#68. フロントライン/オーバーライザー
盛り上がるコメント欄。
勝利を喜び合うカナメとコユ。
そして、倒れた隻燼龍。
攻略が難しいサード・ダンジョンをたった三人でクリアした。それだけでも、フルライブの急上昇ランキングに載れる勢いを生むだろう。
事実、裏工作をせずとも現時点でランキング一位は確実だった。
────だが。
(おめでとう、ユメちゃん。ここまでよく頑張ったね)
はしゃぐカナメを愛おしそうに見つめていたヒメは、視線を隻燼龍に移す。
(でも……でもね。まだ足りないんだよ)
ランキング一位など、単なる通過点だ。
彼女が胸を張って自分の隣を歩けるくらいの自信を付けるには、まだ足りない。
もちろん、いつかは実現されるだろう。
だが、そのいつかとは、果たしていつだ?
(……ごめんね。わたし、そんなに待てないよ)
────動け。
(もっと上へ行こう、ユメちゃん……わたしが《カナメ》を、連れて行ってあげる)
────立て。
(みんなが見たいのは目新しいもの……だから最前線の攻略が一番視聴率がいい。だったら、そうしよう)
────起きろ。
(今、わたし達が居るこの場所が《デュエルダイバーズ・オンライン》の最前線だよ)
誰も見たことがない、最も新しく、最も胸躍る場所。
それを、構築する。
(みんなに見せてあげてよ、カナメちゃん)
静かに微笑む。その瞬間だった。
「グガルオオオオオオオオオオオーーーーッッ!!!」
────咆哮。
起き上がった隻燼龍レヴァリオスは、その邪眼を見開く。
その視線の先にあるのは、ヒメだ。
「なっ────!?」
油断した──と、カナメは後悔する。
隻燼龍が倒れても、消滅エフェクトが一向に発生しないことに気付くべきだった。
【第六感】をセットしておけば、この一瞬を察知できた。
苦渋の表情を浮かべるが、伸ばした手が今更届くはずもなく。
発火したヒメのHPは全損した。
■■■
──隻燼龍が復活した。
ボスなのだから第二形態くらいあるとは思うけど、周囲の反応が私に違和感を覚えさせた。
「な、なんで……第二形態なんて聞いてないわよ」
コユの表情が、視聴者の反応が、これがイレギュラーであることを告げていた。
『!?!?』
『は?!』
『うせやろ』
『なに』
『第二形態!?』
『前までなかったよな!?』
誰もが己の目を疑っているなか、「まさか」とコユは額に汗を滲ませながらウィンドウを操作する。
「……リサーチが甘かった。アップデートされてるわ」
「あ、アップデート!? いつ!?」
「昨日よ、昨日! 青騎士攻略で完全に抜けてたわ。運営め……さらに難易度上げてくるとか、変態かなにかなの!?」
『マジじゃん』
『え、追加イベントが第二形態? マ?』
『どうなるんこれ!』
『チクショウしぶてぇ野郎だ!』
アップデート内容は至ってシンプルだった。
──サード・ダンジョンのレイドボス《隻燼龍レヴァリオス》にイベントを追加します。
復活した隻燼龍は止まった心臓を動かすように業火を纏い、燃えながら咆哮を繰り返す。
空には暗雲が立ち込め、隻燼龍が翔び上がる。
その姿を注視すると、HPゲージが見えた。
《隻燼龍レヴァリオス》
[HP 10,000/200,000]
「最後の悪あがきってわけ……!」
まだ強化状態は維持してる。迎え撃って、今度こそ勝つ。
そう息巻いてチェーンソーを唸らせ────あれ。
「……聖剣?」
落ちた時に抜けたのだろう。
隻燼龍の右眼に刺さっていた聖剣が地面に突き刺さっていた。
古びて、酷く錆びている聖剣は、わずかに青く光を放っている。
まるで、喚んでいるかのように。
俺を使えと、叫ぶように。
「そうか、イベントの追加って……」
聖剣の柄を握ると、熱が込み上げてくる。
握りしめると、聖剣は呼応するように強く、眩しく、鮮烈に光を放つ。
錆が剥がれ、かつての美しい姿が蘇る。
その姿を見ていると、私の頭の中に言葉が浮かび上がってくる。
「……いつか夢見たあの花を、眠れぬ騎士へ青薔薇を」
ジークリウスの姿が鮮明に思い起こされる。
同時に、これのことだったのだと理解した。
習得したスキルの中に、効果がわからないものが一つだけあった。
効果説明欄にはただ一言『喚べ』とだけあり、意味不明ではあったけど……フレーバーテキストに『青騎士ジークリウスの遺志』と書かれていて、重要な気がして、セットしておいた。
エクストラスキル【オーバーライザー】
何を喚ぶかと聞かれれば、そんなの一人しか居ない!
「来い────! ジークリウス────!」
その名を喚ぶと、青い騎士の幻影が現れる。
傍らには給仕服を着た使用人──セレーネさんが居た。
「ありがとう」
セレーネさんは私にそれだけ伝えると、ジークリウスの後ろへ下がって消えていく。
「無理やり付いて来おって……礼を言いたいなら後でも良いだろう」
呆れながらも声色はどこか明るい。
「グロロロ……」
「久しいな、大火よ。今度こそ討つために舞い戻ってきたぞ」
空の隻燼龍を一睨みした後、ジークリウスは私に視線を向ける。
「その聖剣なら奴を討てる。が、私には聖剣を持てる肉体がない。代わりに力を貸そう────頼んだぞ」
ジークリウスの幻影が霧散したかと思えば、青い薔薇の花弁となって降り注ぐ。
「え、うおおっ!? 甲冑出てきた!?」
聖剣を握る左手から篭手が現れ、銀のプレートアーマーを形成。
青薔薇の意匠が施されたアーマーが装着され、私のHPゲージがぐんと伸びる。
『【オーバーライザー】が適応されたため、専用スキルセットに変更されました。また【ゴルトライザー】の効果が変更され、ゴルトを消費することでスキルを強化できるようになりました』
「決戦スキルってわけね。なら──!」
派手に決めてやろう。
攻撃して稼いだ10,000Gを使用し、専用スキルを強化。
スキル【果誓】────黄金覚醒。
「グオオオオオオオーーーーッ!!」
「……いい加減ッ!」
業火を吐き、纏いながら飛来する隻燼龍。
隕石のような迫力で、古城の外壁が砕けていく。
『やれーーーー!』
『倒せーッ!』
『うおおおおおおお!!!』
「勝たせろォォォォーーーーッ!!!!」
怒声と共に、左手の聖剣で空を薙ぎ、暗雲を切り開く。
瞬く間に隻燼龍の炎は掻き消され、地面に墜ちる前にその巨体は爆散。
砕け散ったポリゴン片が降り注ぎ、遂に──リザルトが表示された。
──────────リザルト──────────
サード・クエスト《隻燼龍レヴァリオス討滅戦》
目標:隻燼龍レヴァリオスの討伐
場所:旧アルファス城塞跡
依頼人:アルファス王
報酬:300,000G 隻燼龍の邪眼
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一位おめでとうカナメちゃん!
そしてよかったねヒメさん!
……本当にそれでよかったの:(´◦ω◦`):




