#42. 決戦、VS竜翼の旅団
最後に立ちはだかるのは、いつか《キャラバン》から私達を助けてくれた女の子。
ロングウルフカットの赤髪をポニーテールのようにし、くりっとした碧眼と近未来の騎士のような格好が印象的な《竜翼の旅団》のギルドマスター。
自称《赤き竜鱗の戦士》こと、ツバサだ。
風にはためく赤いマントは青い空によく映えている。
けど、なんで浮いてるんです……?
「そんなスキルあるなら落下死回避できたんじゃないかな」
「あっ、あの時はヒーロー着地したかったんだよ!」
「今日はしなくていいの?」
「失敗できないからね! こっちも満身創痍なんだよ」
ツバサの姿をよく見ると、マントは所々が破けている。
ブレストアーマーもヒビやへこみがあった。
《竜翼の旅団》であっても《血鬼夜行》とはギリギリの戦いだったらしい。
「ねぇカナメちゃん。あたしはさ、カナメちゃんのファンなんだよね」
「知ってるけど……どうしたの改まって。勝ちでも譲ってくれるのかな?」
「ううん、譲らないよ。それはここまで頑張ってきた《夜猫の喫茶店》に失礼だし。それに──」
ツバサは赤い剣で私を指し、楽しそうに笑う。
「配信者と視聴者のプロレスも醍醐味でしょっ?」
プロレス──ネットスラングで、争っているように見えるが実際には馴れ合いであり、ちょっと友達に小突いて笑い合うような様のことだ。
そういえば、配信者らしいことをあんまり出来てなかったな。ギルドデュエルは不正防止のために配信中のプレイヤーはコメント欄が見えないようになるから、意識するのを忘れてた。
ここまで来ても、やっぱり私はまだまだ初心者だ。
「それじゃあファンサと行こうか!」
「そう来なくっちゃ!」
パァっと喜色の顔を浮かべたツバサ。
おもむろに片手を上げ、親指と中指をグッと強く押し合い──パチンと一弾指。
静寂を破ると、私達の足元に紫色の光を纏った魔法陣が現れ、そこから毒々しい色をした茨のツルが一斉に伸びて全身に絡みついてくる。
ツバサがスキルを発動する素振りは無かった。
じゃあ、この攻撃は──。
「上出来だ。まぁ時間稼ぎにしては楽しみすぎだが」
私の背後からダウナーな声が聞こえてくる。
いつからそこに居たのか、眠そうな目をした白髪のロリエルフが毒の茨を撫でていた。
リオさんことビブリオフィルだ。
首飾りの前に手をかざし、装飾の中心にある宝石が魔法陣と同じ紫色の淡い光を放っている。
やはりと言うか、HPゲージの上に毒のアイコンが表示されていた。
茨が巻き付いて動けない……前にもこんなことあったっけな。
やっぱり拘束されるのは厄介だ……っ。
「時間稼ぎね……なるほど、ツバサ以外に誰も見当たらないと思ったら、隠れて取り囲む準備をしてたわけか……」
木の影から顔を出す《竜翼の旅団》のギルドメンバー達。
でも、その数は10人も居ない。ツバサとリオさんを入れても9人か。
《血鬼夜行》との戦いでかなり消耗したみたいだ……それなら勝機はある。
「あぁそうだ。テンコ、魔法使いの口を塞いでおくんだ。またクレーターを作られては敵わん」
「はいは~い、それじゃあちょ~っとお口のほう失礼しますねぇ」
関西圏の人なのか少し訛った口調の女性プレイヤー《テンコ》はいつの間にかヒメの背後に回ると、口元に手を伸ばして喋れないよう押さえ込む。
その風貌は妖しげなお姉さんで、笑顔を崩さない。
雪のように白い髪と紅い瞳、一番目を惹いたのは大きな狐耳とフワフワの尻尾だ。
あれもヒメの猫耳と同じでアクセサリーなのかな。
ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。
「はぁ~っ、こんな可愛ええ子を合法的に抱きしめられるの最高やわぁ♡」
「んむっっ!?」
口を押さえていたはずの指が不意にヒメの口の中へ侵入したことで、ヒメは喉から声を漏らす。
狐のお姉さんはヒメの舌を指で弄ぶかのように滑らせたり、摘み上げたりして完全に一人で楽しんでいる。
というかあれハラスメント行為で弾かれないの!?
「ちょっとテンコさん、戦闘中! ヒメちゃんも困っちゃうでしょー!」
「あはっ、忘れとったわぁ。良いモデリングしてるとついついなぁ~。ほんまに可愛ええわぁ……ヒメちゃん言うんやね~♪」
ツバサがぷんすか怒ると、テンコさんはヒメの口から指を抜く。
つぅ~っと唾液が糸を引いて、キラキラとした橋が出来上がった。
「っ、【詠唱短縮】……! エクス──むぐっ」
「おっとっと……無詠唱爆破なんて脅威でもなんでもあらへんけど、一応注意しとかんと」
咄嗟のスキルもすぐに口を塞がれ、【エクスプロージョン】発動には至らない。
攻撃スキルの中にはモーションをなぞることで自動的に発動できるものもあるけど、魔法系スキルは大抵の場合、スキル名を発言する必要があるから口は弱点になる。
特に、開幕に特大クレーターを作って見せた【エクスプロージョン】を警戒していればヒメの口を塞ぎたくもなるだろう。
……けど、危険視してるならどうしてヒメを攻撃しないのか。
というかしてくれないと……コユなら拘束されてても【起動】さえすれば盾を自在に操れるし、そうでなくても【挑戦者の咆哮】を発動すれば時間を稼げる。
コユにヒメを防御してもらって、その隙にスキルで拘束を突破したい。
ここは煽って誘ってみようかな……。
「……随分と弱気ですね。そんなに爆死が怖いですか?」
「あんなの見せられたら、流石になぁ~?」
「だったらすぐ倒しちゃった方がいいんじゃないですかね」
「その手には乗らんよ。リオフィのお気に入りちゃんは盾を飛ばしてくるんやろ? せやから先に倒すべきなのはそこの桜色の娘や」
「あはは、バレバレですか」
ダメかぁ……やっぱりコユの盾も警戒してる。
流石は前回2位、《竜翼の旅団》だ。一筋縄じゃいかない。
こうしている間にも毒による継続ダメージでHPが削られてるし、やるしかないか。
「……仕方ない、多少無茶して強行突破だ」
次の【限界加速】まで残り120秒ほど。
その時間まで耐え凌いでやる……!




