#77. 武器強化と100万Gのメイド服(防具はもう少し先みたいです)
真っ白の樹木が目印の武具工房へ、必要素材を手に突入。
ボルダーは素材を確認すると一頻り《焔輝刃ロア・ゼロス》と睨み合い、しばらくして頷いたかと思えば作業に取り掛かった。
「サラマンダー、火力を上げてくれ」
ボルダーの手のひらに赤い光の粒子が現れ、光はふよふよ浮いて炉の中に飛び込んでいく。
すると炉の熱がみるみる上昇して、工房は一瞬でサウナ状態。
そんな環境で鍛冶師は黙々と金属を打ち始める。
「ククッ、なるほどこいつァ……思った以上に良いエンジンしてやがる」
「上手くいきそうですか?」
「ああ。待ってろ、今に完成する」
そう言うとボルダーはチェーンソーを分解し、加工した素材を元に組み上げていく。
「……よし、完成だ。装備してみな」
改造を施されたチェーンソーは相変わらず大剣のようだ。
機械ゆえに無彩色だった無骨な見た目から、装甲に使われている《業焔鋼》の濃い赤色の光沢がベースカラーとして映えている。
手に持つとエンジンがゴゥンと動き出す。
……重い。前よりずっと重量がある。
でもエンジンの震えが抑えられて扱いやすくなってるな。
よく見ると刃も新しくなっていて、《希鋼金》が使われているのか金色だ。
「カナメちゃん似合ってる〜!」
「そ、そお?」
猫耳をぴこぴこさせながら目を輝かせるヒメに気を良くした私は、チェーンソーを構えてポーズを取ってみる。
コユとユヅキさんも感嘆の声を上げていた。
「そいつはもう濫伐者の得物とは呼べねぇな。濫伐者を討ち、神獣らを鎮め、かの邪龍を屠った者に相応しい英雄武器だ」
《赫裂鋸剣ヴァルツァー》
その攻撃力はさることながら、付属スキルの【脈動する炉心】が【赫き炉心核】に強化されたことで、攻撃時のダメージが百分割──つまり一回攻撃で100ヒット扱いされるようになった。
これで以前より【ゴルトライザー】が活きてくる。
さらに【限界加速】は【バーンアップ・オーバードライブ】というスキルに強化され、現在の上昇効果を倍加させるうえに、攻撃ヒット時は一定確率で追加攻撃が発生する。
30秒間という制限はあるけど、ヒット数がさらに増えるのは嬉しい。
そして、コユの《機械仕掛けの晦冥》に【起動】【加速】【変形】や、ユヅキさんの《天ツ牙大神剣【破天】》に【破天魔荒・反撃】【大神鳴】【神雷】があるように、ユニーク武器には全部で三種類の付属スキルが存在する。
強化したことで条件を満たしたのか、【赫き炉心赫】と【バーンアップ・オーバードライブ】に加えて第三のスキルが付属した。
「【メルトダウン】?」
種別はパッシブスキル。
どうやら【バーンアップ・オーバードライブ】の効果終了時に自動発動するスキルのようだ。
「そういえばカナメ、防具も一新するのよね? 頼まなくていいの?」
「あっ、そうだ忘れてた!」
武器だけ強くしたって仕方ない。
この先モンスターの攻撃力も上がってくるだろうから、防御面も徹底的に。
私は集めておいた防具用の素材をボルダーに渡す。
「あー……防具か……」
なんとも歯切れの悪い言葉が返ってきた。
鍛冶師らしくない、困ったような顔をするボルダーに、私達は首を傾げる。
「良い物にしてやる保証はするが、最近武器ばっか触ってたせいで防具はちっとばかし時間が掛かるんだ」
「な、なるほど。まぁ別に急いでないからいいですよ!」
「わりぃな、代わりにちょっとマケとくぜ」
「実はお金が心もとなかったので助かります……」
──ということで防具はお預け。
ボルダーに素材だけ渡して、私達は工房を後にした。
「でも困ったわね。今の防御力じゃこのあとちょっと大変じゃないかしら?」
「うっ……まあ、ね……」
私の防具……と言うより服は、ヒメに選んでもらった時から変わっていない。
オーバーサイズの黒いジャケットにショート丈のシャツ、黒のインナー、改めて思うけど軽装すぎる。
【コイントス】を始めとしたスキルで誤魔化してきたけど、さすがに新調しなきゃ……ということでボルダーに防具加工を頼んだのだ。
このあとと言うのは、実はユヅキさん加入を祝してみんなで一狩り行くことになっていた。
ただその相手というのがかなりの強敵。
なにせ、クマなのだ。クマはヤバい。
この前ユヅキさんと神狼を狩りに行く最中に出会したけど、命からがら逃げ出したほどだ。
「カナメ、物理防御力いくつよ」
「400……いや500ちょい?」
「多分一撃死するから800は欲しいわね。【コイントス】はしばらく控えるんでしょ?」
「レヴァリオスで全額使っちゃったからね……」
サード・ダンジョン攻略から貯めてはいたけど、武器強化、防具新調で既に所持金は底をついている。
このままクマと戦っても足手まといになるだろうな。
「ならとりあえず買える防具買っちゃおうよ〜! わたし出すよ〜?」
「ヒメだけに出させるわけにはいかないわ。サードをクリアできたのはカナメの無茶あってのことだし」
「私も出すよ、手伝ってもらったお礼してなかったもんね」
ヒメ達が任せなさいと言うようにサムズアップする。
「い、いいの? ……いや、嬉しい! お言葉に甘えさせていただきます!」
私は心優しい仲間たちにきっちり90度の礼をした。
お礼と言うなら、素直に受け取っておこう。
「でもコーディネートはわたし達が決めるからね」
「そうね」
「うん」
うん……?
「あれ、皆さんなんだか表情が悪いですね……」
どうやらこの三人、お礼に防具を買ってあげるというのは建前で、私を着せ替え人形にしたいだけらしい。
ヒメとユヅキさんに腕を掴まれ、私は為す術なく商店街の方角へ引っ張られていった。
■■■
《妖精国ルナデルタ》は森の中にありながら広い都市を築いている。
女王が居るという叡樹を中心に東西南北へ大通りが伸びており、西に工房、東に商店街がある。
商店街では様々なアイテムが買えるほか、簡単な防具も売られていた。
「クックック……お客さんお目が高い……そちらの品はある遠国の王族に仕えていた使用人が着用していたメイド服でしてね……その使用人は護身術、暗殺術に長けていたそうで、この服は見た目以上の性能! 150万ゴルトのところ、今なら100万ゴルトでお譲りしましょう!」
商店街で防具を物色していたヒメ、コユ、ユヅキさんの三人は、どうやらお金を出しあって良いものを一着買おうということになったらしい。
三人であれじゃないこれじゃないと悩みに悩んでいたところ、商店街の路地裏に居た怪しい商人を発見。
声をかけ、今に至る。
けど100万って……これは流石にぼったくり──。
「「「買います」」」
「なんで??」
三人の意見が一致してしまったのか、クラシカルながらもどこか扇情的な雰囲気を持つメイド服が一括で購入された。
「さあカナメちゃんっ!!」
「こんなの着る機会ないでしょう?」
「カナメちゃんのメイド姿……見たい」
メイド服を手にずいずいっと迫り来る三人に、私は壁際に追い込まれてしまった。
流石にお礼のプレゼントだから、断るのも忍びない。
「もー、わかった……わかりました……! ありがたく頂戴いたします!」
「やった〜♪」
ヒメが嬉しそうに飛び跳ねる。
メイドさんなんて見慣れてるでしょうに。
呆れながら装備スロットから選択すれば、着るのが難しそうなメイド服も一瞬で着替え終わった。
光に包まれ、次の瞬間現れたのは美しい黒と白のコントラスト。頭にはホワイトブリムが乗っかって、レースが可愛い長いスカートがふわりとやわらかく舞い上がる。
ところどころアレンジが施され、現実的と言うよりファンタジー色の強いメイド服だ。
着心地は、高いだけあってかなり良い。
そしてさすが給仕服。見た目ほど動きにくくない。
「ぼ、防御力900……このメイド服強すぎない?」
怪しい商人の言葉に嘘はなく、しっかり高性能。
これならクマもへっちゃらだ。
いやこの格好で戦うの? 恥ずくない?
あと私の武器チェーンソーなんですけど、メイドってチェーンソー持つものなの?
「ふぉおおおおおお〜〜っ!!!! 似合ってる〜っ! すごく似合ってるよカナメちゃん! こっち視線ちょうだ〜い! あっっっ♡ さすがっ、天才っ、超キュートっ! 」
「ちょ、スクショやめてぇ!?」
しれっとコユとユヅキさんもスクショ撮ってるし。
コメント欄も、それが当然というように加速する。
『うおおおおおメイドだあああ!!』
『かわいい』
『【¥10,000】いつもそうやって僕を喜ばせる』
『【¥10,000】おかえりなさいませご主人様って言ってほしいです!』
『やはりメイド服、メイド服こそ至高にして究極』
『ヒメ様ご乱心』
『俺らよりテンション高くて草』
『【¥5,000】かわいいかよ』
『【¥50,000】』
『●REC』
とまぁ、こんな感じでその日のコメント欄は過去一番の盛り上がりを見せたが、一番盛り上がっていたのがすぐ横でカメラを構えるヒメだったのは言うまでもないだろう。
見られてると思うと、なんだか顔が熱くなってくる。
「あーもう、早く行くよっ!」
「あーん待って〜! まだ撮りたいのに〜!」
「恥ずかしがっちゃって、かわいいわね」
「かわいいよカナメちゃん」
後ろから三人の声が聞こえてくるが、無視してズカズカ前を行く。
いつか三人分のメイド服を買って同じ目に遭わせてやろう……なんて企みながら。




