#74. 霹靂畏れよ童ども
エクストラクエストというものは、特定の条件を満たしたプレイヤーに発生するクエストだ。それ故に、詳しい条件が不明で唯一性を持ったものはユニーククエストなどと呼ばれることもある。
サード・ダンジョン未クリア勢の救済措置と私の武器デメリット解放を兼任している《いつか夢見たあの花を、》と比べて、ユヅキさんに発生したのは現状DDOに一振りしかないユニーク武器限定と思わしきもので、まさにユニーククエストと呼ぶに相応しかった。
──ボルダー武具工房を解放し、後日。
《妖精国ルナデルタ》のシンボルである叡樹は、根元に佇む黒髪の剣士を太陽光のような暖かい光を優しく照らしていた。
艶やかな長い黒髪が風に揺れ、剣士は髪が顔に掛かるのを片手で押さえる──すると、バチリと私と目が合った。
つい見惚れてガン見していたけど、幸いにも気付かれず、剣士──ユヅキさんは優しく微笑んで手を振ってくれた。
「ごめんねカナメちゃん、付き合わせちゃって」
「いえ、私も素材が必要になったのでむしろ大歓迎です」
今日はユヅキさんのユニーク武器のデメリットを解消するため、そして、私のチェーンソーを強化するために急遽必要になった素材を入手するため、最大二名限定のユニーククエストに挑戦する。
なぜそんなクエストのモンスター素材を要求するのだとあの鍛冶師を問い詰めたい気持ちも、やや、ほんの少し、ちょっぴりあるけど……ユヅキさんのクエストに付き合うのは前々から約束していたことなので今回はヨシとしよう。
ヒメとコユには事情を説明してあるから、今日は完全に二人きりだ。
配信をスタートさせ、ユヅキさんと顔を見合わせる。
「それじゃあ、行こっか」
「はい!」
ユヅキさんの案内の元、私達は目的地へと向かった。
場所は《妖精国ルナデルタ》から北西、森林を突き進み、途中クマのようなエリアボスに絡まれたりもしながらなんとか森を抜けると、自然豊かな山岳地帯に辿り着く。
滝から流れてきた川のせせらぎが心地よい。
フィールド名は《テンケイド渓流》──その神秘的な風景から『秘境』とも呼ばれるらしい。
その奥地へ踏み入ると、ユヅキさんが自身の得物である太刀の柄に触れながら口を開いた。
「事前に話した通りなんだけど、ボスは《天ツ牙大神》っていうおっきなわんちゃん。雷属性の攻撃は当たると痛いから気を付けてね」
「そう言えば……ユヅキさんの武器の名前って」
「うん、この刀はボスと同じ《天ツ牙大神剣【破天】》って名前。……伝承は聞いたんだよね?」
「はい、ボルダーって鍛冶師に。聞いた感じ、ユヅキさんのスキルと同じ攻撃をしてきますよね」
「うん。ほぼ同じ……いや、向こうの方が強力だと思って。私のは所詮、下位互換だから」
……ユヅキさんとは戦ったことあるけど、アレで下位互換というのが信じられない。ユヅキさんが一人ではクリアできなかったというのも頷ける。
「今まではダメージ不足で時間切れしてたけど……カナメちゃんが入ればそこを突破できると思ってる。頼りにしてるよ」
「ゆ、ユヅキさんの火力でダメージ不足……若干の不安はありますけど、頼られた以上頑張ります!」
お任せくださいと言わんばかりに胸を叩く。
頼り甲斐のある憧れの先輩にこうして頼ってもらえるのは、後輩として嬉しい。
スキルセットの最終確認を歩きながら済ませ、渓流最奥──遂に森が開けてきた。
刹那、雷鳴が轟く。
あれだけ美しかった森の景色は一変し、霧が立ち込め、青空は黒い雲に覆われる。
雲は雷を孕み、大粒の雨を降らせた。
少し、身体がピリピリする。静電気でも帯びてるのだろうか。
『領域に侵入したため、被ダメージが増加します』
と、そんなログを横目にし──開けたエリアの中心に落ちた雷で、私は思わず目を眩ませた。
瞬間、衝撃波が降りしきる雨を一瞬だけかき消した。
「────カナメちゃん、平気?」
何事かと目を開けてみれば、そこには雷撃を刀で受け止めるユヅキさんの背中があった。
なるほど、これが神様なりの初見殺しってわけね。
雷撃を弾き飛ばすユヅキさん。
その視線はエリア中央────落雷と共に現れた大狼へ向けられる。
頭部には金色の角が二本。
体高は私達の二倍ほど、体長もそれに合わせてバランス良く……だけど、尻尾が長いからか私はその姿を一瞬だけ龍と見紛った。
雨に打たれているはずなのにふわりと逆立つ白い体毛からは蒼雷が迸っている。
別名・神狼と呼ばれるのも頷ける神々しさだ。
蒼眼は侵入者を鋭く睨みつけ、私の身体は思わず鳥肌が立つ。
『エクストラクエスト《霹靂畏れよ童ども》を開始します』
EXTRA BOSS
《天ツ牙大神》
[HP 280,000/280,000]
「────ガルガオォォォォンッ!!」
隻燼龍にも負けぬプレッシャーを、神狼は轟雷にも似た咆哮をもって侵入者たる私達に押し付けた。




