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DAY14 2丁目への招待状

風が止まり、世界が音を失った。


川幅はおよそ40メートル。


かつては車が行き交っていたであろう橋は、

今や鉄骨とひび割れたアスファルトの

残骸だけが残っている。


緩やかな川の流れが太陽を反射し、

鈍い光を放っていた。


だが――誰も落ちたくはない。

濡れれば体温を奪われ、死へ直結する。


瑠奈が橋の端に立ち、足で鉄骨を叩く。

金属の鈍い音が響く。


「……錆びてるけど、頑丈そうな鉄骨ね」


彼女は短く言い切ると、

軽やかに最初の一歩を踏み出した。


その動きは体操選手のようにしなやかで、

足場のわずかな傾きにも即座に反応していた。


一馬(おっ!やっぱり身のこなしがいいな)


俺は喉を鳴らしながら、

崩れかけたアスファルトに足を乗せた。


「……こ、これほんとに行ける?

ゲームなら“バランスゲージ”出るやつだぞ……」


瑠奈「喋ると揺れる。黙って集中して」


一馬「実況封印了解っ……!」


背後では誠が静かに様子を伺い、

風向きと足場の安定を確認していた。


瑠奈「風は南。鉄骨が湿ってるから、

滑らないように体重は中心に。

無理だと思ったら戻て」


その淡々とした声が、

逆に不安を落ち着かせた。


やがて、三人は橋を渡りきった。


目の前には、

道を塞ぐように並んだ数台の廃車がある。

草が絡み、タイヤは半ば地面に沈んでいた。


瑠奈が慎重に前へ進み、

車の下を覗き込む。


瑠奈「……異常なし。クリア――」


その瞬間、

車の死角から何かが“転がり出た”。


黒ずんだ皮膚、ねじれた関節。

腐臭とともに、ウォーカーが飛び出す。


瑠奈「ッ!」


瑠奈が咄嗟(とっさ)に弓を構えるが、

狭い距離では間に合わない。


俺の体が先に動いた。


一馬「――瑠奈、下がれッ!」


鉄パイプを横に払う。

鈍い衝撃が腕に響き、

ゾンビの顎が軌道を逸れた。


だが、掠めた爪が俺の肩を引っかく。


生温い痛みと共に、

ジャケットが裂け、血が滲んだ。


「くっ……!」


瑠奈「一馬っ!」

誠「一馬っ!!」


反射的に彼女がナイフを抜き、

ゾンビの喉を正確に突き刺す。


鉄の臭いが漂い、

その体が地面に崩れ落ちた。


数秒の静寂。


誠が駆け寄り、

俺の傷口を見て眉をひそめる。


一馬「浅い……けど、血が止まらない。

噛まれてはないな?」


誠「……多分、引っかかれただけ……だと思う……」


息が乱れる。

頭が妙に熱い。


急に力が抜け、膝から崩れ落ちる

――まさか、感染……?


(や、やば……これ……

ゾンビ映画だったら100%感染ルート……)


誠「拠点までもう少しだ。

動けるか?」


一馬「……余裕余裕。」


笑ってみせるが、立ち上がれない。


腕に力が入らず、足がふらついた。


視界の端が白く滲む。


一馬「これぐらい、HP半分減っただけ……」


瑠奈「ばっ…バカ、無理して喋らないで…」


その声がやけに遠く聞こえた。


(なんだ……急に……体が……)


景色が傾いた。


崩れ落ちる瞬間、

瑠奈の手が俺の腕を掴むのが見えた。


瑠奈「一馬ッ!!一馬?」


遠ざかる意識の中で、

誰かの叫びと足音、

そして鉄パイプが地面を叩く音が混じり合った。


瑠奈が動揺して叫んでいる(さま)

誠が落ち着かせるようになだめる…ような…


闇の底に沈みながら、

俺は思った。


気が付くと、天井が見えた。


妙にレトロなデザインの天井に壁。

朽ちた棚を組んだベッドの上に寝かされていた。


「……あ、気が付いた?」


隣で誠が椅子に座り、

心配そうに覗き込んでいた。


仏の誠が安堵の表情を浮かべる。


誠「一馬、ずっと熱にうなされてたよ。

……今、ローザを呼んだから」


一馬「ローザ……?」


誠が頷く。

「医者だよ。この辺りを仕切ってるギバーのひとり」


医者。しかも女性。

心臓がドクンと跳ねた。


(えっ、医者!?この世界の医者だと!?

やっべーマジで来た!

ゲームあるあるの“NPCヒロイン枠”!!

ナース服か白衣か、どっちだ!?

おいおいおい!ここでついに、

俺にも癒しキャラ解禁ってわけ!?

もうフラグビンビンじゃん!

ついに……ついにこの荒廃世界に女神がっ!!)


俺は勝手に未来予想図を描き、

ひとりでベッドの上でバタバタしていた。


誠「ちょっと待ってて……

ちょうど瑠奈が呼びに行ってるから」


キィー


金具の部分の油が切れている音がする。


ドアが開いた。


「回診でぇぇす……」


華やかに伸びる声。


俺は条件反射で起き上がった。


そこにいたのは――


身長190近く。

肩幅ゴリゴリ。

分厚い胸筋の上には

はちきれんばかりの白衣。

腰にはスリット入りのドレス。

ロン毛のカツラに

濃いアイシャドウ、真紅の口紅。

だが足元は軍用ロングブーツ。


俺「えっ……えっ……えっ……」


ローザ「あらっ起きたのね。

お寝坊さんなんだから。

ちょっとお熱と診察しますね。」


一馬(えっえっえっえっ!?)


俺「ここにきて、おかしいだろ!?

なにその二丁目仕様!?

いやいやいやいや!

待って待って待って!

え?なにその僧帽筋!?

え?肩に住んでんの?小人!?

顔のメイクと二の腕の血管、

完全に別ジャンルだから!

胸毛見えてんぞ!?

どの層狙い!?!?

てかドレスと白衣って

何のハイブリッド!?

なんでブーツ!?

ミスマッチにも程がある!

お前……どのボタン間違えて

キャラメイクしたんだよぉぉぉぉ!!」


俺はマシンガンのようにツッコミを浴びせた。


ローザはしばらく

ニコニコ(に見える厚化粧)していたが


――

「ヒィィィィィィ!!!!」


突然のインパクトに怯える俺…

だがその瞬間――ローザ「……うるせぇ」


ローザの野太い声が響いた。


ガシッ!!


首に、分厚い腕が絡みつく。


「えっ?えっ?ちょ、待っ、ぐるじぃぃぃ!?

ちょ、腕太ッ?これ、えっ腕太っ!?

やめ、やめやめやめ、

落ちる落ちる落ちるぅぅぅ!」

必死にもがくが、

バルクアップした筋肉の壁に抗えるはずもなく――


頸動脈をキュッと締め上げられ、

視界が一気にチカチカした。


「んぐぅぅぅ……」


そのまま、俺の意識は

スッッパァーンと真っ暗になった。


気を失う直前、

瑠奈の呆れ声だけが耳に残った。


瑠奈「……だからバカなのよ」


誠の声は楽し気に笑う


誠「あははははは、

まぁ……これで熱も下がるだろ」


薄れる意識に聞こえる楽し気な会話。


ローザは腕を解き、俺をベッドに横たえると、

低い声でぼそっと呟いた。


ローザ「男は黙って寝てな♡」


俺はその言葉を最後に――

静かに気絶した。

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