#51. クロ・クロ・クロ
サード・ダンジョン手前の大砂漠。
そこにある砂にまみれた廃墟の街が、プレイヤーの拠点となる《イガンマ旧市街》だ。
「ここに来るのも久しぶりね」
最前線攻略そっちのけでカナメやユメに付きっきりだったコユは、もはや懐かしさすら感じる景色を静かに捉えていた。
イガンマはかつてサード・ダンジョンのボスによって滅ぼされた街……という設定で、NPCの姿はほとんどなく、雑貨屋の代わりである商人NPCが何人か居る程度。
今までの街と比べると物静かだが、外の大砂漠には経験値量が多いサソリ型やヘビ型のモンスターが多く、狩場に最適だからと出入りするプレイヤーはそこそこ居た。
今日、コユがたった一人でここへ来たのには訳がある。
「カナメ攻略会議……考えることはみんな同じなのね」
そう、先日の一件からカナメへのリベンジに燃えているコユは、リベンジマッチに向けてカナメの攻略法を考えていたある時『カナメの攻略会議スレ』を見つけた。
スレッドの作成者の名前はかなりヘンだったが、内容は真面目。
熟練者、有識者たちが知恵を出し合い、カナメに有効かもしれないスキル構成や戦術がスレの中でまとまりつつあった。
強者に勝ちたくなるのはゲーマーの性──と、コユもそれを参考に攻略法を練っていたのだが。
今日、DDO内で集まり、本格的に話し合おうという招集スレが作られたのだ。
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2047/04/16(火) 02:04
作成者:匿名
【仲間募集】カナメ討伐作戦【攻略会議】
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1:1191333504
ターゲットは最近ギルドデュエルで優勝した配信者。
ちょうど攻略スレ立ってたからそれを参考にする。
18時に《巨人の腰掛け岩》で待つ。
︙
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(作成者は前のスレと全然違う人っぽいけど……)
カナメ攻略のヒントを得られるなら、行ってみる価値はある。
「【起動】……!」
時刻は17時。
まだ待ち合わせ時間には早いが、コユを乗せた黒い大盾──《機械仕掛けの晦冥》はホバーボードのように飛んでいった。
目指すのは、大砂漠の向こうに見える鉱山だ。
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そこは砂漠を越え、荒地を越えた先。
鉱山入口、《巨人の腰掛け岩》──。
大岩周辺は鉱石採掘のために露天掘りされ、階段状の大穴が空いていた。
名前付きのエリアのため、もちろんここへファストトラベルすることもできる。
だが、コユはその楽を惜み、近くの岩陰に身を潜めた。
(作成者は匿名なのに、この数字の名前……怪しさしかないわ)
数字に何か意味がある……と考えるのは、深読みしすぎだろうか。
コユは自分の警戒心を一瞬疑うが、プレイヤーの足音が聞こえたので、ひとまず警戒心を呼び戻す。
「んー、まだ俺達だけか。リーダー、何人くらい釣れたよ」
「馬鹿。今日は待ち伏せPKじゃねぇよ」
「え? そーなん?」
待ち伏せPK──それを聞いてコユは《キャラバン》を疑うが、あのギルドはエルドが忽然と姿を消したことで自然消滅した。
だが《キャラバン》の集団PKが目立っていただけで、他にもPK専門ギルドはある。
「うぃーっす、来てやったぜ~」
コユが様子を窺っていると、ゾロゾロと数十人のプレイヤーを引き連れた大柄な男が、なんだか重たそうにのっしのっしと歩いてきた。
あの重そうな大剣を背負っているせいか──。
「おおっ! ギローさんじゃないっすか! え、ってことは今回って……」
「あぁ、配信中のライバー襲ってめちゃくちゃにしてやろうぜ~ってな? 今日はなかなか大物だからなぁ、強い奴は多い方がいい」
「カナメって奴だろ? 腕が鳴るねぇ」
「お、他にも来たぞ。さすが有名人は敵が多いな」
コユは息を殺しながら奥歯を噛み締めた。
つまるところこのプレイヤー達は、カナメの配信を荒らすつもりなのだ。
あの数字名は仲間内で共有されている暗号のようなものだったのだろう。
(カナメが楽しくやってるのに、それを邪魔しようって……?)
配信者としてはまだまだひよっ子のカナメだ。
その勢いを殺そうとする輩は許せない──いや、許す許さないの問題ではなく、これはもっと単純な感情で。
「──ムカつくったらありゃしないわ」
低く唸るように呟いた。
だが、敵はおよそ20人ほど集まっている。
そしてここに来ているということは、全員セカンド・ダンジョンを攻略していることになる。
レベル50以上であることは間違いない。
ギルドデュエルのようなバフがない今、全員を相手にするのはさしものコユでも厳しいだろう。
今は様子を窺い、隙を見てカナメに連絡──と、そこまで考えたところで、荒らしパーティーに新たに加わったメンバーの一人がコホンと咳払いをした。
「今日はよろしく頼む。内容を確認させてほしいんだが、ギルドデュエル優勝者……エヌフェリのカナメさんの配信にお邪魔して、討伐する──ってことで、間違いはないな?」
そう聞いたのは、漆黒の鎧を全身に纏った騎士だ。
武器は片手直剣──武器も防具も高レアリティであることは、ひと目でわかった。
ただ、装備のせいかはわからないが、コユの目にはその騎士が他のプレイヤーとは違う雰囲気を纏っているように見えた。
「あぁ、違いないぜ。18時過ぎからカナメのソロ配信が告知されている。隙を見て全員で襲うんだ」
「そうか」
「そんなに心配すんなよ黒騎士ぃ~、相手がどんなに高火力スキルを使おうと、一気に決めちまえばいい話だ」
「あぁ、それは同意だ」
「な? がんばろーぜ兄弟。あぁ、そういや名前は?」
黒騎士の肩に腕を回し、フレンドリーに接する荒らしのリーダー。
すると、黒騎士はその腕を掴み上げ──刹那、メキメキと篭手が砕ける音がした。
「わ、腕力だけで防具破壊──どれだけ筋力上げてるのよ……!?」
黒騎士が裏切ったこともそうだが、何よりその圧倒的なパワーにコユは驚かざるを得なかった。
あのリーダーの防具だって安物ではないはずだ。
それを一握りで砕いた。
「て、テメェ何しやがるッ!」
「《黒眼覇王》──それが俺のPNだ」
「……っ! 攻略スレに居た奴かッ!」
「不穏なスレがあったもんだから、カナメさんの配信の前に様子を見に来てみれば……ビンゴ。ロクでなしどもの集会所だったな」
妖しく光る眼光が兜から覗く。
鎧と同じ黒い剣がゆっくりと引き抜かれ、金属音が擦れる音と共に彼の鎧から青い炎が燃え滾る。
「……は、はは! いや、脅かしても無駄だ。こっちは20人も居る! 戦力差を見誤ったなぁ!」
「そんなことはどーでもいいんだ。悪いなクソ野郎ども、この場は勝たせてもらうぜ」
黒い切っ先を悪しき敵に向け、黒騎士はそう豪語するのだった。




