第九話
東大陸連合国軍との大戦を制し、アタウを降したキュウカは、帰還した陣営の内に在っても敗残の将という身の上の彼に対して、慎み深い礼節を以って報いました。
そして、キュウカは、アタウの才をこのまま無駄に終わらせる事を惜しみ、自分に仕える事を求めました。
そんなキュウカの振る舞いに対し、アタウは、心からの感謝を抱きますが、自らが一国の王に仕え郡領を治める領主であり、そして、そこに妻子を残している身である事を理由にそれを受け入れようとはしませんでした。
キュウカは、アタウの忠節を尊いモノと認めますが、その忠節を捧げる主の暗愚を挙げ、加えて、その国主達を統べる盟主国の王の不義を挙げます。
アタウは、そのキュウカの言葉を穏やかな心を以って受け止めますが、それでも臣下として主への忠節を曲げる訳にはいかないと応えました。
しかし、アタウの心には既にキュウカという存在に対する畏敬と心服の想いがありました。
そして、アタウは、キュウカに、今一度、主への説得を行い、盟主国の王に対してサ・ルサリアとの和睦を図る故に、それを受け入れて欲しいと懇願します。
キュウカは、その第一に東大陸連合国の盟主自らとの会盟を以って和睦の議を図る事、第二に飽くまでこの度の戦の始まりが東大陸連合国のサ・ルサリアへの侵略が起因すると認める事、そして、最後にアタウがサッペンハイム公国の公爵である自分に仕える事、その三つの条件を出して、彼の申し出を受け入れました。
アタウは、示された三つの条件の内、前の二つ必ず認めさせる事を誓いますが、最後の一つに関しては、仮令、東大陸連合国とサ・ルサリアが和睦しようとも、自分が仕えるのは今の主のみだとそれを受け入れる事は出来ないと応え、その代わりにアタウは、自分が存命である限り身命に懸けて、何者にも再びサ・ルサリアの領土を侵させはしないと約束しました。
キュウカは、その言葉に示されたアタウの信念を感じ取ると、その約束を以って和睦の証とする事を認めます。
そして、アタウは、信義を必ず果たす証として配下の将兵達の身柄を人質にキュウカへと預け、主の説得に赴こうとしますが、キュウカは、それを止めると、虜としてあったアタウ配下の将兵を全て解き放ち、彼に従わせました。
その自分の許しを得て、両国の和睦を図る役目を担う事となったアタウを見送った後、キュウカは、その判断に幾許かの不安と憂いを抱きます。
そのキュウカの様子を見たシェーリーは、キュウカにアタウの事を信じられないのかと問います。
それに対し、キュウカは、自分はアタウを信じられないのではなく、アタウの主たる国主を信じられないのだと答え、アタウをその主の許に返してしまった自らの軽率さを後悔する想いを吐露しました。
そして、キュウカは、シェーリーへとその身の危険を十分承知しながらも、いざという事が彼の身に起ころうとしたならば、その危難から救ってやって欲しいと懇願しました。
シェーリーは、キュウカが自分へと寄せる信頼の深さを知ればこそ、その願いが如何なる意味を持つのかを理解し、それを快く引き受けました。
無事に故国への帰還を果たしたアタウは、その主へと自らの不才を以って同胞たる者達を戦場に虚しくさせた事を詫びた上で、キュウカと交わした誓いを果たすべく、和睦に向けてその説得を試みます。
そして、そのアタウの進言により、連合国盟主へのサ・ルサリアとの和睦を図る会盟が行われる事となりました。
東大陸連合国の盟主国国都にて図られたその会盟には、全ての諸侯が集いました。
そして、アタウはその場に於いて、自らの祖国に対する忠信の全てを尽くし、サ・ルサリアとの和睦を果たすべき事を盟主へと訴えます。
その言には、微塵の私心も無く、全ては祖国の安寧を想えばこその進言に他なりませんでした。
アタウの口から語られる言葉に、彼と戦場を共にした諸将達の多くは賛同の意を抱きましたが、キュウカの将才を知らぬ諸侯や戦いに敗れて領土を失った領主達の言により、それも封じられてしまいます。
それでも尚、祖国の為を想い言葉を紡ぐアタウに対し、先の戦で主将を担った者より、その敗戦の責を逃れんとする奸言だという卑劣な讒言が放たれました。
その戦場に在って真実を知る者は、会盟の場に数多いましたが、主将である者の身分の高さと権威を恐れて口を紡ぎました。
そして、盟主自らも又、小国の領主に過ぎないキュウカの前に、その恥辱を示す事への面子に拘り、アタウを厳しく叱責すると、更には、その主たる国主にまでその怒りをぶつけます。
自らに向けられた盟主の怒りに恐れ慄いたアタウの主は、その身の窮地から逃れるべく事の全てをアタウへと擦り付けて弁解を図りました。
主たる存在からアタウへと向けられるその言及は、遂には、彼とキュウカの内通を疑うモノにまで到ります。
アタウは、その身に向けられた謂れも無きに等しい罪の矛先を受けながらも、遂に、最後の最後まで弁解の一言すら洩らさず、主から与えられる恥辱に耐え忍びました。
それは、自分が逆らえば、故国に在る妻子の身が危うくなる事を良く知っていたからでした。
アタウは、会盟に集った全ての者達の残酷なる裏切りに晒されながら、これがキュウカをして《軍神》たらしめた強き意志の理由である事を深く理解しました。
嘗て、『白陽の会盟』にてその身に受けた恥辱に耐え、遂にその雪辱を果たしたキュウカの抱きし意志の強さと対峙し、自分を始めとして誰がそれに抗う事が出来ようかと。
『(そう、彼の人は、自らが最も大切にするその一を護らんが為に、その他の全てを他者に譲る事を選ぶ者。それに対し、私は、その他の多くを護らんが為に、自らが最も大切にするその一を諦めて来た。人間がその手に掴む事が出来るモノは、私が思っている以上に少ないのだろう。彼と私との戦いは、私が初めてその一たるモノを諦めたあの時に勝敗を決していたという事か・・・)』
アタウは、自らに逃れられぬ死の宿命が与えられる事を悟り、嘗て、自らの弱き意志によって失った大切な存在であった一人の女性の事をその心に甦らせます。
そして、それと引き換えに得た今最も大切な存在で在る妻子の事を想わずにはいられませんでした。
アタウは、自らの生命を以ってこの度の責の全てを贖う事を求め、その最後の願いとして、別れ逝く事となる妻子に惜別の言葉を告げる許しを求めますが、非情にもそれすら許されず投獄の身となりました。
シェーリーは、キュウカの願いに従い、その身を獄中に置かれ処刑の時を待つアタウを救おうと彼の許に至ります。
しかし、アタウは、今、自分が獄中のより逃げれば、真っ先に妻子へと難が及ぶ事を危惧し、その申し出を拒みます。
そして、その代わりに、自分が告げようとして果たせなかった妻子への惜別の言葉をシェーリーへと託しました。
そのアタウの覚悟を前にして、シェーリーは、唯黙ってその願いを受け入れるしかありませんでした。
シェーリーは、アタウと交わした約束を果たすべく、彼の故国に至りその妻子の所在を求めますが、一足遅く、国主の断罪の兵から逃れる為、臣下の手によってその姿を消した後でした。
再び、アタウの許に戻り、妻子がその身の窮地を何とか脱した事を告げようとしたシェーリーですが、時既に遅くアタウは処刑の身となっていました。
戻ったシェーリーの口より、アタウの死と彼に与えられた仕打ちを聴き及んで、キュウカは、『アタウという人物は、天賦この上ない才を与えられながら、ただその仕える主にのみ恵まれなかった。しかし、口惜しきは、あれ程の比類なき賢才が投獄の辱めを受けて、その身の最後を迎えたことよ』と嗚咽を洩らして深く嘆き、そして、激しく憤りました。
雌雄を決する敵として出会いながら、互いにその才を認め、時に敬服した好敵手たるアタウの死は、キュウカの心に忘却を許さぬ深い傷を刻み込みました。
アタウという存在の死を嘆き、その想いに翳る自らの心を晴らせぬキュウカですが、天の幸いを得た四貴妃の懐妊という嬉しき報せに沈んだ心を癒されます。
この世に死に去り逝く生命が在るならば、新たに生まれ出る生命も在る事を想い、キュウカは、その意志を再び奮い起こしました。
キュウカは、その身の大事を考えリレイ・キョウナの二人を戦線より退けると、東大陸連合国との戦いに決着を着けるべく編成を新たにした兵を率いて出陣します。
諸将・諸侯達を連ね進軍するキュウカの姿には、それまでの憂いは微塵も無く、その威風堂々たる様相に彼の再起を疑う者はいませんでした。
キュウカは、先の大戦の敗北によって放置された状態にある東大陸南方諸国の北郡を次々に平定すると、その領郡を慰撫して見事に安定を取り戻しました。
着実なる進軍を以って領土攻略を果たして行くキュウカ軍に対し、連合国軍は、東大陸を南北に分かつ要衝に築いた大砦城に兵力を集めて備えとします。
正に要塞都市と呼ぶに相応しき堅牢な大砦城を目の当たりにして、その攻略の困難さを危ぶむ将兵達に対し、キュウカは、『この世に、人間が護っている限り、落せない城など存在はしない』と大胆な言葉を以って嘯きました。
大砦城の南方にある平原に全軍を展開させる陣容で配置したキュウカは、左右の両翼に備えたサイフォン・ウリョウの両将を副将に任じ、二人に一軍を預けると、『この度に攻めるべきは、堅固なる城に非ず。脆き人間の心だ』と告げた後、各々に敵の砦城の攻略を命じます。
キュウカの命に従いサイフォン達双将の軍が奮戦する中、キュウカは、自らが率いる兵を昼は休ませ、夜陰を待って銅鑼を鳴らし喚声を響かせて敵を乱しました。
キュウカ軍が昼に攻め夜に乱す戦いを続ける事は七日を過ぎますが、未だ敵を攻略する兆しは見えませんでした。
更に敵軍の内では、キュウカの戦法を見て、彼が自分達の籠もる砦城の攻略に対する策を得られず、唯、闇雲に攻撃と攪乱の策を計っているだけだと考える者達が現れ、夜陰に乗じた攪乱の策も効果を薄れさせていきます。
そして、その考えはサ・ルサリア諸侯達を皮切りにキュウカ軍の将兵達の間にも広まり始めますが、その副将たるサイフォン・ウリョウの叱咤鼓舞によって全軍の士気は保たれ続けました。
しかし、攻略の戦いが始まりより二十日を過ぎるに及び、遂に諸侯の内よりキュウカへの不信を語る言葉が現れ、それを鎮めようとしたキュウカに反発し一部の諸侯が配下の兵を率いて戦線を離脱するという事件が起こります。
それに対する諸将と兵達の動揺は大きく、更には、その報せを受けて敵軍の士気は大いに高まりました。
その状況を危ぶみ打開の策を計るべく本営を訪れたサイフォンとウリョウに対し、キュウカは、このままでは全軍の士気が下がり瓦解の危機すらも考えられると、明日の明朝に日が昇ると共に全軍による総攻撃を行うと命じます。
双将は、事の此処に到っては力攻めも致し方ないとキュウカの命を承知し、彼と共にその決戦に臨む覚悟を決めました。
愈々の激しい戦いを覚悟して浅い眠りに身を委ねるサイフォンは、自らの陣の北方、正に敵の砦城より突如として巻き起こった激しい喚声を耳にして、敵軍が討って出たのかと一気に目を覚まします。
その身に鎧を纏い兜に手を掛けるサイフォンの元に、キュウカの使者としてシェーリーが現れました。
キュウカと同じ軽鎧の戦装束に身を包んだシェーリーから、今直ぐ配下の祥兵達を率いて自分と共に出陣するように告げられたサイフォンは、キュウカが敵を欺く為に自分達味方までも欺いていた事を悟り、苦笑を浮かべて快諾します。
シェーリーの案内の元、敵の砦城の西門へと通じる間道を密かに抜けたサイフォンの一軍は、既に開かれた守衛門より一気に中へと攻め込みました。
そこには、南門より攻め込んでいたウリョウの一軍が奮戦する姿が在り、サイフォンに率いられた将兵達もこれと連携して次々に敵の兵を蹴散らしていきます。
更には、キュウカの影武者として、その偽兵の一隊を率いたシェーリーの攪乱によって、敵軍は大いに浮き足立ちました。
混乱し総崩れとなった敵軍の残党を北門より追い散らしたサイフォンとウリョウ達の前に、キュウカと諍い最初に戦線より離脱した筈の諸侯と轡を並べたキュウカが現れます。
キュウカは、その若き諸侯と共にサイフォン達将兵の働きを讃えて労うと、威勢を挙げて勝ち鬨を叫びました。
その勝利を歓び叫ぶ将兵達の声に包まれながら、キュウカは、唯、穏やかな笑みを浮かべていました。
陥落させた砦城の中央にある宮殿に本営を誂えたキュウカは、そこに諸将・諸侯の全てを集めるとこの度の戦に於ける論功交渉を行い、副将たるサイフォン・ウリョウの常に自分を支えてきてくれた功を第一、それに次ぐモノとして決戦の勝利に繋がる方策に大いなる協力を示してくれた件の若き諸侯アルス・ヴァーナード伯の功積を評しました。
それに対し、アルスは、戦いの勝利はキュウカの計った方策によるモノであり、自分はそれに従っただけだと応えます。
キュウカは、アルスの言葉を聞き、それに同調する様に頷くサイフォン・ウリョウを始めとする者達を前に、自分が如何なる策を計ろうともそれを果たす将兵達の見事な働きがなければ、この様な勝利を得る事は出来なかったと決して譲りはしませんでした。
キュウカの自分に従う者達に対する篤実さを目の当たりにして、アルスは、彼に率いられる祥兵達が誇る強さの理由の答えを知ります。
そして、キュウカが、サ・ルサリアの女王へと奏じる戦勝報告の書簡に、自らの目で見た事実の全てを記した書簡を重ねて、国都へと届けさせました。
キュウカは、この戦を制する事により、遂に東大陸連合国盟主の喉下へと刃を突きつける事に至ったのでした。
その護りの要たる砦城を奪われた東大陸連合国が、幾度となく奪還の戦いをキュウカへと仕掛けますが、鉄壁の護りを誇るキュウカ軍は、それを尽く退けました。
無某に無謀を重ねる連合国軍の有り様を目の当たりにしたキュウカの心に、何よりも自らの故国を愛し、それに対する誇りに生きたアタウの姿が甦ります。
そして、キュウカは、ここに及んで一つの大きな決断を下しました。
それは、戦いの矛を収め、東大陸連合国との和睦を結ぶという討伐戦終結への道標を示す決断でした。
キュウカはその意志を量るべく、諸将・諸侯の全てを自らの本陣へと集めます。
そこでキュウカは、この度の戦の大局は既に定まり、これ以上、徒に戦いを長引かせる事の無意味を皆に解きました。
集った者達の多くが、完全なる勝利を目の前にして自ら退こうとするキュウカの意見に驚きの想いを抱きます。
それはサイフォンを始めとする腹心の将達も又同じでした。
『この戦いに於いて重ねてきた勝利は、天が与えた幸い。それによって得た好機を捨てるのは早計ではありませんか?』
サイフォンの口から出たその諌めの言葉にキュウカは、真直ぐにして尚穏やかな眼差しを示し応えます。
『確かにサイフォン、お前のいう事は道理だ。しかし、この東大陸討伐の戦いに臨むべく故郷の地を離れてより早くも二年余の歳月が過ぎた。それでも尚、今、我が許に在る将兵達の士気は高く、この先の戦に憂えるモノは無い事は、私も良く分かっている。しかし、その将兵達の心は、片時も故郷に残した大切な者達への想いを忘れる事は無いだろう。そして、宿敵である連合国の将兵達にも、我等と同じ様に大切に想い大切に想ってくれている存在がある筈だ。他者に与えた恩義は忘れられ易いが、他者から与えられた怨悪は忘れられ難いモノ。我等が東大陸に住まう無辜の者達に与えた報いの怨嗟を思えば、我等の勝者たる証を示す為にも敢えて退く事も必要なのではないか?』と。
諸将・諸侯の多くが、キュウカが抱いた人間としての真摯にして高潔なるその想いに心を動かされます。
『故国を思い、その宿敵を打ち滅ぼさんと望む諸君等の想いも分かる。しかし、私は、これ以上、この眼に無益な戦いによって積み重ねられる屍の姿を映すことに耐えられないのだ。如何かこの私の想いを分かって欲しい』
キュウカの深い想いによって紡がれたその言葉に逆らう者は存在しませんでした。
皆の合意を得たキュウカは、直ぐに捕らえた人質の中から連合国への使者に相応しき者を選び出すと、和睦の条件を認めた書簡を盟主の許へと届けさせると共に、外に陣を置く敵の将兵達に和睦を図る意志を伝え、これ以上の戦いを望まぬ事を宣言します。
最早、戦の勝利も望めずさりとて退く事すら許されていない連合国軍の将兵達は、キュウカの意志に心の奥で感謝しました。
キュウカより、東大陸連合国の盟主に対し示された和睦の条件は次の通りでした。
一つ、盟主自らの自筆を以って、サ・ルサリア全土及びこの度の戦でサ・ルサリアが得た領土の全てに対し、今後一切、正義に乗っ取った理由無くしてこれを侵さぬ事を誓った誓紙を認めること。
一つ、サ・ルサリア王と東大陸連合国の盟主の貴尊の位は飽くまで等しく、これに対し不遜を行う者が在れば、不遜を受けし方の国法を以ってこれを咎める事を認めること。
一つ、この度の戦に於いて戦場に破れし者達の名誉を重んじ、両国に於いて敵・味方の別無くその勇気を讃え、これに恥辱を加える事無きこと。
キュウカは、その三条の誓いを以って、祖国領土の平穏を得、主の名誉を高め、そして、戦場に散った者達の魂を慰める事のみを望みました。
それを受けた盟主国の王は、キュウカの武威とそれに逆らい、自らの地位を危うくする事を懼れ、終に和睦を受け入れる事を決断しました。
こうして、キュウカは、長き戦いの末に、亡き大公の願いに報いるというその宿願を果たしたのでした。
キュウカは、領土防衛の要としてウリョウを東大陸に止め置くと、他の諸将・諸侯達と共にサ・ルサリアへの凱旋の帰路に着きます。
そのキュウカの威風堂々たる凱旋の様子を一目でも見ようと集った人々に対し、彼は、一軍の将としてではなく、唯一人の人間として思慮深い振る舞いを示しました。
その姿を目の当たりにした東大陸の新たなる民達は、心から彼に親しみ従う事を求めるようになりました。
自らの凱旋を迎えるサッペンハイムと故国サ・ルサリアの民衆達の歓声をその身に受けながら、キュウカは、その心に愛して止まなかったサ・ルサリアの蒼く澄んだ空を見上げて穏やかに微笑みます。
そこには、生まれながらにして何も持たざる身であった彼が、本当の意味で還るべき『故郷』を得たその歓びの想いが在りました。
(続く)