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第十話(最終話)

サ・ルサリアへの凱旋を果たし、女王に東大陸討伐の勝利を報告したキュウカは、そのまま国都へと留まり、主将として戦の末に得た領土の分配と論功行賞の務めを果たします。

キュウカは、サイフォンを始めとする腹心の将達に、その功積への恩賞として爵位を与えると共に、東大陸南方諸国の東海岸沿いの郡領の全てに彼等を領主として配する事を求めます。

そして、残りの領土に対しては、ヴァーナード伯の功積を最高のモノとして諸侯達へと割譲する事を提案しました。

キュウカの量ったその論功行賞に於いて、彼自身は東大陸内に一握りの領土を得る事も無く、それを慮った女王に対し、キュウカは言いました。

『私自身が領土を得るのも、私の腹心たる者達が領土を得るのも、何らその意味に変わりは在りません』と。

それでも彼に対し、何らかの恩賞を与えなくてはならないと考える女王に、キュウカは、『それでは、女王陛下直々の宣告を以って、私を正式にサッペンハイムの公爵に御命じ下さい』と求め、それを許されます。

そのキュウカの求める事に適った論功行賞によって、東大陸に於ける領土の分配は以下の形となりました。

東大陸北方と南方を分かつ要衝たる大砦城守衛の都督を担うサイフォンが領土最北の領郡より南の二郡を領し、それに東沿岸となり連なる南方の三郡をウリョウ、その南方一郡ずつを其々にガルズ・ラズウィル・ディフ・ヒユウ以下の功積ある諸将が連なる形で領有し、サイフォンの領郡の真南よりアルス・ヴァーナード伯が二郡、そして残る地を諸侯達がその功積によって分配。

結果、戦いによって得られた領土の三分の一をキュウカの宿将達が領有し、残りの三分の二を諸侯達が領有する事となりました。

しかし、キュウカが自分達サッペンハイム軍の功積を抑えて、諸侯達に多大な領土を割譲する論功行賞の決定には、宿将達には完全な統治権が与えられるのに対し、諸侯達にはそれを認めず、更にはガルズ・ラズウィルの二人を以って、その統治を監理する地位に置く事が条件として加えられました。

諸侯達はこれを受け入れ、残りの論功行賞は各領主達が自らの配下の者達に施すのみとなり、各々がその所領へと帰還するべく国都を離れます。

それはキュウカも又同じで、女王への挨拶を無事済ませると、諸将と共に公領への帰還の途に着きました。


サッペンハイムへの帰路の途中にて、キュウカは、長い戦いの日々の疲れからか体調を崩し、軽い病の身となってしまいます。

それを案じるサイフォン達に、キュウカは、心配要らないと笑って応えますが、サッペンハイムに戻った後も彼の病は快癒する事無く、そのまま小康の状態を保つのみとなります。

そうしてキュウカが病身を休める日々は凱旋の日より、早くも半年を数える事となりました。

そんな病床の身にあるキュウカより、サイフォン達諸臣に公都への招集がかけられます。

それに従い集った諸臣に対し、キュウカは、彼等と出会ってから今日に至るまでの想い出を親しく語ると共に、今後の事に対する様々なことを計ります。

そして、諸侯の身にある重臣達に対し、自分が亡き後の五年を期に東大陸連合国が失った領土奪還の戦を起こす事を予言すると、その時に自分の後継者であるシジェンに大将としての器が備わって無かったならば、サイフォン・ウリョウの二人を将としてそれに抗し、各々の処断を以ってその領土を守衛する事を命じました。

キュウカから後事を託されたサイフォン・ウリョウの二人は、『我等の持てる力の全てを尽くし、必ずやその命を果たして見せます』と固く誓いました。

重臣達を下がらせた後、キュウカは、公爵たる自分の後を継いでサペンハイムを治める事となるシジェンをその枕許に呼びます。

そして、サイフォン以下の諸臣達の忠義の篤さとその優れた才能の如何を語って聴かせると、『サイフォン・ウリョウの二人は、私が最も信じ頼りとしてきた者達であり、その言葉は常に深慮遠謀に満ちていた。だから、これより先、公爵となったならば、彼等の言葉はこの私の言葉より重きモノとして、必ずそれに耳を傾けよ。そうすれば、彼等も必ずお前に報いてくれるだろう』と言い聞かせました。

それに真摯に頷き、心に刻みつけながらも、自らの未熟と不才に公爵となる事に怖じるシジェンに対し、キュウカは、『兵を率いて戦場に勝敗を決する将としての才では、お前はこの私には及ばないだろう。しかし、臣下の心を一つにまとめて一国の政を治める王としての才では、お前はいつかこの私を凌ぐだろう。今は唯焦らず、その心にある他者に対する情けの在り様を大切にしなさい』と告げます。

更にキュウカは、『汝が父母を敬う如く他者の父母を敬い、汝の子を慈しむが如く他者の子を慈しめ。さすればそれ必ず汝の助けとなるであろう』と教え諭しました。

そして最後に、『我が四貴妃は愛情深く、お前を実のこの如くに慈しんでくれる者達であり、その子達はお前を実の兄の如くに慕うであろう。どうかこの私に代わって、このサッペンハイム公爵領の主となり、その臣民と我が最愛なる者達の父兄としての務めを果たしてはしい』と告げて、シジェンへと亡き先代の大公より預かった公領の後事に於ける全てを託しました。

キュウカの抱く信頼に応えてシジェンは、必ず公爵としての使命を全うする事を誓いました。

キュウカは、シジェンの応えに満足すると、彼を下がらせてシェーリーを呼びます。

そして、自らの人生に於ける最後の無念を晴らすべく、その想いを示す証としての『遺志』を彼女へと託しました。


キュウカがその身に背負った公爵としての使命をシジェンへと託してより半月余。

キュウカは、自らの生命が尽きようとしている事を悟り、その枕元に皆を集めました。

そして、今生の別れを惜しむべく其々に杯を与えました。

キュウカの身に訪れようとして死に対し、そこに集った者達の全てが嘆かずにはいられませんでした。

自分の死を悼み、その宿命を与えた上天の非情さを憾む者達をキュウカは嗜めて言います。

『私は、この身に与えられた宿命を知った師より下された情けに逆らい、自らの想いを貫き生きることを選んだ。それは正に千の味方の死と引き換えに万の敵を倒して望む想いであり、人間として望む事を忌むべきモノであった。しかしながら、情け深き上天は、私にこの様な穏やかな最後を許してくれた。今こうして、皆に囲まれあの美しき空の下で去り逝く事ができるこの身の幸いを思えば、この終焉を如何して夭折と嘆く必要があろうか』と。

その言葉が指し示すように、サッペンハイムの上天に広がる空は、いつにも増して美しい姿をしていました。

キュウカは、そんな蒼天の空を見上げていた眼差しを四貴妃とその子供達に向けると、そこに僅かな憂えを宿して言葉を続けます。

『唯一つ、残念でならないのは、未だ幼き子供達に対し、父としてこれ以上何もしてやれない事だけだ』と。

そんな言葉を告げて子供達を慈しむキュウカの姿を目の当たりにして、皆が悲哀の想いを抱きます。

『叶う事ならば、再び人間として生まれ、幸いにもその親となれたならば、その時こそ愛しい我が子の為に尽くしたいモノだ』とキュウカは更に続けます。

その言葉を聴いた者達の心は、再び彼が人間として生を受ける事があるならば、その時こそ、その未練を叶えさせる為に自分も人間として生を受けたいという強い想いで満たされました。

『本当に、皆と別れるのは淋しい限りであるが、これを今生最後の杯として飲み干し、先に眠らせて貰おう。では、皆笑って見送ってくれ』

キュウカは、そう告げて手中の杯を飲み干すと静かに目を閉じました。

その穏やかな笑みの許、キュウカは、疲れた魂を癒すべく永遠の眠りへと就きました。


齢、三十にも満たないその短い生涯に於いて、誰よりも峻烈なる生き様を貫いた稀代の英

雄、《軍神・キュウカ》は、斯くも穏やかな最後を迎えたのでした。


この後、キュウカは、サ・ルサリア女王より、その多大なる功積に報いる為として、地位を『公王』へと進める特別の取り計らいを受けます。

そして、その地位は彼の後継者であるシジェンへと受け継がれました。


(終わり)


ご愛読ありがとうございました(ぺこり

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