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攻撃したら『1G』ドロップするスキルで金策してたら最強になってた ~金極振り配信、始めます~  作者: ゆーしゃエホーマキ
フロントライン編

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#54.『 魔王 』


 多くのプレイヤーが行き交う賑やかな石造りの街──《王都アルファス》に、プレイヤーが転移した時に現れる青白い光が一筋差し込む。

 消えていく光の中から姿を現した大剣使い──ギローは、緊張が解けたのか冷たい石畳の上にガクリと膝を突いた。



「あ、危なかった……あのガキ、とんだバケモンだぜ……」



 ドッと吹き出た冷や汗が石畳に垂れ落ちる。

 眩い青空を断つかのような黒い巨剣は、ギローの瞼に焼き付いていた。

 あらかじめ設定したポイントに転移できる魔法陣系アイテム《簡易魔法陣・転移》を使用し、デスペナルティを回避したギローは、恐る恐るパーティーメンバーのリストを開く。

 全員、HPを全損していた。



「良かった……俺の判断は間違っちゃいない。俺はまだ負けてねぇってことだ……!」



 込み上げてくる笑いを抑えながら、ギローはふらついた足取りで人通りのない路地裏へ身を隠す。

 その手には、小型のドローンが握られていた。

 ドローンを二回タップすると、()()()()()()()が表示される。

 そこには、ついさっきまで戦っていた大砂漠──そして、コユと黒眼覇王、倒されていくプレイヤー達が映っていた。



「ちいせぇクセによく撮れてる。クハハッ……俺は負けちゃいねぇぞ、コユ、カナメぇ……!」



 コユ達が荒らしプレイヤーを倒す映像、その使い道はひとつだけだ。

 狙いは、()()

 コユを悪質PKプレイヤーに仕立てあげ、話題の《夜猫の喫茶店(Nフェリス・カフェ)》もろともにSNSで燃やす。

 タイトルに『掲示板で集まったら配信者に待ち伏せPKされたんだが』とでも書けば、仲間内でボス攻略をしようと集まっていたところをコユが邪魔をして全員倒した、という風に見えてしまう。



「あばよ子猫共! 精々派手に盛り上がってくれや!」



 半透明の板を殴りつけるように、アップロードボタンが押された。

 動画は非道にもSNSに送信され、数分もしないうちに拡散が始まり────、


 ……小波ひとつ立たない寂寞(せきばく)が訪れた。



「…………なん、だ? は? なんで誰も反応しねぇんだよ!」



 SNSの画面を睨み付けるが、動画は1再生すらされていなかった。

 ギローのSNSアカウントはフォロワー数は8,000人を超えるアカウントを購入して手に入れたものだが、フォロワーがその投稿に興味が無いとしても、誰一人見ないというのはあまりにも不自然だった。



「クソッ、アイツらはどうしたんだ? 打ち合わせ通り拡散しろよッ! そんなことも出来ねぇ能無しじゃねぇだろ!?」



 額に青い筋を浮かべ、この日カナメの配信を荒らすために集まったプレイヤーのアカウントにDMを送ろうとするギローだったが、リーダー役のアカウントアイコンをタップした瞬間──その画面を見て凍り付いた。



「……凍結……されてる?」



 ──アカウントの凍結。あるいは停止。

 規約などの違反に対し、運営側が行うユーザーの永久退場のこと。

 即ち、B()A()N()──。

 荒らしプレイヤー達のアカウントは軒並み凍結されており、滝のような冷や汗を垂らしながら誰か生き残っていないか確認していたが、しばらくして画面が切り替わる。



『このアカウントは凍結されています』



 自身のアカウントも凍結され、ギローは膝から崩れ落ちる。

 その瞳は揺れ動き、焦点が合っていなかった。



「いや、おかしいだろ……いくらなんでも対応が速すぎる……!」



 リアルの心臓が激しく脈打っていることは、ゲームに反映された冷や汗の量が物語っていた。

 凍結自体は珍しくもなんともない。

 ギロー自身、荒らしという遊びをして何度も経験している。

 だからこそ恐怖していた。

 かつてないほどの対応の速さに。



「ま、まずい……目を付けられてたんだ。逃げねぇと……!」



 震える指先で弧を描き、メニューを開いたギロー。

 今すぐログアウトすればまだ間に合う──そう願いながら。

 だが、しかし。



『ログアウトに失敗しました』



 は?──と、ギローは思わず声が漏れた。

 見たこともないエラーメッセージに、血の気が引いていく。

 フルダイブゲームでログアウトできないということは、仮想世界に魂を幽閉されたと言っていい。

 だからこそ、あってはいけない不具合だ。

 だが実際にギローはログアウトできずにいた。

 何度試しても……何度ログアウトボタンを押そうとも、メッセージログに『ログアウトに失敗しました』とエラーメッセージが蓄積されていくだけだ。



「──見つけた」



 その時──コツン、と薄暗い路地裏から響くブーツの足音が、ギローの背筋を凍りつかせた。



「お前は……夜猫の!?」



 振り返ればそこには、白い髪をした猫の魔女が立っていた。

 柔らかい声色でいつもニコニコ笑っているヒメが、煮えくり返った(はらわた)から溢れそうな怒りに蓋をするように唇を食い締め、鋭い目付きで立っていた。

 しばらくギローを睨み付けていると、キツく結ばれた唇が解け、大きな溜め息を吐き捨てる。



「……()()()()()()



 静かにそう呟き、右手でメニューを開く時の『C』を描く動作とは反対の形で、そして左手で、弧を描く。

 リリン──とプレイヤーのそれとは異なる低いベルの音が木霊し、半透明の板が現れるが、ギローの視界にヒメが操作するパネルは映っていなかった。



「お、お前……何をし────ッ!? ……っ!!」

「お前お前って、煩わしいのでミュートさせてもらいました。まぁ、あなたに聞くことは何もありませんし、別にいいですよね」



 口をパクパクさせたギローは、背負っていた大剣を抜いてヒメに振りかざす。

 しかしここは街中。決闘以外では戦闘禁止のエリアだ。

 当然、どんな攻撃も当たったところでノーリアクション・ノーダメージ。

 ヒメは自分の身体をすり抜けて下の石畳にぶつかった大剣を見下ろすと、それを踏みつける。


 ──刹那、パキキ……と妙な音が響き、ギローの大剣はポリゴン片となって爆散した。



「────ッ!?」



 ギローが驚いたのは、大剣が突然砕け散ったこともそうだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに耳を疑った。

 いや、それだけじゃない。

 昼間だったはずの空がいつの間にか暗い。

 真っ暗……と言うより、真っ黒。

 次第に見えていた建物の外壁や石畳さえも黒く塗り潰されていく。

 音も無く、光も無く──。

 いや、ただひとつ、聞こえた。見えた。



「これは、罰です」



 ヒメは表情を崩さぬまま、杖の先端に付いた宝石をギローの口に()じ込む。

 たとえ嘔吐こうと無理やり押し込み、壁へ追いやる。

 宝石は強く光を放っていた。

 深紅の光は熱を帯び、ギローはその熱さに声にならない悲鳴をあげる。

 やがて顔の前に魔法陣が展開されると、そこでようやくギローは気付いた。

 戦闘が禁止されているはずの街中で、スキルが発動されていることに。



「……と言っても私情混じりなので、ただアカウントを停止するだけでは生温い。少々痛い目を見てもらいますが、安心してくださいね。ここは仮想世界で、作り物ですから」



 ────だから、死にはしませんよ。



「【エクスプロージョン】────」



 解き放たれた爆焔が男を呑み込み、そのHPを全損させる。

 王都の一角で、恐ろしく静かに。

 他のプレイヤーにその爆発音は届かず、魔法陣も、爆発エフェクトさえも見えず、ただひたすらに何事もなくゲームは続く。



「…………ふぅ」



 ヒメが一息吐いたその様子を、屋根の上から一人の男が見守っていた。

 プレイヤーがBANされた瞬間を見届けると屋根から飛び降りてヒメの横に立つ。

 飛び降りた時に黒いフードが脱げ、短い黒髪が晒されていた。

 その瞳は銀色をしていて、冬の夜空の星と似た輝きをしている。



「初仕事お疲れさま~、監視ありがとね~!」



 ヒメがそう声を掛けると、男は銀色の瞳でその屈託のない笑顔を見つめた。

 静かに深呼吸をすると、目を逸らす。



「……まぁ、寝転部コユが来てたのは予想外だったが」

「みーんな倒しちゃったんだよね? わたしも見たかったなぁ~、コユちゃんのかっこいいところ」

「そう言うなら見てりゃよかったんだ」

「あなたの仕事を取っちゃダメでしょ~。……そうだ、目の調子はどうかな~?」



 銀色の瞳を覗き込んでくるヒメに、男は目を逸らすのを我慢して睨みつけた。



「おかげさまで、景色以外もよぉく見えるこの目にも慣れてきたところだ。《リリーアイ》って変な名前は気に入らないけどな」


 

 リリーアイ──本名、影内(かげうち)透真(とうま)──少し前まではエルドという名前でログインしていた盲目の青年だ。

 現在は姫園ユリの付き人として働き、ユリに貰った新しい目と共にDDOへ再ログインしていた。

 ユリと手となり足となり、何よりカナメに仇なす敵を監視する目となり暗躍する者。

 故に、コードネーム:リリーアイ。



「無名でもよかったけど、なんて呼べばいいかわかんないからね~」

「呼ばれない方が嬉しいな」

「あはは~、ダメだよ、まだまだ働いてもらわなきゃ。カナメちゃんを守って、敵は消す。それがあなたの仕事。今日はわたしも手伝ったけど、次からはよろしくね」

「……ああ」



 リリーアイはフードを被り直して、その場から立ち去る。

 そして、思い返す。

『手伝った』とは、きっと(てい)のいい言い訳に過ぎないのだろう。

 邪魔をする者に怒りをぶつけたかったのか、あるいは自分の手で罰を下したかったのか。

 そして、それだけ暴れられるということは恐らく、アカウントを停止されたプレイヤー達はヒメのことをキレイさっぱり忘れている。

《フルダイバーズ》に記憶を消す機能があるのかは教えられていないが、ヒメの大胆さを見るに可能なのではないか──と、そこまで考えてキツく瞼を閉じる。



(うちの上司、魔王かよ……)



 ──何はどうあれ、眼球の恩は返すつもりだ。

 リリーアイの姿が透け始め、やがて透明になって完全に消える。

 そうして、再び監視の目を光らせながら各地を飛び回るのだった。


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