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#09. 万全たる一歩


 ログアウトした私はゴーグルのクリアパーツ越しに天井を見上げたまま、()()()()()()()()事実に軽いショックを受けていた。



「すごいなぁ、ヒメは……」


 

 ──ヒメは、姫園ユリという少女はよく出来た子だ。

 のんびり屋さんに見えて、裏ではすごく頑張ってるのを私は知ってる。

 成績優秀なのも、ゲームが得意なのも、ヒメ自身の努力の結果だ。

 大企業の社長の一人娘という肩書きは、きっとヒメにとっては重要じゃない。

 けど、周りにとっては違った──。



「金生さんって、姫園さんによく付きまとってるよね」

「姫園さんもなんで金生さんのこと……」

「ちょっと変わった子だよね」



 周りからは私がとてもがめつい子に見えたのだろう。

 小学生、特に中学時代はそんな陰口をよく言われた。

 お金の有無はリアルで最もわかりやすいステータスだ。

 住む世界がまるで違う天上人のようなヒメを、周りはボディーガード気取りで腐りきった目を光らせる。

 私が周りの目を気にせずヒメと付き合っていくには、私もヒメと同じ土俵に立たなきゃいけないのだと、まだ子どもな中学生はそう悟った。


 私には足りないものが多すぎる。


 お金は無いし、勉強も普通の成績。

 得意なことはなんですかと聞かれたら答えられない。

 ヒメの隣に立つと、私の不出来さは際立ってしまう。

 私だけが悪く言われるならそれでいい。

 でも、私と一緒にいるヒメの顔に泥を塗るのは嫌だ。



「働いて、稼いで、お金持ちのフリをしてもしょうがないのに……結局ヒメに寂しい思いをさせて、ようやく一緒に遊べたのに私のせいで迷惑かけて……ダメだな私は」



 あの配信を見た視聴者はどう思っているだろうか。

 客観的に見て、ポッと出の存在で戦犯。

 印象はかなり悪い。


 ヒメの隣に立ってもいい存在になるには、ヒメにとって誇れる友達になるには、私はここで挽回しなきゃいけない。

 次の配信でフルライブ急上昇ランキングに載るくらいじゃないと、きっとこの界隈では生き残れない。

 人気になれば遊んで暮らせるという夢はあっても、現実はそう甘くないのだから。

 爪痕を残す。深く、消えることのない一撃を──。



「……あ、もしもしヒメ? 悪いんだけど、一週間だけ時間くれる?」



  ■■■



 次の配信まで一週間。

 ぶっつけ本番で視聴者を沸き立たせるほどトークは上手くないし戦い方も初心者だ。

 どうにかして話題になる必要がある。



「ゴルトライザーとコイントス……このふたつは攻略サイトにもまだ載ってない。だからあの操作ミスで始めた配信でも視聴者が集まってきた……」



 幸いにも話題性は持っていた。

 けど、私の運はここまでだ。

 未踏破の隠しダンジョンという隠し球は、もう配信で知られている。

 一週間もすれば話題は広がり、注目を浴びるだろう。

 私達の戦場を知る必要があるな……。


 

「フルライブ……あ、ほんとに私のチャンネルできてる」



 攻略サイトからフルダイブ配信サービス《フルライブ》へページを移る。

 私のチャンネル登録者数はまだ1,000人に届いてない。

 なんの作戦もなく配信しても有名になれるわけがない。

 配信が大人気コンテンツということは、それだけ人が多く、埋もれやすい。

 現在フルライブにおける急上昇ランキングは、大半が有名VTuberや実況者が占めている。

 ここに食い込む配信も少なからずあり、それらはどれも奇抜な戦術でモンスターと戦っていた。



「裸縛り……!? あ、防具なしで挑んでるのか。さすがにこれは出来ないな」



 プレイヤー自身のゲームの上手さと経験が物を言う『裸縛り』は初心者の私には出来ない。

 他にはヒメと同じように、ドロップロスト覚悟で大爆発を起こしてド派手にボスモンスターを倒したりするプレイヤーもいる。

 バズるのに必要なのは、誰もやらなそうなこと+画の派手さ。

 そう、たとえば……。



「有り金全部使ってみた……とか」



 換金システムがあるDDOだからこそ、ゲームコインを無駄遣いできないという心理がプレイヤーに根付いてる。

 みんな我慢してるんだ。

 ならその欲求を配信で満たせたら。

 さらにその散財の結果、ボスモンスターを屠れたら?



「……言うは易しってやつだなぁ。まず戦慄状態をなんとかしないとコイントスが使えない」



 そんな簡単にバズれたら苦労はしない。

 再び検索ツールを走らせる。

 隠しダンジョン《(らん)伐者の(ひつぎ)》のボスが使う戦慄状態は、あの唸り声がトリガーになっている。

 つまり聞こえなければいい話で……耳栓とかあれば防げそうじゃない?



「──耳栓って街に売ってないの!? 入手ルートは……王都アルファスのキークエスト《神獣の湧き水》をクリアして次の街へ向かい、東大通りの雑貨屋で5,000ゴルトで購入……待ってシカ倒さないといけないの? うそでしょ?」



《神獣エクスユニル》の攻略推奨レベルは35。

 全然足りない。

 けど、耳栓が無いなら無いで考えがある。

 ともあれまずはレベリングと、金策だ。



「《ゴブリン・キング》……ここら辺のフィールドじゃタフで報酬金も高い。狩り尽くすけど恨まないでね」



 ボスモンスター《ゴブリン・キング》は、通常のゴブリンの何倍もの大きさ。

 大きなお腹と遅いモーションに騙されがちだけど高いHPと範囲攻撃を得意とする厄介なモンスターだ。

 これを狩る。狩りまくる。

 幸いここは隠しダンジョンから離れた序盤の森林。

 入り口を探そうとプレイヤーはダンジョンの方に集まってるから、モンスターの取り合いになることはなかった。



「──グモォォォォ……ゥッ」



 ドスン、と大きな音を立てて地に伏す巨体が光になって爆散。

 もう20体以上は倒した。

 私は荒らげた息を整えながら、報酬を確認する。


 学校から即時帰宅し一週間かけたレベリングの成果は、レベル9から25に。

 ステータスは大幅に上昇。

 各種パラメーターの強化は、筋力と敏捷性を中心にステータスポイントを振る。

 防具はヒメがくれた服を重ね着に設定し(見た目だけ変更するシステム)、被弾を減らすための敏捷性と万が一状態異常を受けた時に自然治癒される確率が上がる運気を上昇させる《義賊シリーズ》を装備。

 所持金も貯まって、回復ポーションなどの必需品も揃えた。


 そして、この一週間の準備期間はしっかり配信。

 未踏破の隠しダンジョンを見つけた人の配信とそこそこ話題になってるのか、チャンネル登録者数は無事1,000人を超えた。

 これで投げ銭を受け取れるようになり、完全に準備は整った。



「あとは私次第。そして運次第……」



 ここまでやっても急上昇ランキングに載れる自信はまだ持てない。

 ほとんどが何十万回も再生数を稼いでいて、投げ銭もそれに比例するように多かった。

 実力は必須……しかし現実は残酷ながら、運も必須なこの世界。


 ……また賭けることになるなんて思わなかったな。

 でも、これは無謀な賭けじゃない。



「必ず獲るよ、ヒメ」

「うん、やり遂げようね」



 再び爆破して空けた《濫伐者の柩》への道。

 あれから一週間、未だ誰も攻略できていないその高難度ダンジョンへ、私達はもう一度足を踏み入れた。





◤ PN 《カナメ》 Lv.25

  所持金『1,002,869G』(換金時:10,028.69円)

  武器『ナイツオーダー・バルディッシュ』

  防具『義賊シリーズ(重ね着済み)』

  スキル【ゴルトライザー】【コイントス】

     【ルードバスター】【強靭 Lv.5】

     【G(ゴブリン)・スレイヤー Lv.5】【???】etc ◢


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