#34. 初手(波乱のギルドデュエル、開幕!)
2047年2月17日──《ギルドデュエル》が開幕する。
先週の予選をクリアしたカナメ達のギルド《夜猫の喫茶店》は無事に本選へ進出。
100のギルド、数千を超えるプレイヤーがギルドデュエル専用バトルフィールドに転送された。
フィールドは草原。ところどころに身を潜められそうな森があり、高低差はほぼない平地。
比較的戦いやすい場所で、カナメ達は森の一角に転送されていた。
「前はトーナメント形式だったけど、今年はバトルロイヤルっぽいわね」
当時ギルドには所属していなかったが昨年のギルドデュエルを配信で見ていたコユは、上空を縦横無尽に飛び回る撮影用ドローンを見上げながら言う。
このデュエルはフルライブで公式配信されているが、配信者達も各々で配信が可能だ。
もちろん、不正防止のためにコメント欄は見ることができないが。
「おぉ~! カナメちゃんコユちゃん、ステータス見てみて~!」
「うわっ、なにこれめっちゃ高い」
「コユ達が一番人数少ないだろうし、この上昇率は納得ね。でも油断しないこと。いくら個人が強くても統率の取れたチームに当たればすぐ攻略されるわ」
「なんか私達がダンジョンボスになったみたいだね」
「それじゃあ~作戦開始だ~♪」
100ギルドがひとつのフィールドに集まって互いを潰し合い、最後に残ったギルドが勝者だというこのルール。
《夜猫の喫茶店》のような少数ギルドは圧倒的に不利だが、人数差に応じて少数ギルドには特別なバフ──主に全ステータス上昇が付与される。
全プレイヤーのレベルは50固定。
それに伴いステータスも変化するためレベルを上げなくても参加できるのだが、カナメとヒメはこのイベントまでにレベルを50まで上げた。
ステータスが上がるとはいえ、スキル構成は自前で組まなければならないからだ。
DDOでは最大で9つのスキルをセットでき、生産系や日常系スキル以外はセットしなければ発動できない。
レベル50というキリのいい数字で習得できるスキルは数多くあった。
──そして、強化できるスキルも。
「【起動】──!」
「わ~、ほんとに飛べる~!」
コユの黒い大盾《機械仕掛けの晦冥》に乗ったヒメは、空へぐんぐん上昇していく。
「それじゃあコユは偵察してくるわ。随時ボイスチャットで報告する。上手くやりなさいよ」
「任せといてよ。軍資金も貰っちゃったしね」
「期待してるわ」
互いの健闘を祈るように、コツン、と二人は拳を合わせた。
カナメから一歩下がったコユは、もう一枚の大盾を召喚する。
《機械仕掛けの晦冥》──今ヒメが乗っているものとは別の大盾だ。
「【起動】!」
二枚目の大盾も浮遊し、それに飛び乗ったコユはヒメと同じく空へ飛び上がっていった。
カナメはそれを見届けると、青い空に一点、眩い光があることに気付く。
その光は炎のように赤く揺らめき、同じ光を放つ巨大な魔法陣が空を覆うように展開された。
「──魔力活性、臨界」
魔法陣の中心に浮かぶのは、大盾に乗った白猫の魔法使い。
魔女帽子が風にはためき、片手で帽子のつばを押さえながら、先端に青い宝石が取り付けられた魔法の杖を天に掲げる。
「おい……おいおいおいっ! なんだアイツは! お前ら、早くあれを撃ち落とせ!」
巨大な魔法陣と、杖の宝石を中心に渦を巻きながら荒れ狂う光の粒子は、当然大きく目立つ。
《キャラバン》ギルドマスター、エルドも上空で行われている異変に気付き、30人ばかりの魔法隊に命令するが──各々が魔法攻撃スキルを発動し空に放つと、それらはヒメに届く前に霧散。
何度試しても攻撃が届く前に消えてしまうので、彼らは空を見上げたまま武器を下げた。
「だ、ダメです……射程距離外で魔法攻撃が届きません……!」
「はァ!? このまま大技を見てろって言うのか!? 僕は竜翼の奴らを倒すためにここへ来たんだぞ!? 冗談じゃない!」
射程距離外の位置、もし届いたとしても、ヒメが乗っているのはコユの大盾だ。
【オートガード】を発動してしまえば防御される。
詠唱魔法スキルは詠唱が長いほど威力が増し、攻撃範囲も拡大していく。
だが対人戦において『長い詠唱』ができる暇なんてない。
熟練度が上がり、スキル強化によって超長文詠唱が解放されたヒメの【エクスプロージョン】はやはり使いどころが難しいのだが──。
(──攻撃が届かないなら自由。攻撃されなければ、あの魔法破壊も問題ない)
ヒメは詠唱しながら地上を見下ろし、かろうじて目視できるプレイヤーの塊を睨む。
(カナメちゃんは必ずここで活躍する。だからみんなの注目を引きつけて、釘付けにさせる。打倒《キャラバン》なんて、つまらない……)
イベント開始前に自身がカナメとコユに言った言葉を思い出す。
《キャラバン》だけに執着して良いものか?
視聴者が見たいのは本当にそれだけか?
違う、とヒメは断言した。
求められているのは自分達の活躍だ。
期待は超えなければならない。
ならどうする?──全員倒してしまおうじゃないか。
このギルドデュエルで、最多キル数を記録しよう。
わたし達にはそれができる──ヒメはそう豪語した。
出来ないわけがないだろう。
だって現に、上空で膨れゆく光を地上の敵達は見ていることしかできないのだから。
「──非可逆点睛、星の傷。災厄の焔はここに顕現し、諸共に焼き尽くす。さあ、見るがいい。これが我が魔法の真髄──これがわたしの、わたし達の最初の一手っ! 全員吹っ飛んじゃえ!」
巨大な魔法陣が何層にも重なり、弓を引くかのように光が伸びていく。
「【エクスプロージョン】!!!」
刹那、荒れ狂っていた光の風が止む。
引き伸ばされた光は魔法陣をくぐって放たれ、小さな光のしずくとなって地上に落ちていく。
それは【エクスプロージョン】と呼ぶにはあまりにも静かだったが──地上に到達した途端、木々は瞬く間に燃え尽き、地は赤く灼け、焦土と化す。
光のしずくが弾け、閃光にも似た大爆裂が地上を襲った。
これが普段の戦闘であったなら、威力はもっと控えめだっただろう。
しかし人数差による不利をステータス上昇で補われたヒメの最高火力は、既に全ギルドから抜きん出ていた。
ひとり、またひとりとHPを全損。
次々と人魂と化していき、地上が冥府にでもなったかのような光景が広がる。
ギルドデュエル開始から五分程度で、フィールドの中央には巨大なクレーターが出現。
100ギルド中、爆破範囲にいた21ギルドが【エクスプロージョン】によって全滅した。
この事実に、カナメ達の視聴者も、そして《夜猫の喫茶店》を知らないDDO公式配信を見ていた視聴者も、画面に齧り付くほど見入って唖然としていることだろう。
「──さあ、エンタメの時間だよ」
派手な初撃、作戦開始の合図を見届けたカナメは、グルルと赤いチェーンソーを唸らせた。




