#48. 焦燥、春の疾風
◇更新遅滞理由:MHワイルズが楽しすぎる。
すみませんでしたぁぁぁ!!!!!!!
ストーリークリアしました面白かったです!!!!((殴
青い空。
蒼い草木。
暖かく穏やかな風。
心地よいまどろみを覚えてしまう陽気な春。
そして、眠気を覚ます甲高いホイッスルの音が校庭に響いた。
そう、皆さんご存知『体力テスト』である。
「去年も一昨年もやったのに、今年もまた走るのかぁ……」
けれどもやらなきゃいけないので、面倒だけど走ります。
種目は持久走。
校庭という代わり映えしない景色をぐるぐると眺めながら走り続けるあれだ。
恐らく『学生に聞いてみた!一番ダルい体力テストランキング』でも企画すれば、1位2位を争う種目だろうな。
ちなみに持久走と争っているのはシャトルラン。
「まぁまぁ、一緒にがんばろ~♪」
「それ置いてくヤツじゃん!」
綺麗なフォームで私の横を走るヒメは、さすがに走る時は髪が邪魔なのか、天の川を思わせる艶やかな黒髪をポニーテールにしていた。
しかしこのお嬢様、随分と余裕そうな顔をしていらっしゃる。
「というかヒメ、そこまで運動得意じゃないでしょ」
「フッフッフ……あまいよユメちゃん。この日のために、わたしは苦しいトレーニングを重ねてきたのです!」
「ほう、聞かせてもらいましょうか?」
「朝6時に起きてジョギング! 部屋にもランニングマシンを置いたんよ~」
「えらっ。まさか克服したと言うのか……運動音痴を……」
去年なんて50メートル走でさえ息が上がってたのに。
でもこの完璧なランニングフォームを見れば納得する。
頭を真っ直ぐに、体幹も維持してて肩の力も程よく抜けてる……ヒメが走るたび揺れる胸元は相変わらずだ。
「今日のわたしを見ていれば自ずと理解できるよ……!」
そんなこと言わなくてもいつも見てるよ。
……なんて言ったら、さすがに引かれてしまうだろうか。
まぁ、奔放なヒメに限ってそれはないとわかってるけど。
■■■
「ぜぇぇ~っ! はぁぁ~っ!!」
「バテバテじゃん!」
途中からヒメが視界横からフェードアウトしていたから察していたけど、フォームは綺麗になって心做しか足も速くなったとは言え、体力的にはまだまだのようだ。
とりあえず汗だくのヒメにタオルと水筒を渡し、休むよう促す。
「ふ、ふふっ……実戦は、そう上手くいかないね……っ」
「まあ、前より体力は付いたんじゃない? 私のペースに結構付いて来れたじゃん」
「そ、そうかな……! えへへ~、そうだといいなぁ」
「ゆくゆくは追い越されちゃうかなぁ」
「……んーん。追い越さないよ~。ただユメちゃんの隣を走りたかっただけだもん」
さも、そうするのが当然と言うかのように、ヒメは汗を拭いながら言った。
けれど、その言葉は嬉しく思うのと同時に、私にひとつの焦りを与えた。
私はまだ、ヒメの隣に立つ資格はないんじゃないか。
この子の気持ちを独り占めできるほど、私は格好良い人間じゃないのに……。
──その日の春風は少し強くて、私は思わず目を細めた。
■■■
そして、焦燥を感じているのはユメだけではなかった。
PCモニターと睨めっこするのは、VTuber《寝転部コユ》こと、春日部恋雪だ。
自分のチャンネル画面を開いて、登録者数と視聴回数をじっと睨んで……やがてゆっくりと息を吐いた。
「……追い越されちゃったわね」
13万人だった寝転部コユのチャンネル登録者数はギルドデュエルで知名度を上げた現在、18万人を超えている。
それは決して少なくない数字で、5万人も増えたのは喜ばしいことだ。
しかし、恋雪は画面をカナメのチャンネルに移して自分のチャンネル登録者数と見比べていた。
カナメのチャンネル登録者数は19万人。
20万人まで秒読みと言ったところ。
配信者として先輩のはずが、後輩に登録者数で負けてしまったのだ。
(ビギナーズラック、なんて言わないわよ。あなたの実力に負けた……だったら、寝転部コユもレベルアップすればいい。負けないわよ、カナメ……)
これまで、隠しダンジョンの攻略やギルドデュエル優勝とフルライブのユーザーから注目を集めているカナメ。
姫園ユリが密かに後ろ盾を構えているから、というのも大きな理由だが、それだけで相手の心は動かない。
20万人というファンを獲得しているのは、カナメの「ヒメの隣に立っても恥ずかしくない人間になりたい」というどこか必死な努力あってこそだ。
「……ライバルに勝つには、攻略法を探るにはまず観察、よね……あとは、カナメだけマークしてても仕方ない。他の子もチェックしないと」
キーを叩いて有名な配信者を検索し、片っ端からアーカイブをチェックし始める恋雪。
──しかし数分後、椅子にもたれかかって、凝り固まった身体をうんと伸ばす。
ずっと同じ体勢、同じ景色、小さな身体に蓄積している疲労感。
思えば朝からずっと作業しっぱなしだと、時計の長針が昼を過ぎているのを見て気付く。
「……たまには外で作業しようかしら」
こういう時こそ気分転換も大切だろうと、恋雪はデスクトップパソコンの電源を落とす。
ゲーミングチェアを180度回転させると、床に散乱した服が目に入った。
「さ、さすがにオシャレしていくか……」
クローゼットに仕舞ってある外出用の小綺麗なワンピースを選び、髪も軽く整えて、メイクは……簡単に。
そうして身支度を済ませた恋雪は、滅多に外へ出ないくせに「いつか優雅にカフェでお茶しながら作業するんだ」と意気込んで買ったまま、結局家の中にしか持ち運んでいなかったノートパソコンをリュックに入れる。
「よし! 準備おーけー…………」
リュックを背負って鏡の前に立つと……。
なんということでしょう。
そこには可愛らしい小学生くらいの女の子が!
リュックサックが赤いせいで、ランドセル感が増してより小学生に見える。
「…………まぁ、いいか」
どう足掻いても子どもっぽく見えてしまうことはわかりきっていたので、恋雪は早々に諦めた。
「それより、どこでお茶しようかしら……というかこの辺りにカフェってあったっけ……ない……うん、ないわね。下手したら隣町まで行くことに……い、いや、せっかくここまで準備したんだから! 今日は行けるとこまで行ってやるわ!」
恋雪は拳を上げて自身を鼓舞し、意を決して部屋の扉を開けるのだった。




