#76. 新しいメンバーが加入しました
「カナメちゃんは私の後ろに」
「何が始まるって言うんです?」
私達を囲う計八体の神狼に注意しながらユヅキさんに背中を預ける。
「ランダムで突進してくるんだけど、即死級ダメージだから絶対当たらないでね。私はいつもここで失敗してた」
「マジですか」
「マジです」
そうこう言ってるうちに、一体が駆け出す。
駆けると言ってもその速度は目で追えるようなものではなく、雷光一閃──さながらレールガンである。
一体目はユヅキさんが【祟牙】でカウンターし、霧散していく。
しかし、立て続けに二体目、三体目が突撃してきた。
──魔法ではなく物理攻撃だから頼みの【破天魔荒・反撃】は使えない。
「──ッ、しゃがんで!」
「うわっぷ!?」
ユヅキさんに押し倒され、私の視界はなんとも柔らかそうなたわわに実った果実に埋め尽くされる。
かと思えば次の瞬間にはユヅキさんに片手で腰を抱かれ、身体を起こされる。
反動で胸に顔を埋めてしまい、柔らかくあたたかい感触を感じながら轟く雷鳴を聞き流す。
正直いい匂いがしてそれどころじゃない……
「か、カナメちゃん大丈夫?」
「だ……ダイジョブです……!」
名残惜しくもユヅキさんの胸から離れる。
いかんいかん……理性を保て私、戦闘中だぞ!
おかげでなんとか二体目、三体目の雷光一閃をやり過ごしたが、まだ次弾がある。
「スキルセット、変更!」
こうなれば耐久全振りで耐え凌ぐ。
武器スキル二種は固定だから、攻撃スキルの【モンスロート】と【モルトバート】を一旦外す。
「よし、来い────!」
四体目が閃く。
チェーンソーを前に構えて防御姿勢を取り受け止めるが──。
「うっぐおぉっ!? 重い!」
【金剛体】でノックバック軽減もあるのに押される。
身体を逸らしてなんとか受け流すことはできたけど、今のでHPは危険域。
防御力は結構自信あったのに、流石エクストラボスだ。
そんなことを思っていると、早速入れ替えたスキルが発動する。
パッシブスキル【生命維持装置】
HP減少時、最大HPの10%を回復し、自動回復効果を付与する。
粘り強さは依然健在だ。
「下がって! ──【祟牙】ッ!」
クールタイムが終わった【祟牙】でカウンターして凌ぎ、五体目は力を失ったかのように霧散する。
六体目はちょうど真正面、分かりやすかったので飛び退いて回避。
七体目の時点でHPを全回復した私がなんとか受け止める。
最後に残った神狼本体は、溢れんばかりに蒼雷を蓄えていて、その姿は雷雲そのもの。
雨風が荒れ狂い、周囲の木々は悲鳴でも上げてるかのように木の葉をガサガサ揺らしてざわめいている。
あれは多分、コユの盾でも防御できないタイプの攻撃。
「ガルォォォオンッ!!!!」
まずい、来る。
ユヅキさんのカウンターはまだクールタイム中だ。
避けなきゃいけないけど、迸る蒼雷が当たり判定を大きくしている。
そんな状態で超スピードの突進をされたら、いくら運動神経が良くても回避し切れない。
「…………そうかっ」
──恐らく、分身体の攻略を間違えた。
神狼の蒼雷から作られた分身体。
その内、カウンターした個体は霧散するように消えていったのに対し、回避や防御で凌いだ個体はその演出が無かった。
本体の帯電状態を見るに、カウンターせずやり過ごした分身体は本体へ力を返還し、その影響で蒼雷の威力を増幅させている。
反撃することが条件だったんだ。
その事はユヅキさんも気付いたようで、奥歯を噛み締めている。
「ユヅキさん、私の後ろに」
「えっ……でもそれじゃカナメちゃんが」
「大丈夫です。ユヅキさんは絶対守りますから」
神狼を睨む。
雷そのものが獣となって牙を剥いているようだ。
天ツ牙……確かに空から降り注ぐ落雷は神狼の牙と言えよう。
でも、それがなんだ。
来るなら来い。
私のエンジンを止められるものなら、止めてみろ。
「────────ッッ!!!!」
刹那、視界を埋め尽くすのは閃烈の光。
遅れて、轟雷音。
どんな重量級武器よりも重い霹靂の塊を押さえ付けるが、HPは目に見えて減り続けている。
【金剛体】の被ダメージ軽減と、【生命維持装置】による回復────それだけでは耐えられるはずもない。
分身体にもう少し反撃を入れていたら耐え切れたかもしれないけど、それは過ぎたこと。
今は、ユヅキさんだけでも守る。
「──ぐっ! アアアアアアァァーーッ!!」
止まない閃光に、悲鳴を上げるチェーンソー。
HPはレッドゾーンに突入し、【生命維持装置】の回復も追い付かなくなる。
結末は既にわかっていた。
仮想の肉体を動かすHPは尽き、力を失った私は倒れて、アバターはポリゴン片となって砕け散る。
『GAME OVER』
必然、そのポップアップを見ることになる。
だけど。
『ダイバーの応答なし、行動不能と判断』
『【緊急蘇生装置】──起動します』
チェーンソーのエンジン部分から伸びたチューブが背中に接続し、そのエネルギーが注ぎ込まれる。
どくん、と脈打つ心臓。
跳ね上がる身体は熱を帯び、私は再び立ち上がった。
「そ、蘇生……したの?」
ユヅキさんは信じられないと言うかのように目を丸くする。
『生き返った!』
『マ!?』
『いま蘇生アイテム使った?』
『エクストラクエストで蘇生アイテム使えたっけ』
『いや今のスキルっぽいぞ』
『!?』
「パッシブスキルの【緊急蘇生装置】ってやつで、クエスト中に一度だけ、死亡時に最大HPの30%を回復した状態で復活できるんです」
一回だけの制限はあれど、DDOにおいて入手困難な蘇生アイテムを使用せずに復活できるスキルというのは激レア以外の何物でもない。
「さあ、ユヅキさん! 叩き込みますよ!」
「……うん!」
神狼の残りHPは40%で、大技を使ったからか帯電状態も解除されている。
ならば、条件を満たした致命の一撃を撃つまで!
私は戦闘用スキルセットに変え、【モルトバート】を叩き込む。
後隙を埋めるように【モンスロート】を挟むと、HPが大きく減少し、流石の神狼も怯んで「アオン」と甲高く唸る。
「せりゃああああッ!!」
さらにダメ押し。その大きな体躯にチェーンソーの刃を押し付け、斬り刻みながら走り抜ける。
雨と一緒にコインが降り注ぎ、残りHP……20%!
「グルガァ!」
「おっと、行かせないよワンちゃん!」
どうやら神狼も気付いたらしい。
納刀したまま静かに歩み寄る黒髪の剣士に。
さながら、蒼雷を纏うもう一匹の狼だ。
そのHPは瞬く間に半分減少し、MPは0になる。
黒雲から降り注ぐ雷は青刃の太刀に集い、巨大な雷光の剣と化していた。
「【神雷】────ッ!!」
鬼気迫る表情で叫び、剣士は太刀を振り下ろした。
天穿つ巨雷剣は黒雲を割く。
迫る刃と突風が降りしきる雨を、鳴り響く稲妻を掻き消す。
その果てに、かの神狼を斬った。
「ガ……ルル……ッオゥン…………」
神狼は牙を剥き、最後まで抵抗の意志を示すように剣士を睨み続けたが、終ぞその牙は届くことなく、「お前の勝ちだ」と言うかのように天に向かって吼え──その巨体を倒した。
今や天は清々しいほどに青く、春のあたたかな光が森に射し込んでいた。
やわらかな風にそよぐ白毛が一瞬バチリと静電気を発したが、その躯体はガラスのように砕け、風に乗って遥かな青空へ舞い上がっていった。
──────────リザルト──────────
EXクエスト《霹靂畏れよ童ども》
目標:天ツ牙大神の討伐
場所:神域
報酬: 神狼の金雷角、神狼の剛牙、神狼の極雷毛
《 天ツ牙大神剣【破天】》の強化解放
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……クリアした。
目当ての素材も入手したし、なによりこれでユヅキさんのレベル制限は無くなる。
「……カナメちゃん、ありがとう。私ひとりじゃクリアできなかった……本当にありがとう」
「おふっ!?」
抱きしめられると、なんだか花のようないい匂いがする。
くっ、押し付けられた胸の感触が心地よい。
否応なしに緊張して、どんどん鼓動が早くなっていく。
どうか気付かれませんように。
「い、いいんですよ。未来のギルドメンバーですし!」
「そっか……そうだね」
ユヅキさんは静かに微笑むと、何かを決意したように右手を差し出してきた。
「カナメちゃん、遅くなっちゃったけど……どうか私を、ギルド《夜猫の喫茶店》の一員にしてもらえませんか」
表示されたウィンドウは、ギルドの加入申請だった。
「もう、平気ですか?」
「今度はちゃんと自分のやりたいことをして、みんなとゲームを楽しみたい。それに気付かせてくれたカナメちゃんのギルドに入りたい。……私、自分で決めたよ」
その表情に迷いや不安はなく、眼差しは真っ直ぐだ。
彼女がそう決めたのなら、しっかり私も応えよう。
差し出された手を取り、固い握手を交わす。
「《夜猫の喫茶店》ギルドマスター・カナメは、あなたを歓迎します!」
「はい、よろしくお願いします……!」
こうして、私達のギルドに新しいメンバーが加入した。
コメント欄では『少数精鋭すぎる』『もうこのギルド誰の手にも負えないだろ』とか言われてるけど、確かにユヅキさんの加入で《夜猫の喫茶店》の戦力は目に見えて大きくなったと、私も思う。
ギルド《夜猫の喫茶店》
ギルドマスター《カナメ》Lv61
ギルドメンバー《ヒメ》Lv61
《コユ》Lv62
《ユヅキ》Lv60
気持ちに折り合いがついたようですね
これでユヅキさんも正式に仲間だーっ!




