#64. 咆哮、大火。
王様が退避命令を出すとほぼ同時に、隻燼龍の左眼が光った。
いや、燃え上がったと言うのが正しい。
「────────ッ!!!!」
耳を劈く咆哮。
急上昇する周囲の温度。
そして…………地上で牽制していた騎士の一人が、突然発火した。
「ぐあッ、ああアあアアアアアーーーーッッ!!?」
悲痛な断末魔と共に、黒焦げになって倒れてしまう。
他の騎士が燃えた騎士を抱えて退避していくが、隻燼龍の猛攻は止まらない。
大地にいくつもの火柱が昇る。
まるで、天を突き穿つ槍のように。
「片眼を失ってもその邪眼は生きているか! 盾を構えて身を隠せ! 奴に睨まれるな!」
「コユ!」
「もうやってるわ!」
すぐさま大盾の影に隠れる。
あの燃え上がった左眼に睨まれると強制発火するのか。
動きづらいな……強引に突破してみるか?
「あれ即死だから気を付けなさい」
「即死なの!?」
「確定九割のダメージに強制火傷付与で残りを削られるわ」
もし両眼が健在なら、その分視界が広くて逃げるのが難しくなっていた。
本当にありがとうジークリウス……。
「皆殿、いくら邪眼であろうと聖剣の影響で連発はできまい。発動直前に眼に火花のようなものが散ったのが見えた。注意されたし」
王様はそう注意すると、剣を掲げて騎士達を鼓舞する。
対する隻燼龍は、思うように力が使えないことに憤っているのか、口から炎を吐いて唸っていた。
『あの邪眼がキツいんだよな』
『バリスタより大砲の方がダメージ出るよ』
『ヒメちゃんの火力えげつねぇ……!』
『撃て撃てーーッ!』
「私、大砲も撃ってくる!」
バリスタは狙いやすいけど一発のダメージが低い。
コメントのアドバイスを参考に、私は砲弾装填へ。
砲弾を抱えて、落とさないよう慎重に、だけど素早く運ぶ。
砲身にセットしたら角度を調節して──発射!
ドンッ、と威勢よく射出された砲弾は、隻燼龍の左翼に炸裂した。
「グオォォッ……!」
ダメージが蓄積していたのもあるが、流石の火力だ。
翼の皮膜がボロボロになり、隻燼龍は怯む。
その隙に、遥か上空では巨大な魔法陣が龍の頭部へ狙いを定めていた。
「────魔力活性、臨界」
爆熱、爆風、爆砕……魔法属性、装填。
破壊規模、限定。
法式──龍殺戮弾。
「爆裂せよ! 【エクスプロージョン】────ッ!!」
ヒメが詠唱を終えた、刹那。
一筋の閃光が地を穿つ。
隻燼龍の炎と同等かそれ以上の爆炎が荒れ狂い、あの膨大なHPを見てわかるほど大きく削った。
──だが。
「グオオオオオオ────────ンッ!!!!」
再び、咆哮。
【エクスプロージョン】を耐え凌いだ隻燼龍の邪眼に火花が散り、稲妻のように迸る。
炎を宿した左眼は、私を睨み付けていた。
「しまっ──!?」
しくじった。
大砲を撃つためにバリスタに居るコユから離れてしまった。
大盾が飛んで来ているけど、間に合わない。
チェーンソーに身を隠す?
いや、もう見られてしまった。
ポーションを飲んで即死は避け……いや、それも間に合わない。
無防備な身体に火が灯る。
火は肉体を薪にして大きく育ち、炎となって燃え上がって。
HPが減少し始めた……その時だ。
私の前に、王様が現れた。
転移系のスキルを使ったのだろう。……でも、なんで?
「王様、離れ……」
「────その焔、貰い受ける」
王様が手にした剣を通して、私に纏わりついていた炎が王様の身体へ移っていく。
「この忌々しい邪焔が、我らの故郷を焼いたのか……」
王様は自身を焼く炎のゆらめきを睨み、怒りに震えていた。
そして目は、隻燼龍を睨む。
「この焔……我が王剣、我が秘奥義を以て反そう」
剣を振り上げる。
全身を焼いていた炎のオーラが、刀身に移る。
ただならぬ覇気が場の空気を支配し、隻燼龍も察知したのか王様を睨みながら喉奥を赫くさせた。
「覇斬────ッ!!」
「グルオオオオオオオオオオオッッ!!!!」
振り下ろした剣は、隻燼龍の炎をも自身の力に変え、その斬撃は空気を揺るがす。
王の覇斬が龍の剛角を破壊するのに、一秒も掛からなかった。
「ギャオオオオッ……!?」
片角を失い、然しもの隻燼龍も大ダウン。
しかし、王様の方も苦しそうに倒れ込んだ。
「お、王様っ!」
駆け寄って身体を起こそうとすると、王様はその手を払い除ける。
息も絶え絶えだが、眼光は鋭く、隻燼龍を捉え続けていた。
「構うなッ、進め──ッ!」
「……はい!」
王の号令を合図に、城壁の兵器が火を吹く。
私は自然と隻燼龍へ足が向き、気付けば城壁から飛び降りていた。
真下には、倒れた隻燼龍の頭。
叩き込むにはちょうどいい……ッ!
振り上げたチェーンソーは唸り、周囲の熱気を絡め取る。
「────────ッ!!」
奥義スキル・単発必殺技。
それは対象のHPが30%以下の時、威力が倍増する。
即ち、致命の一撃────【モルトバート】
迸るライトエフェクトが隻燼龍の脳天に直撃し、高速でヒット数が重なっていく。
コインが血飛沫のように飛び散って──遂に、隻燼龍のHPを削り切った。
「グオッ……オオッ……ァオオオ……ッ!」
起き上がった隻燼龍はこちらを恨めしそうにひと睨みした後、翼を広げて空へ飛び立つ。
どうやら、逃げ去ったようだ。
「や、やった」
騎士の一人が静かに、噛み締めるように呟く。
それを皮切りに、他の騎士達が叫ぶ。響く。
勝鬨の声が、轟く。
「うおおおおおっ!」
「俺達が故郷を護ったんだ!」
「二度と来るなクソトカゲーーッ!」
『撃退したァァァァ!!!』
『前半戦のタイム良くね!?』
『マジで1パーティークリアしちゃうんじゃないか』
『【¥3,000】Congratulation!! 次もがんばって!』
『あ、コングラニキちっすちっす』
次……そう、まだ終わってない。
これはあくまで防衛戦。
《隻燼龍レヴァリオス》を撃退したに過ぎない。
「皆……良くぞ、やってくれた」
「王様! 怪我は大丈夫ですか?」
「なに、これくらいは……ウグッ……くっ、思ったよりダメージがあるようだ……」
「休んでください。あとは私達がなんとかします」
「……隻燼龍が逃げた先は旧アルファス城だろう。今なら奴を倒せる。……頼めるか、英雄」
ここからだ。
かつて難攻不落とされ、最前線のプレイヤーが集まった4パーティーのレイドでようやくクリアされたサード・ダンジョン──《旧アルファス城塞跡》
未だサード・ダンジョン関連の動画は注目されているが、ただの攻略配信では注目度ランキングの上位へは行けない。
だから私は、私達は、1パーティーでクリアする。
やはり難易度の高さは相変わらずのようで、ソロどころか1パーティークリアの報告も未だ上がっていない。
私達がここで成し遂げる。
さらに目指すは、初見クリアだ。
その決意を胸に、私は王様からの依頼を承諾した。
『──サード・レイドクエスト。
《隻燼龍レヴァリオス討滅戦》を開始します』




