#47. 皇蛇ユルグ攻略戦(知らないモーション使ってくるのズルくないですかね?)
《皇蛇ユルグ》はその白鱗を月光に煌めかせながら雷鳴に似た咆哮を轟かせる。
加えて、巨体が動き回るたびに波打つ水面──これが厄介だ。
部屋全体を浸し、いつの間にか膝下まで水かさが増していて、ユルグが起こした波に当たると確定で湿潤状態になってしまう。
「その落雷、ひとつでも落ちたら水張った場所は全部ビリビリ来るから気を付けなさいよー」
「水張ってない場所なんてないんだよなぁ! 空中以外!」
浮かぶ大盾の上でユルグの注意を引くコユは水に触れることないもんなぁ。
地上のこっちは、水が重くて動きにくい。
30秒の【限界加速】がなきゃ接近するのもままならないな。
だからこそ、瞬殺を狙う。
私はその白い巨体目掛けて跳び上がり、チェーンソーを振りかざした。
「【ギガントバスター】!」
コユがタゲ取りをしてくれていたおかげで、私は易々とユルグの弱点部位である首元の青い宝石を削る。
煌めく青い粉末とゴルトコインが飛び散るなか、ユルグの最大5本のHPゲージは、残り3本に。
「──【エクスプロージョン】っ!」
私が離脱した瞬間に、ヒメが爆裂魔法で畳み掛ける。
威力はいつもより控えめだけど、ユルグのHPを削るのには充分だった。
残り2本、次の一撃で削り切る──。
「コォシュゥ~……ッ」
あと少し、余裕でクリアできる。
そう思った時──ステンドグラスが輝き、水面が虹色に輝き出した。
「第二形態よ! 今度の落雷は自動追尾弾になるから注意して!」
「マジですか」
「なるべく魔法陣は削るけど、数も増えるから私ひとりじゃ捌き切れないかも……」
「あらユヅキ、あなた一人にいい格好はさせないわよ」
もう一枚の盾を分離変形させ、六の剣にしたコユは自身の周囲にそれらを漂わせて臨戦態勢だ。
「なるほど避雷針! コユあったまイイ~!」
「コユが何回このヘビをシバいてると思ってるの!」
さすがサード・ダンジョンをクリアできずにヤケクソでユルグをぶちのめし続けたコユさんだ。実に頼もしい。
ユヅキさんの魔法陣破壊と合わせて、落雷はもう怖くない。
あとはユルグ自身の体当たり攻撃や尻尾薙ぎ払いに注意すれば──……え?
「……ねぇ、落雷って……あれのこと?」
青天井……いや黒天井の上空──月が尚も輝いているなか、もうひとつ、光の塊が浮かんでいた。
それは赤く発光している光の玉で、周囲は稲妻が迸る。
「なに、あれ……あんなの見たことないわよ……?!」
「わ、私も……初めて見ました」
ユルグ攻略経験者のコユとユヅキさんが見たことないなんて……じゃあ雷玉は──。
「仕様変更ですか運営さぁん!!」
私の叫びに応えるように、赤雷玉は落ちてきて。
「ゴングロロロロッッ!!!」
ユルグの咆哮と共に、破裂。
無数の赤雷が飛び交う。
魔法陣が無いからユヅキさんのスキルが使えない。
コユがいくつか赤雷を打ち落としてるけど、それ以上に弾数が多すぎる。
「避けきれないよ、これ!」
「あっ、カナメちゃん! それ避けたら……!」
「へ!?」
ヒメの制止も間に合わず、私は赤雷を回避。
標的に避けられた赤雷はそのまま地面へ……いや、水面に落ちる。
地上にいた私、ヒメ、ユヅキさんは感電し、『麻痺』の状態異常に陥った。
「うぐっ……しま、っ……た」
動けなくなった私達を睨む大蛇、ユルグ。
よく見れば、首元の青い宝石も赤く輝いている。
「こんなの、聞いてないんだけど……っ」
ダンジョンボスの仕様変更……コユとユヅキさんも知らなかったとなるとアップデートのタイミングは最近。
恐らく、以前のギルドデュエル後に行われたアップデートだ。
ただでさえ攻略が遅れ気味だって言うのにっ……早く最前線に行って、視聴者さんに新しい景色を見せなきゃいけないのに……!
「きゃっ……!?」
「っ! コユ!」
無数の赤雷を捌き切れず、撃ち落とされたコユも水に落ち、麻痺。
赤雷が落ち続けているせいで私達のHPはじわりじわりと減少していた。
とっくに30秒は過ぎてる。【限界加速】はしばらく使えない。
どうする。このままずっと麻痺状態じゃ攻撃できない。
状態異常の治療ポーションを飲んでも、赤雷が落ち続けてる今、回復したとしてもまた痺れるだけだ。
『全体攻撃で継続麻痺ダメージとか鬼畜すぎない??』
『昨日アプデされたっぽい』
「し、知らないモーション使ってくるのはズルくないかなぁっ!?」
『アプデ内容確認してきたけど、一部モンスターがプレイヤーの実力に応じて難易度が変化するようになったらしい』
『あー、コユ氏とユヅキ氏はレベル50以上だもんな』
『なるほど。適正レベル超えてるから能力底上げされてるのか』
『それにしたって鬼畜すぎじゃない?』
『なんか、攻略法あるんだろ? そうなんだろ?』
「攻略法……赤雷を止めるっ、方法……!」
なんかないか……。
あぁっ、もう、麻痺が厄介すぎる!
「とにかく麻痺をなんとかしないと……でも水が邪魔だし……! いや……」
水が邪魔なら、無くせば良くない?
「そうだ……排水すれば……!」
そうだ。海のステンドグラスから溢れ続けるこの水がそもそもの原因。
排水してしまえば麻痺を回復して攻撃するタイミングを作れる……なら。
「コユ、盾は動く?」
「いけるわ!」
発動しっぱなしの浮遊盾、これがあれば……いける。
そして肝心の排水方法は──。
「コユはヒメを空へ! ヒメ、この神殿ぶっ壊しちゃえ!!」
「なるほど~! カナメちゃん冴えてる~!」
「ほらヒメ、やるわよ!」
「は~い!」
すぐさまヒメを拾い上げた大盾は急浮上。
飛び交う赤雷の渦を避け、神殿の外へ──。
■■■
──満点の星空と広い砂丘を横目に、ヒメは杖を構えた。
「──夜を焼く竜の焔、霞む星。我が新星爆発を見よ。解き放て……!」
刹那、杖から零れた星のしずくが神殿の水面に落ち、波紋を作ったかと思えば閃光する。
衝撃波が神殿を襲い、美しいステンドグラスは無惨に砕け散り、神殿の大扉も大破。
溜まった水が外へと流れ出ていく。
「決めるよ、ユヅキさん!」
「【大神鳴】ッ!」
排水されれば広範囲感電はクリア。
状態異常回復ポーションで麻痺を治し、カナメとユヅキが皇蛇へ急接近。
残っている赤雷はコユが引き受ける。
「──【神雷】ッ!」
「──【ギガントバスター】ッ!」
クロスするライトエフェクトが《皇蛇ユルグ》の宝石ガラスのように砕き、皇蛇は月に向かって揺れるような断末魔をあげながら巨体を伸ばし──脱力。
白の巨体は床に倒れ、光り輝くポリゴン片が散った。
『おおおおおおーー!!!』
『クリアーーー!!!』
『事前にステンドグラス壊せば水没防げるのか』
『相変わらず凄い爆発力』
『作戦勝ちぃ!!』
『さすがのアタッカーパーティー』
『【¥3,000】Congratulations!!』
祝福コメントが流れていくのを見て、カナメはホッと胸を撫で下ろす。
まさかのアップデートによるモンスターのモーション変更で、経験者であるコユとユヅキも知らない初見殺しに肝を冷やしたが、なんとか攻略に成功した。
(勝てたけど……この調子で大丈夫かな……)
かなり危うい戦闘になって一抹の不安を覚えるカナメ。
しかし、ひとまず今はこの勝利を喜ぼうと、不安を隅に追いやるのだった。




