#72. 妖精国ルナデルタ(あの木、燃えてません?)
新たな大森林フィールド《アルドランサ結界森林》を駆ける私は、スキル【第六感】による危機察知が反応した方向へ目をやる。
「コユ! 後ろから三匹来てるよ!」
「──了解っ!」
コユは自身の周囲で二つの大盾を高速回転させる。
背後から襲ってきた伐採ゴブリンを吹っ飛ばすと、回転を止めた大盾が振り落とされ、三匹の伐採ゴブリンは爆散してポリゴン片となった。
「誘導完了っ、ヒメ、やっちゃって!」
「はいよ〜! 【エクスプロージョン】!」
さらに伐採ゴブリン達のヘイトを稼いで一箇所に集めたところへ、ヒメの爆撃で一網打尽にしてやる。
作戦成功。互いにグッジョブを送り合い、次の準備に取り掛かる。
──私達は現在、結界術師アルメネルのクエストに奔走していた。
その内容は、結界が張り直されるまで伐採ゴブリンから森を守ること。
「アルメネルの話じゃこの森の木が結界の強度に直結してるのよね」
「うん〜、旧アルファス周辺の砂漠が元々は森だったって話だから、本当はこの土地全体が結界で守られてたんだろうね〜」
結界ごと森を焼き払った隻燼龍……恐るべし。
しかしこのゴブリン達はどうして木を伐採しようとしているのだろうか。
武器もなぜかチェーンソーだし、何か文明を感じる。
そんなことを思っていると、私達の耳元に小型の魔法陣が現れる。通信魔法だ。
『皆さん、結界が強く反応しています。恐らく群れのボスでしょうが……ゴブリンにしては強すぎる魔力量だ。くれぐれも油断しないようお気を付けください』
ボスか……《ゴブリン・キング》とはまた違うのだろうか。
「まあ、見てみればわかるか」
私は【ゴブリンスレイヤー】のスキルレベルアップを確認して、ボスの侵攻方向へ視線を向ける。
のっそのっそと現れるは、筋骨隆々の巨体。防具は簡素な腰巻きだけで、全身の筋肉が鎧だと言わんばかりだ。
その筋肉──岩石のような灰色の肌は古傷だらけ。
鬼のような形相も相まって群れのボスとしての風格が一目でわかる。
いや、というか────スゴく見覚えがあるぞ?
「……カリカーン!」
《濫伐者カリカーン》──レベル63。
武器は大振りの大剣。刃はもちろんチェーンソーになっていて、《焔輝刃ロア・ゼロス》に酷似している。
まさかこんなところで再会するとは……けど、よく見ると私が倒したことのあるカリカーンとは顔付きが少し違う。
別個体──地獄の淵から蘇ったという訳ではなさそうだ。
「────グオオオオオオッ!!」
「……っ!」
思わず耳を塞ぎたくなる雷鳴のような咆哮。
三人こぞってスキルが使えなくなる戦慄状態に陥る。
【第六感】は発動していたけど……あの咆哮は聞こえた瞬間に戦慄状態を付与する。やっぱり回避は難しいな。
「カナメ! コユがガードするから、自由に暴れなさい!」
「オッケー! ヒメは戦慄解けたらレッツ爆裂!」
「りょうか〜い!」
作戦を伝え、私は大盾と共に敵陣へ突っ込む。
「ドオオリャーーッ!」
取り巻きの伐採ゴブリンを薙ぎ倒し、大盾を足場にして飛び上がった私はカリカーンへチェーンソーを振り翳す。
「グルロァ!」
カリカーンもチェーンソーで応戦。
高速回転する鋸刃同士が衝突し、跳ね返る。
「……っ、ぐぅっ!」
反動をなんとか押さえ込むが、カリカーンは既に体勢を立て直していた。筋肉は飾りじゃないようだ。
「グルオオオアッッ!」
振り上げられたチェーンソーは無防備な懐を狙うが。
大盾がしっかりとガード。
さすがコユだ。
「ナイス! けど、近接戦だと咆哮を聞き続けるから戦慄が解除されないな……っ」
スキルが使えないのは戦いづらい。
やっぱりここは耳を削ぐか?
いやいや、あんまりやりすぎるとまたヒメに怒られる。
「となれば……時間を稼ぐ!」
私はチェーンソーをフル回転させ、地面を抉る。
飛び散った土がカリカーンの目にヒットし、一瞬狼狽えたところへ──。
「シューーットッ!!」
傍にあった大盾を蹴飛ばし、カリカーンの頭部へクリティカルヒット。
体勢を崩したカリカーンは後ろへ倒れ込む。
擬似【加速】成功だ。
カリカーンの再生力だとこの程度のダメージはすぐに回復されるけど、起き上がったところへ続けて擬似加速大盾。起き攻めで時間を稼ぐ。
あとは、後方待機でいち早く戦慄状態が解けたヒメに任せれば。
「────【エクスプロージョン】ッ!」
カリカーンを中心に展開した魔法陣が閃光し、周囲のゴブリン諸共に爆裂。消し炭になった。
いくら再生スピードが速くても、一撃で吹き飛ばされちゃえば関係ないもんね。
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森の入り口でアルメネルに報告し、無事に結界クエストはクリアされた。
「いやぁ皆さん本当にありがとうございました! おかげさまで、結界の修復が完了しました。これでしばらくは安全でしょう」
確かに森が少し明るくなったというか、オーロラのようなものが漂っているのが見える。あれが結界か。
「ささ、皆さんこちらへ。我が国はご案内します」
アルメネルの後に続き、森の奥地へと進む。
しばらく歩くと辿り着いたのは、第四拠点。
「ようこそ、《妖精国ルナデルタ》へ!」
あちこちに花が咲き誇り、住宅はログハウスが多く、樹木の中をくり抜いたような家も見える。
住人のNPCは妖精国の名に相応しく全員エルフで、皆一様に美形だ。
「綺麗なとこだなぁ……って、あの、アルメネルさん?」
「はい、どうかなされましたか?」
「あの木……燃えてません?」
「え?」
私が指さした方向にあるのは、周囲の木とは違って白い色をした木。それが今、盛大に燃えていた。
「あんの馬鹿鍛冶師! またやらかしたのか!?」
燃える白い巨木を見たアルメネルからさっきまでのニコニコ笑顔が消え失せ、顔を真っ赤にして……怒髪、天を衝いていた。




