#63. 王都防衛戦線《フロントライン》
プレイヤーが大砂漠の探索を一定まで進めると、大火の赤龍が現れて限定フィールドギミックが発生する。
フィールドのモンスターが全て焼け死んでいく様を見下ろしながら、私達は大盾に乗ったまま王都へ向かった。
「──あれ、プレイヤーが一人も居ない?」
王都アルファス、普段なら大勢の人で賑わっているはずだが、NPCの姿すら見当たらず、今は廃墟のように静まり返っていた。
「シナリオが進行したわね。ここからはサード・ダンジョンをクリアするまで、アルファスは戦場になるわ」
「な、何が始まるの?」
「ネタバレはしたくないわ。王様のところに行くわよ二人とも」
王城へ向かって歩くコユは「はよ来い」と言いたげにヒラヒラと手を振った。
■■■
城内は騎士達が忙しなく動き回っていて、事態の緊迫さが空気で感じられた。
「……来られたか、潜行者……いや、カナメ殿」
険しい面持ちの王様は報告書から視線を外し、真っ直ぐに私を見る。
「王様、状況は」
「大火の赤龍が再び現れた……偵察隊から、こちらに向かってきているとの報告を受けた。奴め、また我らの家を燃やし尽くすつもりか……っ」
「外に誰も居なかったんですけど……みんなは?」
「皆は大森林の大樹に避難させた。そなたのおかげで正気に戻られたエクスユニルが皆を護ってくれるだろう……しかし、それも森あっての力。ここを突破され、大森林が焼かれてしまえばエクスユニルは神性を失い、今度こそ全てが炎に呑まれる……」
大森林も失うとなれば、過去の龍災とは比にならない被害規模だ。
「カナメ殿、ヒメ殿、コユ殿。どうか、どうかそなた達の力を貸してほしい……! かつて命懸けでアルファスを繋ぎ止めた英雄達のためにも、我らの家を失うわけにはいかんのだ……!」
玉座から立ち上がり、王冠を取って必死に乞う。
その姿に、私達は顔を見合せ……頷いた。
「任せてください。それに私、ジークリウスにも言っちゃいましたから。あとはなんとかするから任せてって」
「やろう、カナメちゃん!」
「うん!」
円陣を組んで気合を入れる私達に、王様は表情を和らげた。
「────感謝を。次代の英雄に祝福を」
そして──アルファスの王は、冠を被り直して頭を上げる。
「皆、よく聞け! かの邪龍はすぐにでも王都へ現れる。我らが護るべき、我らの居場所にだ! 故に、ここが最前線だ! 奴にこの戦線を跨がせるなッ!」
「「「────────ハッッ!!」」」
王の言葉に、大勢の聖騎士が一斉に敬礼をする。
自然と私も倣っていた。
必ずジークリウスとの約束は果たす。
「──伝令、伝令! 哨戒班が大火の赤龍を目視! すぐ接敵します!」
「第一部隊は大型弩砲で牽制! 第二部隊は砲弾装填急げ! 随時砲撃せよ!」
王自ら指揮を執るようだ。
立ち上がった王様は、指輪に魔力を込めて生成した魔法陣をくぐる。
すると瞬く間に青を基調とした鎧に着替え、騎士達と同じ片手直剣を装備していた。
『王の変身キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』
『見よ、これが俺達の国王だ』
『オレの推し』
『勝ったな風呂入ってくる』
コメント欄も盛り上がりを見せている。
うんうん、いいよね王様。
最初にお金くれたし、やっぱりこの王様はいい人だ。
「王様、その青い鎧って……」
「かつての英雄に背中を押してもらっているだけだ。私は青騎士と呼ばれるほどの力を持ち合わせていない」
「それでも、前線に立つあなたは立派だと思います」
「……ありがとう。では共に征こう、ジークリウスの遺志を継ぐ者よ」
武装した王様と共に、私達は城を出て城壁へ向かった。
■■■
城壁にはバリスタ、大砲などの迎撃設備が整っていて、それぞれに騎士が配備されていた。
その城壁から見下ろせる見慣れた景色──豊かな草原が広がっていたその場所は、既に赤龍の炎で燃え広がっている。
燃える大地に舞い降りた大火の赤龍……近距離でその姿を捉えた私の視界に、その名が映り込む。
《隻燼龍レヴァリオス》
[HP 100,000/100,000]
「────撃てェーーッ!」
騎士の号令を合図に、バリスタから大矢が放たれた。
『グロロロロロ…………』
しかし大矢を翼で弾き返した隻燼龍は、城壁を睨みながら煩わしそうに唸り声を上げる。
「──? あれ、アイツ右眼が……」
琥珀色の左眼はこちらを睨んでる。
けど、右眼はそうじゃない。
あれは……剣が、刺さってる?
「カナメ殿も気付かれたか。奴の右眼に突き刺さっているあの剣は、ジークリウスの聖剣だ」
「ジークリウスの?」
「やはり彼はずっと我々を護っていた……どうやらあの聖剣が奴の魔力を削いでいるようだ」
「そうか……だからジークリウスが死んじゃったあとでも追撃してこなかったんだ」
なら、あの右眼が弱点ということになる。
「カナメ! コユ達もバリスタで援護するわよ!」
「わたしはここから爆撃してるんよ〜!」
「あなたほど頼もしい兵器はないわね……」
ヒメは後方から【エクスプロージョン】でダメージを稼ぐ。
遠距離攻撃手段を持たない私は、コユと一緒にバリスタで隻燼龍を射撃する。
「あれ、けどコユは遠距離攻撃できるよね?」
「この後の戦いに温存しとかないといけないのよ。カナメ、レヴァリオスの翼を狙いなさい」
「え? 頭……というか眼じゃないの?」
「そんなとこ狙っても当たらないわよ。それより翼を破壊しないと、最終フェーズで飛ばれてこっちの攻撃チャンスが減るわ」
「さすが経験者!」
「クリアは出来なかったけどね!」
二人それぞれ両翼を狙い撃つ。
NPCの騎士が地上で牽制、城壁の騎士はバリスタや大砲で援護し、それなりのペースでHPが削れていた。
特にヒメの火力が光る。最強の固定砲台だ。
このまま削り切れる──!
その瞬間。
「総員ッ退避ィィーーーーッ!!!」
形相を変えた王様が、声が枯れそうになるほど叫んだ。




