜け、

指先が痺れる。


(力が……強ぇ!)


すぐさま体勢を立て直し

攻撃に移る。


巨体割に素早い動きに、

一馬は体勢を崩さず肩をひねった。


ハンマーの勢いを受け流し、

逆手で斧の柄を滑らせるように持ち替える。


狙いは、相手の脇腹――。


その瞬間、 足元が取られ体制が崩れる。


緊迫した空気と、

金属音を割るように声が響いた。


「一馬っ!!」


瑠奈の叫び。


振り下ろす寸前、

男の動きが止まった。


そしては反射的に一馬も手を止める。


ハンマーが床に落ち、

響く鉄の音。


息を荒げながら、

男が一馬を見つめる…


一馬(な、なんだ…)

警戒を解くわけにはいかない。


「……て、テンちゃん?」


一馬「は?」


「テンちゃんだろ!? オレだよ、れんじ(・・・)

錬次(れんじ)! 天海一馬っ、覚えてねぇのか!?」


瑠奈「……え?」


誠は息を呑み、

一馬は呆然と立ち尽くした。


幼い頃の記憶が、

一瞬、頭の奥で閃く。


幼稚園…小学校…校庭、夏の午後。


笑いながら肩を並べて走った。


一馬「えっ……れ、錬次(れんじ)?」


錬次は満面の笑みを浮かべ、

手を広げた。


錬次「やっぱテンちゃん

じゃねぇかッ!」


一馬「……錬次……お前、

なんでココで??」


錬次「おう!つーかよ、まさか

こんなトコで再会するとはな!

しっかし不意打ちして避けられまくり、

テンちゃん、昔っから 相変わらず強ぇよなぁ!」


一馬「それより……お前、いきなり

スレッジで人殴るやつがあるかよ!?」


錬次「いやぁ、悪い悪い!

完全にゾンビだと思っちまってよ!

よく見えねぇし、テンちゃん 動き早ぇし!」


一馬「早ぇから殴るなよ!

説明の順番おかしいだろ!」


誠が苦笑いしながら

一歩前に出る。


誠「えっと……知り合い…かな?

その …れんじ…君?」


一馬「ああ。幼馴染…小学校の時の…」


錬次「おう!親友だっなぁーテンちゃん。

でっ、ん?そっちの二人は?」


瑠奈は弓を下ろしながらも、

まだ表情は固まり警戒している。


瑠奈「……あたしたちは一馬と

一緒に動いてる。

“ギバー”の依頼で、

医療物資を取りに来ただけ。」


錬次「へぇー、なるほどな!

テンちゃん、彼女と一緒かぁ!」


瑠奈「なっ!?違っ…」


瑠奈は顔を真っ赤にして否定する。


錬次「おいおい、モテ期じゃん!

やるじゃん!」


一馬(随分逢わない間に、

ノリはより軽くなったなぁー

基本、馬鹿な感じは、まんまだけど)


そんな瑠奈を横目に

まったく話を聞かない錬次…


一馬「はぁーお前ほんっと変わってねぇな……」


誠はその調子に少し安堵(あんど)しつつ、

「はは」と小さく笑った。


誠「僕は誠。非戦闘員だけど、

料理とか観察担当。錬次、よろしく。」


錬次「おー!いいね!

飯係がいるチームは

生存率高いんだぜ!」


瑠奈「へぇ、あんたその口で言う?

さっきまで人殺す勢いだったくせに」


錬次「はっはっは!テンちゃん舐めすぎ。

それに戦いは挨拶みてぇなもんだろ!」


一馬「いや、全力で間違ってるからな」


瑠奈「……こいつバカね」


錬次「んー?暴れたら腹減ったぁ、

まこっち食べ物無い?」


瑠奈の眉がピクリピクリと動いた。


一馬(うわぁーどんどん薪をくべるよコイツ(錬次)


一馬が間に入る。


一馬「落ち着け。お前は何でここに?」


錬次はハンマーを肩に担ぎ、

にやりと笑う。


錬次「決まってんだろ、“戦うため”だよ」


一馬「……は?」

誠「え?」

瑠奈「はぁ?」


錬次「いやさぁ、この病院な、

ゾンビ多いって聞いたんだよ!

だから片っ端からブッ倒してたら、

いつの間にか誰もいなくなってた!」


一馬「……お前、掃除でもしてんのか?」


錬次「だって動かねぇ世界って退屈だろ?

戦ってる時が一番、生きてる感じすんだよ!」


瑠奈「……うわ、救いようのない脳筋」


誠「う、うん……なんというか、すごいね」


一馬「はぁ……まぁ無事でよかったけどよ、

俺たちはもう行く。依頼がある」


瑠奈「そうね。遊んでる暇はないの」


錬次「おう、気をつけろよ!」


――と、彼は軽く手を振る。

だが、そのまま後ろをついてくる。


一馬「……おい、ついてきてんぞ」


瑠奈「……ねぇ、なんで(・・・)ついてくるの?」


錬次「え?いや、一緒に行くよ?」


瑠奈「はぁ!?なんでよ!」


錬次「テンちゃんいるし!

戦う仲間がいた方が 心強いだろ?」


瑠奈「却下!」


錬次「了解!」


錬次は満面の笑みを浮かべる。


瑠奈「いや、聞けよッ!」


瑠奈はまた顔を真っ赤にする。


一馬「……ちょ、ちょっと待て、錬次

お前は戻れ。ここから先は危険だ」


錬次「危険?嘘ぉ?上等じゃねぇか!

うわぁーぶち上がるなコレ」


瑠奈「そういう意味じゃないの!」


誠「はは……ご、豪快…だね」


一馬「お前な、頼むから少しは聞けって……」


錬次「うーん……でもなぁ、

テンちゃんが行くってんなら、

俺も行くしかねぇだろ!」


一馬「いや、なんでだよ!?」


錬次「理由?友情!!」


瑠奈「……脳まで筋肉詰まってるわね」


一馬「……やれやれ」


誠「まぁ……悪い人じゃなさそうだし、ね

そ、それに僕は戦闘苦手だから…ね。瑠奈ちゃん」


瑠奈「…はぁ……もう知らない。ついてくれば?」


錬次「よっしゃぁ!そうこなくちゃな!」


一馬(さすが誠っ!ナイス!)


瑠奈「もういい、出発するわよ!」


錬次「へいへい、姐さん!」


瑠奈「だれが姐さんよ!!」


一馬と誠は肩をすくめ、苦笑した。

三人+一人の足音が、

静まり返った病院の廊下に響く。


……不思議と悪くなかった。


一馬(……このバカ、憎めねぇんだよな)


狂乱の血死潮(クリムゾンムーン)まであと1日…

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