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DAY12 ガソリンスタンドの一夜

狂乱の血死潮(クリムゾンムーン)が明けて一日。


赤黒い月はもう空から消え、

世界は、いつも通りの灰色に戻っていた。


呻き声はある。

だが昨夜のように狂った群れは来ない。


その分だけ、

耳に入る静けさがやけに不気味だった。



俺と瑠奈、そして誠。


三人で辿り着いたのは、

郊外のガソリンスタンド。


隣に小さなコンビニが併設された

典型的な外国映画の光景だ。


周辺を見渡し中のゾンビを狩る準備をする。


割れたガラス、散乱したお菓子の袋、

色あせたポスター。


電気はとうに落ちているが、

屋根と壁があるだけで心強い。


「とりあえず、ここで一夜を凌ぐしかないな」


俺がそう言うと、瑠奈と誠は頷く。

――深夜。


静まり返ったガソリンスタンドに、

カサリと小さな音が響いた。


「……来た」

瑠奈が低く告げる。

その手には弓、矢を一本番えている。


暗闇から這い出てきたのは、5体のウォーカー。


狂乱の血死潮(クリムゾンムーン)の狂乱は終わっている。


だが日が欠けた時のゾンビは動きは十分速く、

油断すれば喉を食い破られる。


俺は鉄パイプを握りしめる。


誠は――なぜか両手にフライパンを

構えて震えていた。


誠「ご、ごめん、おれ、戦闘無理だからな!

料理道具は料理に使うもんだろ!?」


一馬(え?)


瑠奈「大丈夫、盾にすれば戦えるでしょ?」


一馬「ええっ!いつもこんな感じ?マジか…」


怯える誠をよそに、

瑠奈が先頭へ矢を放つ。


スパン、と乾いた音。

矢は額に突き刺さり、1体目が崩れ落ちた。


**討伐1体目。**


残り4体が一斉に唸り声をあげて突進する。


一馬「速ぇ速ぇ速ぇ!近い近い近い!」


実況じみた声を上げながら、

俺はパイプを横殴りに振る。


鈍い音…肩を砕いて二体目を床に叩き伏せる。


**討伐2体目。**


3体目が横から噛みつきに来る。


一馬「あっやっべ!」


咄嗟にフライパンを

突き出したのは誠だった。


ガンッと金属音。


牙が鉄板に食い込み、誠が半泣きで叫ぶ。


誠「ひぃぃぃ! 俺のフライパン返せぇぇ!」


その隙を見逃さず、

俺がパイプを振り下ろして頭を砕いた。


**討伐3体目。**


残り2体。

1体はカウンターを飛び越え、

瑠奈に襲いかかる。


彼女は驚くほど軽やかに身を捻り、

床に手をつきながら体を回転させる。


足が大きく振り抜かれ、

ウォーカーの顎を蹴り飛ばした。


そのままナイフを逆手に突き立て、

喉元から後頭部へ貫通させる。


**討伐4体目。**


最後の1体が誠に掴みかかる。


「やだやだやだやだ!来んなぁぁ!」


必死にフライパンを振り回す誠。


カンッ!ガンッ!と金属音が響き渡る。

だがダメージは足りない。


ウォーカーの腕が誠の肩を掴んだ。


「誠ぇぇぇ!」


俺が突っ込むより早く、

瑠奈がカウンターを蹴って飛んだ。


弓を逆手に構え、

木製の柄を側頭部に叩き込む。


ぐらりとよろけた瞬間――


俺が鉄パイプを横薙ぎに振り抜いた。

頭蓋が砕け、最後の一体が沈黙した。


**討伐5体目。**


……静寂。

残響のようにフライパンが床を転がった。


誠は肩で息をしながら、

膝をガクガク震わせている。


誠「む、無理……心臓止まる……」

一馬「それでも役に立ったじゃん」


瑠奈「いつもこんな感じよ」


俺が笑うと、誠は涙目で睨み返した。


瑠奈はナイフを拭き取りながら、

俺と誠を順に見やった。


「……まあ、悪くない連携ね」


それだけ言って、

彼女は再び店外へ視線を戻した。


3人での初めての戦い。

ぎこちなくても、不完全でも。

確かにここに“共闘”が生まれた。


ドアの隙間に木片を挟んで固定していく。

手際は慣れていて、音も静かだ。


家事担当の本領発揮ってやつか。


瑠奈は片手にナイフを持ち、

無言のまま売店を歩き回っていた。


彼女の視線は常に外。


たとえ日常の廃墟でも、

油断は一秒も許さない。


俺はカウンターに残っていた缶詰と

ペットボトルの水を拾い集めた。


「本日の報酬ドロップ、しょぼいけど……

まあ、贅沢は言えないか」


つい独り言が実況口調になる。


「……暇があったら缶詰開けなさい」


瑠奈に突っ込まれ、思わず肩をすくめる。


缶詰を開ける音が響き、

その匂いがわずかに空気を変えた。


戦闘が終わり、

再び静けさが戻ったガソリンスタンド。


血の臭いが残る中、開けた缶詰を手に持ち

誠が当然のように動き始める。


ランタンを外し、火を少し強める。

倒れた棚板と空き缶を使って即席の台を組み、

そこに缶詰を並べる。


まるで慣れた料理人の動作だった。


「……おいおい、キャンプ飯タイムか?」


俺は思わず口にした。


誠は振り返らず、真面目に答える。


「温めれば気持ちも落ち着く。

火のある場所で食べることが大事なんだ」


缶詰がぐつぐつと音を立て始める。


鉄臭い血の匂いに混じって、

肉と豆の香りが広がった。


一瞬だけ、この廃墟が普通の食卓に思えてしまう。


俺は呆然とその手際を眺めた。

缶を傾ける角度、ランタンの火力の調整、

無駄のない動き。


素人の俺から見れば、

完全に“プロ”の所作だった。


一馬「……すげぇな」


思わず漏れた言葉に、誠は肩をすくめる。


誠「料理くらいしか取り柄ないから」


一馬「取り柄って……。

いやこれ、命の取り柄だろ。

ゾンビと戦うより大事なスキルだぞ!」


興奮気味に言った俺に、

誠は苦笑しながら缶詰を分けてくれた。


瑠奈は黙ってナイフを拭きながら、

当たり前のように隣でそれを受け取っている。


――そうか。

この二人にとっては、これが“日常”なんだ。

料理を作り、食べ、生き延びる。


その繰り返しをもう続けてきたんだ。


温かい缶詰を口に運んだ瞬間、

胃が熱を帯び、

心臓がやっと落ち着いた。


一馬「……うまっ。

いや、マジで……今までで一番のご馳走だ」


誠「お粗末様でした」


感動の声が自然に漏れた。

誠は照れたように目を逸らし、

瑠奈は無言のまま、

夜の外を警戒し続けていた。


久しぶりに“食事らしい食事”だ。


瑠奈が俺の肩の裂傷を見て、

無言で消毒液を取り出す。


瑠奈「しみるけど我慢して」


一馬「ぎゃあああ! やっぱ無理!」


瑠奈「ダメ。黙って」


誠は小さく笑った。

この緊張感の中で、やっと見えた人間味。


夜は深まる。

だが外は昨夜のような狂乱ではない。


ただ、時折ウォーカーが一体、二体と

遠くを通り過ぎる気配だけ。


一馬「……狂乱の血死潮(クリムゾンムーン)の夜じゃないだけで、

こんなに静かに思えるんだな」


俺が呟くと、瑠奈は肩をすくめた。


瑠奈「錯覚よ。

あの月が無くても、奴らは消えない」


誠は頷き、手帳を取り出して

何か書き込んでいた。


瑠奈「次の移動先を考えないと。

それと、廃墟で拾える物資のリスト」


それよりもこの状況は

人間の痕跡――プレイヤーの存在を示していた。


誠「…ねぇ一馬君」


一馬「なんです?あっ!一馬でいいですよ」


誠「え!じゃあ一馬、一緒に行こう」


瑠奈「なっ!何言ってるの?」


誠「まぁ瑠奈ちゃん、考えてもみて。

俺は戦闘は得意じゃないし、一馬く…一馬は

とても強いじゃん」


一馬「えへえへ、えーそうですかぁ??」

瑠奈「黙って!!」


一馬(へいへい…うわぁー怖ぁー)


沈黙…考え込む瑠奈が口を開く。


瑠奈「わかったわ」

誠「さすが瑠奈ちゃん!一馬もいいよね??」


一馬「えっ?あっうん。こちらこそよろしく」

誠「さすが一馬心強いよ!よろしく」


一馬「改めて自己紹介。俺の名前は天海一馬

ハンドルネームはTENMA100てんまワンハンドレット


瑠奈が思わず反応するが何も言わない。


瑠奈がじっとこちらを見ている。


一馬(メタリックなスライムか!)

心で小さなツッコミを入れる。


昨日までとは違っていた。

今は一人じゃない。

俺以外の息づかいが、すぐ近くにある。


安堵か、不安か。

まだ答えは出ない。


それでも――

俺たちは三人で、

廃れたガソリンスタンドの片隅に腰を下ろし、

初めての“人間同士の夜”を過ごした。

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