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#04. のんびりとした親友です(でも成績優秀なお嬢様なんですよ)


 操作ミスで配信してしまった日曜日から一夜明け、月曜日。

 私は憂鬱(ゆううつ)気分で登校。

 こんな日でもいつもの学園生活はやってくる。

 自分の席になだれ込むと、特大のため息を吐いた。



「──ユメちゃんおはよ~。なんだか元気ないね~?」



 そう言って私のほっぺたを指でつんつくするのは、隣の席に座る親友──姫園(ひめぞの)ユリ。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……なんて言葉が似合う、清楚な黒髪ロングの美人さん。

 掴みどころのないマイペースな性格だけど、その正体は姫園財閥の一人娘。

 リアルにお嬢様と言うやつである。

 お嬢様のくせに庶民な私と同じ普通の高校に通っている変わり者だ。



「あー、おはようヒメ。昨日ちょっとやらかしてね……」

「昨日~? あ~、そういえば買えた~?」

「うん、オススメしてくれたDDOは無事買えました」



 何を隠そう、お母さんに言われた「自分で働いたお金だから強くは言わないけど、買うものはもう少し考えて使ってね?」という遠回しな貯金しろ宣言に悩んでいた私へ、「お金が稼げるものを買えば万事オッケーじゃないかな~」と、自分の親が経営してる会社のゲームを解決策として薦めてくれたのが、姫園ユリことヒメだ。



「何かあったの? 嫌なプレイヤーでもいた?

 プレイヤーネーム覚えてる? わたし、消そうか?」



 のんびりオーラはどこへやら。

 真顔でずいっと詰めてくるヒメをどうどうと落ち着かせる。

 たまに変なテンションになるのは私も同じかも。



「操作ミスって配信しちゃってたぽくってさ……羞恥心で意気消沈なわけですよ」

「なんだ~」

「なんだとはなんだ。私が人見知りなの知ってるでしょう」



 クラスでもヒメしか話し相手いない。

 あんな大勢の前で──実際どれくらいの人がいたのか見てないけど──独り言を喋ってたなんて恥ずかしすぎる。



「ユメちゃんなら気にいると思ったんだけどなぁ~」

「どこをどう見てそう思ったの……」

「だってユメちゃん、お金好きでしょ~?」

「そりゃもちろん。お金があればだいたい買えるからね」

「うんうん、だからDDOをオススメしたんだよ~」

「換金システムでしょ? 換金率は低いけどお小遣い稼ぎにはなりそうだし、ゲーム自体はけっこう楽しかった」

「ふっふっふ~、それだけじゃないのです」



 可愛らしく微笑みながら、どこからかタブレットを取り出して画面を見せてくるヒメ。

 映っていたのは──配信サイト?



「こちら、フルダイブ配信サービス。《フルライブ》で~す♪」

「あ〜、ヒメのお父さんが運営してるんだっけ?」

「正確には子会社になるかな~。お父さんがこういう配信を見るのが好きな人でね~、本社運営のDDOと連携してるんよ~」

「なんで換金なんかして赤字にならないのか心配してたけど、広告かなにかで換金用資金を集めてるのか」

「詳しいことはよく分からないけど、そんな感じ~。みんな配信見るの好きなんだよね~」



 そんなに人気コンテンツだったのか。

 私もたまに見るけど、最近はバイトが忙しかったからなぁ。



「でね~、フルライブには『投げ銭』ってシステムがあって~」

「あの色付きコメント?」

「そうそう~。好きな配信者に応援する気持ちを伝えるためのものでね~? 投げ銭された配信者にはそこから30%を差し引いた金額が入ってくるんだ~」

「1,000円の投げ銭があったら700円の利益か……ん? ま、待って……つまりそれって、ゲームしながら稼げるってこと!?」

「そゆこと~」



 頷いたヒメは両手をVの字にちょきちょきカニさんポーズ。



「有名になれば月に何百万も夢じゃないよ~」

「そこに換金システムが合わされば……」

「ユメちゃんならきっと上手くできると思うんだ~」

「……いやぁ、でも……あんなにたくさんの人に見られるのは……」

「でも喫茶店のアルバイトは上手くやってるんでしょ~?」

「それは仕事だから……」



 仕事だから……?

 いや、そうじゃない。

 私はお金のためならと、あとついでに人見知りを克服したくて接客業を選んだ。

 なら……配信は?

 大勢に見られるけど、それだけたくさんの人から人気を集めることができれば、それは収益になる。



「それに接客と違うのは、相手の顔が分からないってところ。誰かに見られてるけど、その目が自分からは見えない……ただ配信中にコメントが流れてくるだけだし、人見知りなユメちゃんでもやりやすいと思うんだ~」

「……ヒメ、そこまで考えてオススメしたの?」

「ん~どうかな~?」



 わざとらしく首を傾げたヒメは項垂(うなだ)れていた私の手を握ると。



「ただ純粋に、ユメちゃんと遊びたかったからかな」



 少し寂しそうな表情をしてくれた。

 この子は本当に、昔から私をどこかへ連れ出すのが上手い。



「……そういえば、高校生になってからバイトばっかであんまり相手してあげられなかったね」

「そうだよ~。それに何を隠そう、わたしも配信してるんだ~」

「してるの!? そ、それって運営の公式チャンネル……みたいな?」

「あ、もちろん正体は隠してね~。趣味だし~」

「は、はぇ~……知らなかった」



 私と違って人と関わるのが好きなヒメらしいと言えばらしい。

 ゲームも上手いしなぁ。



「だからね? 二人で一緒に遊びながら配信できたらいいな~って……ダメかな? やっぱりバイト忙しい……?」

「いいや、最近新しい人が入ってきたからしばらく時間に余裕があるよ。せっかくオススメしてもらったし、一緒にやろうか」



 そう言うと、ヒメは弾けたようなパァっと明るい笑顔をしてみせる。



「やったぁ~っ! それじゃあ目指すは収益化だね! もうユメちゃんのお母さんに話は通してチャンネルは開設してあるから、登録者数が1,000人を超えたら投げ銭機能がアンロックされるよ!」

「知らない間に外堀を埋められてる!?」

「あとDDOって換金システムがあるから金策配信って結構人気あるんだ~。やっぱりユメちゃんにぴったりだ~! これならトップも夢じゃない~、ユメちゃんだけに~♪」

「能天気だなぁ」



 でもまぁ、そんなに人気になったらどれだけ稼げるのかはちょっと気になる、かな……?


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