#43. ラストアタック(限界加速は止められない)
毒の茨から脱出するべく、私はチェーンソーの柄を握り込む。
さあ……勝負だ。
「引きちぎる……っ! 【ダストワール】!」
スキルを発動し、強引に攻撃モーションへ移行。
茨がちぎれて解放された私は、チェーンソーを薙ぎ払ってヒメとコユの茨も断ち斬る。
そして【ダストワール】の範囲攻撃でヒメからテンコさんが離れた瞬間、コユは大盾を投げ飛ばした。
「──【起動】!」
「しまっ……!」
投げたことで【加速】を使わずともかなりのスピードで飛行し、テンコさんの腹部へ突撃。
そのまま旋回して薙ぎ倒し、ヒメの傍に静止した。
「強行突破で来るか。だがカナメのステータスであればそれが最適解だろう」
「分析してる場合じゃないでしょ、せんせぇ!」
「分析ではない。予測済みの事象だよ」
そりゃ私にできることなんて限られてる。
けど、そう何度も相手の思惑通りになってたまるか。
「馬鹿正直に突っ込んでくるだけか。無謀だな」
「さて、どうでしょうっ!」
狙うはリオさんじゃなく、地面。
【ギガントバスター】で土を抉ってさらに隙を作──。
「【火竜砲】!」
「あっつ!?」
空から落ちてくる炎の塊。
既のところで避けられたけど、地面に直撃した炎が破裂するように飛び散って、少しだけダメージを受けてしまった。
痛いとかはない……けど何故か熱そうなものに触れると思わず「あっつ」と言ってしまう。ヤケドするほど熱いわけではないはずなのに。
「忘れてたよ……ツバサ、その見た目で遠距離攻撃できるんだったね」
依然として空中に立つ赤い騎士を見上げる。
【火竜砲】……あのメカメカしいと言うか、銃身と刃が一体になったような片手直剣から炎が出ているのを見るに、あの剣は遠近両用……どんな相手でも対応できるうえに、空を歩くなんて言うスキルのせいで【火竜砲】の脅威度が増してる。
「ヒメちゃんの攻撃見てさ、あたしが考えた戦術と同じだーって嬉しくなったよ!」
「ツバサも爆発は芸術タイプか……それにしても、空飛べるなんて聞いてないけどー?」
【エクスプロージョン】ほどではないとはいえ、単体火力としては申し分ない。
それに飛行による高低差のアドバンテージがプラス……竜翼とか火竜砲とか、本当にドラゴンを相手にしてるみたいだ。
「残念だけど飛んでるわけじゃないんだよー。【スカイ・ウォーク】ってスキルでね? 透明な足場の上を歩いてるってだけでさぁー」
心底残念そうに言いながら、ツバサはコツコツと靴を鳴らしてみせる。
「そんなに飛びたいならコユに頼んで盾に乗せもらったら?」
「魅力的だけど、あたしは自分の力で空を飛びたいよ」
「ふーん、こんな風に?」
私はその場で跳躍し、ツバサへ斬り掛かった。
喋ってる途中で悪いかなとも思ったけれど、一方向へジャンプするだけの私に対して、ツバサは上にも横にも飛び退けられる。
下からの斬り上げは簡単に避けられ、その隙にツバサの赤い剣が脇腹を突き刺した。
「それじゃ届かないよっ!」
「だろうね! でもあっちは届く!」
その瞬間、ツバサの背に黒い盾が激突した。
「っ!? コユちゃんの……!」
ツバサはその視線を地上にいるコユへ向けるが、ヒメの傍に盾は浮遊したままだ。
「2枚目の盾……っ! コユちゃん、STRどれだけ上げてるの!?」
DDOにおいて片手武器はもう片方の手に装備──つまり二刀流になることもできる。
その場合、特定のステータスパラメータも2倍必要になってくる。
《機械仕掛けの晦冥》は大盾でありながら【起動】により浮遊することから両手装備が可能で、STR要求値は120。
つまりSTRは240以上必要になるけど、晦冥専用の極振り型であるコユのステータスはその壁をクリアしていた。
「だがMP消費もそれだけ激しい。長くは持たないはずだ! 動き回りながら攻撃を続けろ!」
「うん、長い時間稼ぎは必要ないからね~♪」
「────ッ! 【精霊の加護】!」
大盾から逃げ惑うツバサに指示を飛ばしたリオさんは、もう1枚──黒い剣に跨って接近していたヒメに向けて半透明のバリアを展開。
しかし、ヒメが選んだ攻撃は杖のフルスイングだ。
バリアに杖がぶつかるとバチッと稲妻が迸るような衝撃が走る。
その瞬間にヒメは笑みを浮かべた。悪い顔だなぁ。
「【エクスプロージョン】!」
「なっ!?」
直後、杖の宝石から焔が噴き出て爆発した。
任意発動型の防御スキルは攻撃を一度だけ防ぐものが多い。
タリスマンカテゴリの防御スキル【精霊の加護】も、魔法の長杖によるフルスイングというなんとも貧弱な物理攻撃から主人を守って役目を終えた。
そこへ、テンコさんに口を塞がれながらも隙を突いて発動していた【詠唱短縮】が功を奏す。
火力は下がるが、【エクスプロージョン】を無詠唱で発動できる。
至近距離の小規模爆発をまともにくらったリオさんは、黒煙から顔を出すとフラついて、ぺたんと座り込んだ。
ダボッと重たそうなローブが焼け焦げてプスプスと煙が立っているのを見るに、小規模ながらかなりのダメージを受けたようだ。
「な、なぜ……テンコ達は何をして……」
コユの大盾で薙ぎ倒されたとはいえ即死はしていないはずだと、リオさんはコユとヒメの近くに居たはずのテンコさんの方へ目をやる。
が、そこに彼女達の姿はなく、人魂がふよふよと浮かんでいるばかりだった。
その付近には5枚の板……いや、黒い剣が浮遊していた。
「えぇーっ!? うっそー!?」
「剣、だと……!?」
「【変形】……っ! これがラストよ!」
MPがゼロになり、【変形】の効果が終了。ツバサを追っていた大盾も力を失い落下していった。
つい先程、無詠唱【エクスプロージョン】を撃ち放っていたヒメは、六剣のうちの一本にしがみついてリオさんに接近したのだ。
接近は一瞬だったし、コユの盾が分離変形するのはツバサ達には見せていなかったから通じた不意打ち……残すは残量HPが少ないリオさんと、空にいるツバサのふたりだけだ。
「判断ミスだったな……だが一方的にやられては、面目が立たない……! 【テレポート】!」
リオさんは首飾りの前に手をかざすと──消えた。
透明化じゃない。テレポート……瞬間移動か!
私の後ろに突然現れたのもきっとあのスキルだ。
MP切れのコユとヒメの背後に瞬間移動したリオさんは、さらにスキルを発動。
魔法陣が現れてコユは咄嗟に大盾を構えるが、魔法陣から生えてきた茨は曲線を描いてコユ自身を狙い、その体を貫く。
けど、これっぽっちも悔しくなさそうで。
真っ直ぐに私を見て、笑った。
「あとは、任せたわ……っ!」
コユの体がポリゴン体となり、光となって爆散する。
「【爆裂属性付与魔法】……ッ!」
その光の爆散を掻い潜り、自身の杖に属性エンチャントを施したヒメ。
リオさん目掛けて杖を振りかぶり──爆発。
「ぅ、ぐ……!」
「ははっ……お互い遠距離職のくせに、ここまで接近して共倒れとはな」
そう呟いたリオさんの茨はヒメのお腹を貫いていた。
けれど爆発ダメージは受けているので、リオさんのHPはゼロになり、ポリゴン体となって爆散する。
ヒメも直前の毒ダメージでHPが削られ、茨の刺突が決定打となりHPを全損して──。
「……カナメちゃんっ! 絶対勝とうね!」
リオさんと相討ちに持っていったヒメはそう言って微笑んだ。
直後、光が爆散して……プリズムの破片が散らばる。
──光が消え、残ったヒメとコユの人魂が、私を鼓舞するかのようにその炎を大きく揺らめかせた。
「……うん。勝つよ、ふたりとも」
──おかげで、120秒の時間稼ぎは成功した。
「タイマン勝負になったね、カナメちゃん」
「そうだね……でも決着は一瞬だよ」
空中で立ち続けるツバサは銃剣を突き出す。
対する私はコインを1枚取り出して、弾き飛ばした。
「【コイントス】……」
キィィ──ン……と金属の綺麗な高音を静かに響かせながら、金色のコインは空を舞う。
それは一転、二転とくるくる回り、重力に従って乾いた地面に落ち、さらに一転、跳ね返る。
「──裏」
ここは、当てる……!
『……【コイントス】に成功しました。
次の攻撃が必中になります。──GOOD LUCK!』
「【限界加速】ッ!!」
刹那にチェーンソーは熱を帯び、私を後押しするかのように熱い白煙が噴出。
バフ効果倍加──全力の助走をつけてジャンプすれば、どれだけ上に逃げようが追いついてみせる。
「勝負だァァァァッ!!」
「来るか──【火竜砲】ッ!」
ツバサは地を駆け抜ける私を狙い、火竜のブレスを放ってくる。
……が、AGIの上昇効果も倍になった私にすぐ対応して偏差撃ちなんてできるはずもなく、【火竜砲】は虚しく土を舞い上げて火花を散らす。
これで数十秒のクールタイムだ。
他にも中・遠距離攻撃ができるかもしれないけど構わない。
このまま突っ切る……負けるもんか。
「はやッ!? 【ファフニール】……!!」
跳躍した私に対して、ツバサの剣が炎に包まれる。
銃身を向けないで剣として構えてる……ってことは、近距離攻撃で迎え討つ気だ。上等──!
「【ギガントバスター】ッ!」
高速回転するチェーンソーの刃と炎に包まれた赤い刃がぶつかり合うと烈しく火花が飛び散って、私達は明滅のなかで睨み合う。
──熱い……ッ。
こっちの蒸気と【ファフニール】の炎でヤケドしそうだ。
正直かなりキツい……けど──それでもっ!
ようやくここまで来れたんだ!
急上昇ランキングでは2位止まりだった……!
なら、このギルドデュエルでは1位になりたい!
「私が……勝ぁぁーーつッ!!!」
ありったけの力を込めて、押し切る。
──私が、私達が1位だ。この気持ちはもう誰にも止められない。
【限界加速】でさらに超強化されたステータスによる一撃は、ツバサの炎属性近距離攻撃スキル【ファフニール】を凌駕。
無防備になったツバサにチェーンソーを振りかざし、HPを一度に削り切ると大量のゴルトコインがダメージエフェクトと共に溢れていく。
「さっすがぁ……っ!」
「当然! これが私だっ!」
最後の一撃は豪快に、そして鮮烈に。
チェーンソーに斬り裂かれ、金の血潮を散らしながら遂に落下したツバサ。
けど、その表情はどこか満足気で、誇りを抱くような笑みだった──。
『コォォングラッチュレーショォォォォーンッ!!
《DDO・ギルドデュエル》バトルロイヤルを制したのは、初参加にして最小人数……最多キル数を記録し勝ち抜きました! 夜猫の喫茶店、Nフェリス・カフェだぁぁーー!!!』
その声がフィールド全域に響き渡った瞬間、大きな花火がいくつも打ち上がった。
青空を彩る極彩色の花火が祝福してくれている。
……けれど、なんと言っても勝者を祝福する歓声が花火の音に負けないくらい大きくて……これは仮想の体だけど、思わず鳥肌が立つくらい圧巻の歓声に包まれていた──。
『うおおおおおお!!!』
『おおおおー!!』
『勝ったぁぁぁ!』
『おめでとうございます!』
『やったぜ!!!!』
『俺はエヌフェリちゃん達が勝つってわかってた』
解禁されたコメント欄も目で追うのも一苦労するほど爆速でコメントが流れていく。
そんなコメント欄を眺めて喜びに浸っていると、背後からなにやら人の気配が近付いてきて……。
「カナメぇぇぇぇ!!! やったわ! 私達やり遂げたわよ!」
「大勝利だよ~カナメちゃん!」
「ぐふぇっ、ちょ、くびっ、首絞まるってぇ!」
人魂状態から復活したヒメとコユが抱きついてきて、私はふたりの腕をトントンと叩いた。
ギブ、ギブですヒメさんコユさん。
……って、別にダメージとか無いんだった。
フレンドリーファイア無効でよかった……もしダメージが発生してたら、私はこの場でガメオベラしてたな。
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──こうして《夜猫の喫茶店》は1位として表彰台に上がり、私達は優勝トロフィーを抱えながらカメラに向かってピースするのでした。
ちなみに、いやまぁ当然ではあるんだけども……インベントリに収納された優勝トロフィーは完全に記念品で……売れませんでした。
『WINNER!! 《夜猫の喫茶店》!』




