DAY13 朝の出発
夜明け。
ガソリンスタンドの屋根越しに、
淡い光が差し込んでいた。
ランタンの火はとっくに落ち、
代わりにカラスの鳴き声が耳に残る。
昨夜の戦闘で血と鉄の匂いがまだ残っていたが、
空気は少し澄んでいるように感じた。
俺は背中の荷物を締め直し、
深呼吸をひとつ。
「……よし。今日もログイン継続中ってことで」
実況口調で言うと、
誠が「ふふ」と笑い、
瑠奈が「くだらない」と即切り捨てた。
だが二人とも、ほんのわずか
表情が和らいでいた。
ふざけてはみたが
頭の中は昨日の夜の会話がぐるぐる回る。
---昨晩
ランタンの火が小さく揺れていた。
外はもう静まり返っているが、油断はできない。
ウォーカーの呻き声が遠くでかすかに響くたび、
俺は無意識にパイプを握り直していた。
ぽつりと口を開いた。
一馬「……なぁ、二人は何日目?リポイスは?」
タダの状況確認と興味本位……
瑠奈「はぁ?リポイス?馬っ鹿じゃないの!
死んだら終わりに決まってるじゃない。」
一馬(えっ?)
俺は一瞬で息を呑んだ。
一馬「え、えーと……いや、その……」
誠も火の光越しに
こちらを見て、眉をひそめる。
誤魔化そうとしたが、
瑠奈は真っ直ぐに俺を見て言い放った。
瑠奈「……気を抜いたら一瞬で死ぬのよ。
私と誠は何度もそれを見てきた。
仲間も、知らない誰かも。
だから生き延びるには一秒も気を抜かないこと」
その声音は鋭く、
心臓に突き刺さるような冷たさがあった。
誠も小さくため息をついて首を振る。
誠「そうだよ一馬。冗談でも笑えないよ。
死んで戻れるわけ無いじゃないか?」
誠「俺達はもう、
90日以上ここで生きてるんだ。
死んだらそれで終わり。
リスタートもリロードもないんだよ」
瑠奈「こんな状況でゲーム感覚なんて、
一馬、アナタ頭おかしいんじゃないの?」
俺は何も言えなかった。
返す言葉が、喉の奥で詰まった。
(自分でも気は確かなのか気にはなる
しかし……でも、俺は本当に“戻った”。
三度も死んで、それでもここにいる)
心の中で叫んでも、口には出せない。
出したら、この二人に“狂人”だと思われる。
何より「死ね」なんて助言自体ありえない。
瑠奈はランタンの光を横目に、
ナイフを拭きながら淡々と続ける。
誠は弱々しい笑みを浮かべながら、
火にかざした手を見つめていた。
瑠奈の横顔は影になり、
その目は鋭く外を睨んでいた。
誠は逆に、どこか
諦めを滲ませたように見えた。
少し気まずかったのか
瑠奈が口を開く。
瑠奈「……気を抜いたら一瞬で死ぬのよ。
私と誠は何度もそれを見てきた。」
瑠奈「仲間も、知らない誰かも。
だから生き延びるには一秒も気を抜かないこと」
聞くところによると実際同じ境遇の
プレイヤー達が居たらしい。
気が狂い戦闘から離脱する者や
狂気に呑まれプレイヤー同士、争うものや
ゾンビの餌食に会った者……。
誰一人として消えたものと遭遇していない。
(1日目に戻るから時間軸が
ズレるとも推測できるが……
90日過ぎ生きている2人と
現状は22日の俺……他の奴に遭遇しても…)
瑠奈がつぶやく
瑠奈「のんきね…」
その声音は鋭く、心臓に
突き刺さるような冷たさがあった。
だがその奥に、かすかな震えが混じっていた。
――怖いのは、きっと俺だけじゃない。
そう思った瞬間、妙に胸が熱くなった。
俺だけが違う。
“死んでも戻れる”と知っている。
だけど、それは言えない。
火の音が、やけに大きく聞こえた。
俺は何も答えず、
ただ鉄パイプを抱いたまま、
暗闇に溶けるように目を閉じた………。
―――
……誠「さてとっ!これぐらいでいいかな」
誠はコンビニの残骸から持ち出した缶詰や水を、
きれいに袋に詰め直していた。
荷物の重さを均等にし、
一人ひとりの負担が偏らないように分配する。
誠「はい、一馬はこれ。
食料は三人分で一日半……。
次の補給ポイントまで繋ぐには、
途中で何か見つけないと」
その口調はまるで遠足の班長。
だが効率的で安心感があった。
一方で瑠奈は、
車の下や看板の影を
一通りチェックしてから戻ってきた。
瑠奈「クリア。
この周辺にはもうウォーカーの気配は無い」
やる事に無駄が無い
彼女の動きはしなやかで速く、
まるで戦闘より探索が本職みたいに思えた。
俺はその二人の背中を見ながら、
感銘すら覚えていた。
――この二人の連携は
役割分担がはっきり出来ている
誠が補給と整理を担い、
瑠奈が戦闘と警戒を支える。
即席ではない
長い間この世界を二人で生きてきた。
そんな呼吸が自然に出来上がっている。
新参者を
守られるでもなく、守るでもなく。
ここに居場所を作れるかどうかは、
俺の動き次第ってわけだ。
---
「さて、一馬」
誠が地図を広げて見せた。
スマホの画面に浮かぶルートは、
青いラインが途切れたまま続いている。
誠「昨日の廃墟とは別に、
もう少し先に“ギバー”のがあるはずなんだ。
ただ、ここから直線じゃなくて、
一度川を渡らないとたどり着けない」
一馬「川渡り、か……広いな
俺、水泳スキルは持ってないぞ」
冗談めかして言ったが、
誠の顔は真剣そのものだった。
誠「渡る橋はあるよ…確かに広いけどね。
タダ…まだ橋が残ってればいいんだけど。
もし落ちて流されれば即アウトだ。
だから物資は軽くしておきたい」
瑠奈はナイフを腰に差し直し、
弓を背に回しながら短く告げた。
瑠奈「躊躇してる暇は無い。
次のギバーを目指さなきゃ、
どちらにしても三日後には食料が尽きる」
俺は頷いた。
昨日までの俺なら、
“ソロプレイ”の延長で考えていたのだろう。
けど今は違う。
三人の“パーティー”で進むんだ。
一馬「……了解。
じゃあ今日の実況タイトルは、
“隣のギバー探索編”ってことで!」
瑠奈「うるさい」
誠「ははっまあ、タイトルがあると
頑張れる気はするけどね」
一馬「でしょー!?ほら堅物…」
瑠奈「う・る・さ・い」
相変わらず辛辣な瑠奈と、
仏のような誠(誠マジ神です)
二人の温度差に苦笑しつつ、
俺は鉄パイプを握り直した。
目指すは次の補給地点、そしてギバー。
100日の生存に向けて――
俺たちの旅が再び動き出した。




