#53. 晦冥巨剣をぶちかませ!
六の黒剣が再び重なり大盾に戻る頃には、リーダーの男はHPを全損させ、光となって砕け散っていた。
これでパーティー全体の戦意を削げたらいいけど、あの掲示板からしてここに来たのは寄せ集めだろうし……。
「あ、え? ね、寝転部コユ!? なんでここに!?」
「理由はあなたと同じよ。コユがカバーするから好きに暴れちゃいなさい」
「……お、押忍っ!」
戸惑いながらも剣を構えた黒眼覇王は、リーダーを失って混乱状態の荒らしプレイヤー達へ攻撃を再開する。
1人、2人、次々と頭数を減らしていくと流石の彼らも焦り、反撃してきた。
黒眼覇王の背後を取った一人のプレイヤーが剣を振り上げて──。
「はい、残念でした」
「クソッ! この盾邪魔くせぇな!」
「落ち着け、そいつの防御力は盾だけだ。本体を攻撃しろ!」
そう指示を飛ばしたのは、大剣使い──ギローだ。
かなりPK慣れしてる……けど、私の盾はひとつじゃない。
「……いやっ、ギローさん、ダメですッ!」
「クッソこの、筋力バカどもがッ!」
浮かび上がるもうひとつの黒盾で自分を守る。
すると、もう一人の筋力バカこと黒眼覇王が背中合わせになってくる。
息が上がっているようで、肩を上下させていた。
いくら高火力を持ってるとはいえ、やっぱりこの数を相手にするのは骨が折れるらしい。
「コユちゃ……さん、俺……いま凄い嬉しいです」
「へっ? ま、まぁコユと共闘できる機会なんてそう来ないものね!」
「それもあるんですけど……あなたが誰かと一緒にゲームをしてるってことが、嬉しいんです。親みたいなこと言っちゃいますけど、凄く安心した」
「あ、あなた変なこと言うのね……」
「そうですか? 《寝転部コユ》の古参は、だいたいそう思ってると思いますよ」
私の古参ファン……か。
ファンと言われて嬉しくないわけじゃない。
自分の性格はよくわかってる。
「ありがとう……だけど」
──だけど、DDOよりも前から観ている視聴者なら……私は頭を下げなきゃいけない。
あの時、配信を台無しにしてしまってごめんなさい、と。
「本当に嬉しいんです。コラボも、剣を使うことも好きだったのに、自分に嘘ついてソロで盾持って……挙句の果てには迷走して、あん時はマジで見てられなかった」
「そ、それ本人の前で言う!?」
「言いますよ、ずっと言いたかったんですよ! らしくねぇって! 誰かと遊ぶの好きなくせに、友達欲しいくせに、自分のせいでもない昔のこと引きずってソロなんて」
自覚はしてるけど、改めて言われるとなんだか心の古傷が痛む。
昔の私は、どうかしていたんだ。
「……そうね。ゲームを楽しめてなかった。けどカナメがそれを壊してくれたのよ。あの子が勇気を振り絞ってくれたから、今の私が居る」
「──で、そのカナメさんを荒らそうとしてる輩が居るわけで」
「えぇ、ほんとムカつくったらありゃしないわ」
また私の邪魔をするのか。
そんな怒りが湧いてくる。
思い出した楽しさを、友達を、もう手離したくない。
邪魔なんかさせてたまるか。
私達の『楽しい』は、誰にも邪魔させない。
「──あぁ、こう頭にくると、思いっきり吹っ飛ばしてスッキリしたくなるわね」
ふたつの大盾。
それらを分離、変形させれば12本もの剣となって縦横無尽に飛び回り、敵を斬り刻む。
けど──それじゃこの嫌な気分は晴れない。
晦冥の付属スキル【変形】の効果は分離と変形、スキル説明欄にはそれだけしか載っていない。
つまり、12本の剣以外の形にもできるんじゃないか──? と。
「【変形】……ッ!」
私好みに、変えちゃえばいい。
面倒なこと全部、吹っ飛ばせるくらいに大きく!
そんな想いに呼応するかのように、左右の大盾が形を変える。
形作るのは12本の剣ではなく、たったひとつ。
つまり、大剣だ。
「デッ……けぇ……!」
「大盾ふたつ、流石の大きさね」
晦冥の大剣モード。
黒眼覇王も見上げるほどの大きさを誇り……むしろ巨剣と呼ぶに相応しい。
とてもプレイヤーが振れるような大きさと形ではないけど、そんなことは関係ない。
いくら形が変わろうが、これも浮遊するのだから。
「一掃してやるわ!」
重々しく浮かび上がる晦冥巨剣。
MPがみるみる削られていくけど、まだ余裕はある。
なら、いつも通り────!
「──ぶちかますッ! 【加速】ッ!!!」
勢いよく手を振り下ろすと、それに反応して巨剣も振り下ろされる。
悲鳴が巻き起こるなか、風を切り、砂嵐を掻き分けるようにして、刃は大地を抉った。
衝撃波で新たな砂嵐が吹き荒れるほどの威力を見せた巨剣。
脇で見ていた黒眼覇王も、ぽかんと口を開けて呆けている。
「す、すげぇ、一撃でほとんど倒しちまった」
「あなたも一撃必殺でしょ?」
「いや……範囲が違うと言いますか……」
やがて砂嵐が落ち着くと、砂の更地に人影はひとつも残っていなかった。
「今ので全滅はしてなかったと思うけど……」
「砂に埋まったんじゃないですかね」
「あー……」
「……どうします? 掘り起こして問いただしましょうか」
顔だけ出して殴るのもアリね…………いや。
「どうせすぐログアウトされるわ。運営に報告して、あとは放置でいいわよ」
さっきの一撃でだいぶスッキリしたし、流石に死体蹴り……殴りなんて撮られでもしたら炎上しそうだ。
「じゃあ、あとは俺やっとくんで、カナメさんのところ行ってあげてください。あ、俺のことは秘密にしといてくださいよ? 推しに認知されるのヤなんで」
「……ん? ちょっと、コユに認知されるのはいいわけ?」
「コユさんは孫みたいなもんだからいいんですよ」
「孫って……」
……孫?
そういえば、メン限配信の時……。
「あの時の涙腺おじさん……確かユーザー名は、クロメ……」
「おっと、それ以上はいけない」
「……そうね。詮索はしないでおくわ」
ここに居るのは黒騎士、黒眼覇王だ。
私は大盾に足を揃えて座ると、共に戦ったその騎士を見下ろす。
「とにかく、今日はありがと。でもファンがアンチと争ってるのなんて一番見たくないんだから、ほどほどにしておきなさいよ」
「き、肝に銘じておきます!」
「ん、よろしい。じゃあね」
敬礼ポーズをした黒眼覇王に手を振って、私は晴れた砂漠の空を飛ぶ。
カナメの配信まで、もうすぐだ。




