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第四話

カムサとの城砦奪還の策を計り終えたキュウカは、自らの陣営に戻る帰り道に、嘗て共に戦った仲間である親衛騎の面々と再会します。

彼らは、キュウカに対し、口々に懐かしい思い出を語りますが、その中に混じる一人の少女の存在によって、その親睦はたたれます。

その少女のキョウナという名前を聞き、キュウカは、その少女の面影に、彼女が何者であるかを思い出します。

彼女は、嘗て、キュウカが鎮めた内乱の折り、その人質として捕らわれていた人間の一人で、その後、キュウカがカムサ達のも止めに応じて、出仕した際に、侍女として彼の身の回りの世話を尽くしてくれた存在でした。

昔を懐かしみ、親しく声を掛けるキュウカに対し、キョウナは、まるで長年の宿敵を見るが如き、冷たい一瞥を示して去っていきます。

彼女の態度に戸惑うキュウカへ、彼女の副将を務める傭兵戦士のディフが、キュウカが国を去った後、瓦解しようとした自分たち親衛騎をずっと纏め続けたのが、他ならぬキョウナであり、皇国の侵攻による戦いにおいて、キュウカの帰還を誰よりも信じ待ち望んでいた事を語って聴かせました。

そして、彼女が強くキュウカの帰還を待ち望んでいたが故に又、それが果たされない事を恨む想いも募ってしまったのだと、ディフはキュウカに告げました。

それを聴いたキュウカは、キョウナの想いをこれ以上に裏切らないよう、そして、彼女に認め許されるように、この先の戦いにおいて、自らが今日までに培ったものを示す事を嘗ての仲間達に対して誓いました


キュウカは、皇国軍に奪われた嘗ての自領を奪還するべく、サイフォン将軍を副将に、配下の兵を率いて出陣します。

前の戦での失態を取り戻すべく迎え討たんとする敵軍を、キュウカは、自らの親衛騎を率いて抑えると共に、サイフォンの率いる隊を別働に割いて、敵の本拠たる砦城を急襲させました

サイフォンが砦城に迫ったとき、そこを守る兵士達がにわかにざわめきます。

そして、堅く閉ざされていた砦城の門が内より開かれました。

そのからくりは、後方の変事に浮き足立った敵軍を、見事に打ち破ったキュウカの入城を迎え入れた人物の存在にこそありました。

その人物とは、サ・ルサリアの地にて別れた筈の女傑・リレイであり、その腕に抱かれている養い児・シジェンでした。

リレイは、西大陸に上陸すると、サイフォンと別れた後、旅の商団を装ってサッペンハイム公から託された財物を護りながら、彼の砦城に潜り込んでいたのでした。

リレイとの再会に少なからず驚くキュウカに対し、彼女は、キュウカが去った後、シジェンが寂しがった事を告げ、自らが至った理由だと伝えます。

それを聴き、キュウカは、後詰めの形で入城したカムサ達に、シジェンを自らの子だと告げ、それに加えてリレイの事を説明しました。


見事にその郡領たる砦城を取り戻したキュウカは、その地の守りをサイフォンに任せ、自らはカムサと共に公国領内の復興と軍の再編を行う為、国都に身を置きます。

そのキュウカの尽力により、迅速な建て直しの叶った公国は、皇国の侵攻に抗うべく、戦う事を選びました。

進撃の準備に励むキュウカに対し、ある時、カムサがこれまでの激務に報いるための休息として、それまでに調べておいた彼の生まれ故郷の事を告げ、そこを訪ねるよう勧めました。

キュウカは、これから先の戦いに赴くために、自らの過去に決着を着けるべく、それを受け容れました。

そして、キュウカは、訪ねた先の生まれ故郷で、自らの出自の奇なるが故の悲しき宿命を知り、又、自分達の存在を奪われ失った心の憂え故に、病み衰えた母親の姿をみて、その恨みの全てを忘れて生きることを選びました。

自らの生まれ故郷とその一族に完全なる別離をし、彼は、ただ、己の為すべき事を成すべく、その為の道をここに歩み出しました。

そのキュウカの前に、思いがけずして、意外ともいえる存在が現れます。

それは、生き別れの双子の妹であるシェーリーという名の存在です。

キュウカと同じように、強運にも命を存えた彼女ですが、その境遇は彼女を他者の生命を奪う事で生きる糧を与える暗殺者という存在にしていました。

共に生まれ、共に捨てられながら、闇に生きる事しか許されなかった自らの存在とキュウカの存在との違いを恨み呪う彼女は、キュウカの生命を奪う事を望みます。

シェーリーの心の痛みを知ったキュウカは、唯一つの望みたる<白陽の会盟>での恥辱を雪ぐという志しを果たすその時までを期限に、彼女の恨みを受け容れる約束を結びました。

キュウカの語る言葉の先に、彼の本質を見極めるのも一興と考え、シェーリーはその約束に納得を示して、姿を消しました。


シェーリーとの邂逅と、そして、交わした自らの死の約束を、逃れがたき宿命として受け容れたキュウカは、嘗て師たる老隠者と交わしたもう一つの宿命の約束を甦らせました。

そして、何よりも辛い記憶に残る故郷に足を踏み入れた彼は、師との約束の地にて、その約束の証したる一振りの美しき槍を見つけました。

その槍の銘たる<烈華>こそが、彼の老隠者が何者であるかを、キュウカに教え示してくれました。



嘗ての邂逅にて、キュウカへと数多の才を伝授した老隠者の正体とは、伝説に語られる存在たる神仙の一人、世界の理の運行を司る者とされる<八祥王>が一柱の<華祥王>でした。

彼の神仙は、その伝説に於いて、恵み多き世界に堕落した人間達の有り様に憤り、他の七柱の神仙達を敵にしてまでもそれを裁かんとして、破れその神力を失ったとされる存在でした。

師たる老隠者の残したその<烈華槍>より、キュウカは、<華祥王>が人間の世に望んだ最後の想いと共に、自らに授けられた天命を知ります。

それは、『偽りの王者達の思惑によって乱れた人間の世に、真なる王者を導き、新たなる秩序を打ち立てること』でした。

キュウカは、その天命を自らの宿命の一端として受け入れ、ここに己が臨むべき戦いへの誓いを固めました。


カムサの許に戻ったキュウカは、その出征の最後の準備を果たし終えます。

いよいよ、出征の時となり、文武百官と諸将を集めたカムサは、その宣誓にあたり、キュウカを自らの臣下ではなく、盟友として己と同列の大将の礼を以って、その陣営に迎えました。

キュウカが今日までに示した力量と、彼に従う将兵の勇猛である事を以って、カムサの振る舞いに逆らおうとする者はありませんでした。

そして、カムサをして盟主とする皇国の悪逆討伐を記した旨の檄を以って、その宣戦布告とした大戦の幕がここに切って落とされました。

それは、後に<軍神>の異名を戴く稀代の英雄となるキュウカの鮮烈なる戦いの幕明けでもありました。


その領郡たる砦城にて、サイフォンに預けてあった配下の将兵と合流したキュウカは、開かれた軍議に於いて、自らの一軍を割いて別動隊とし、これを自らが率いて支道より皇都を目指す事を進言しました。

それは、キュウカの一軍のみを以って、皇国の大軍に当たるという危険とも言える策であると同時に、敵の戦力を分散させるという意味で理に適った策でした。

諸将の中には、これを無謀と意見する者もありましたが、キュウカは、「戦の勝敗は、兵の数で決まる訳ではない」と、自負を以って語りました。

その言を入れて、カムサは、キュウカにキョウナを副将にする事を条件に別動を許しました。


別動の一軍を率いて支道を行くキュウカは、その宣言通りに速攻を以って敵の虚を突き、難なくその初戦を制しました。

そして、更に勝利の勢いを以って、次々に敵の城を陥落させていきます。

キュウカの活躍によって、敵軍は完全に足並みを乱され、その影響は本道を行くカムサ達主力軍が当たる敵にまで及びました。

見事なまでの快進撃を果たすカムサ軍の戦い振りを見て、皇国軍が警戒心を激しくする中、皇国に従って来た諸侯の内より、カムサに味方をする事を選ぶ者達も現われ始めました。

その中でも、真っ先に訪れたのが、嘗て<月里の大戦災>の折に、共に遊軍となった公国の若き名将・リフィユであり、彼は義兄たる王主の亡き後は公国の重臣の一人として仕えて来た身ながら、今回のカムサの出征に対し、一族の諌めに反してまでも訪ね参って来ました。

リフィユを始めとする者達の参軍に喜ぶカムサ達の許に、ある時、皇国の侵攻によって援軍を求める支社が訪れます。

それは、辺境ともいえる地にある国からの求めであり、援軍を送っても間に合わない程の戦況にであリました。

諸将がその求めに対して難を示す中で、唯一人キュウカのみは、求めに応えて援軍を出すべきだとカムサへと説きます。

しかし、カムサは全軍を統べる盟主として、従う将兵を危険に晒す事を厭い、彼の進言を退けました。

それに対しキュウカは、配下の将兵をサイフォンに預け、一軍の大将としてではなく、一人の義勇の徒として助けに赴く事を選びました。


一軍の将たる者としての立場を犠牲にしてまでも尚、救援に向かおうとするキュウカの想いに動かされ、カムサは彼に戦線離脱を許しました。

救援に赴こうと準備を整えるキュウカに、キョウナとその親衛騎、そして、リレイが強く同行を望みます。

カムサの許しもあって、それを受け容れたキュウカは、義勇の兵として援軍に応えて戦地に赴き、城を囲んだ皇国軍の一隊を突いて、その囲みを解き入城を果たしました。

カムサ軍からの援軍を望めない事に落胆を隠せない国主に対し、キュウカは、自らの生命に懸けても、敵を退ける事を約束します。

その真摯に過ぎる言葉を聴いて、その理由を計りかねる国主に対し、キュウカは、嘗て<月里の大戦災>に於ける<白陽の会盟>にて、自らが恥辱を受けた時、それに情けを示したのが今は亡きこの国の先代国主である事を語り、自らが命懸けで戦うのはその恩に報いる為であると応えました。

そして、キュウカは、約束の通りに配下の兵のみを率い、夜陰に乗じた奇襲を以って敵軍を一気に蹴散らし、更にはその蓄えたる兵糧・糧秣を尽く焼き払いました。

キュウカの攻撃によって、士気を挫かれ備えを失った皇国軍は、戦う術を失い、撤退を余儀なくされました。

皇国軍の再びの襲来に対する備えの術を整えた後、キュウカは、援軍の礼として贈られた品々の一切を封じ残して彼の国から去りました。


再びカムサの許に戻ったキュウカは、配下の将兵と共に次の戦いに臨みます。

ある戦いに於いて、キュウカの将才を畏れ、戦わずして降服を申し入れた者達がいました。

キュウカは、それを受け容れると、カムサに許しを得て、彼らをそのまま領郡の城に留め、その地位身分の全てを安堵しました。

しかし、キュウカは、彼らの内に疑うべき芽がある事を感じて、密かにカムサに進軍を止める様に進言し、キョウナとレイリに兵の一部を預けて、その後方の領城にて備えを固める事を命じました。

そして、自らは、サイフォンと共に進軍を試みます。

キュウカ達の一軍が、敵軍に攻撃を仕掛けた時、それに呼応して先に降服した者達が、キュウカ達の背後を襲いました。

キュウカは、腹背に迫る敵を前に、その偽りの降服を疑いながら、一縷の信義を求める心によって、この様な窮地を招いた自らの不明を恥じ、その責任を果たすべく、自身の殿を以って味方の撤退を計らうとしました。

そのキュウカの意志を見て取ったサイフォンは、キュウカの決断を一軍を率いる大将の身に在る者として、この上も無き愚行だと笑って止めます。

そして、彼は、このような時の殿の務めなど、ある程度の信頼があり、それでいて失って惜しくない者に命じるべきだと言って、自らその務めを果たそうとしました。

その生命を懸けて殿の役目を羽田さんとするサイフォンに対し、キュウカは、彼を世界の果までも探して尚得がたき、至宝の如き人物だと告げて、嘗てその邂逅の始めに交わした約束通りに、必ず生きて自分の許に戻る事を誓わせます。

それに対し、サイフォンは、キュウカに必ず生きて再起を計る事を誓わせ、自らも生き残ることを誓って、殿の役目を果たすべく迫り来る敵軍に当たるべく別れ去りました。

キュウカは、最後の最後まで味方の軍を鼓舞して追撃の敵と戦いながら、配下の兵達に生きてキョウナ達の守る本営に戻る事を命じ、自らも敵を避けるべく落ち延びて行きました。


(続く)

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