#33. イベント前でも定期テストはやってくる
平日のお昼──つまりは授業後のお昼休み。
私は机の上に突っ伏して、大きなため息を吐いた。
「ユメちゃ~ん、ごはん食べ……わっ、溶けてる~」
「ヒメぇ……」
「よしよし、頑張ったね~。中間地点まで来たよ~」
頭を優しく撫でてくれるヒメに甘えつつ、昼食を食べる。
こうもため息が出てしまうのは仕方ない。
今日は定期テストの日。
赤点を回避しなければ追試。
ゲームのイベントに参加している暇なんてなくなってしまう。
……まぁヒメに勉強教えてもらったし、大丈夫だとは思うけど……いや……大丈夫かなぁ。
最近DDOに入り浸りだったからなぁ……!
「それにしても今週は大変だったね~」
「ほんとだよ。ユヅキさんに襲われたし、テスト勉強はしなきゃいけないし、イベントに向けてレベル50にはなっときたいし。まぁバイトは休みにしてもらったからよかったけど……」
「チェーンソーもドロップしなくてよかったね~」
「プレイヤーキルのレアドロは相手と自分のLUCを比べてドロップ率が変わるから、とにかくコイントスでステータス上昇系のバフを引きまくったよ……おかげでレベリングとか素材集めで稼いだ所持金があと60万だけど!」
【コイントス】成功で得られるバフはランダムだから必ずしも欲しいバフが来るとは限らない。
だから数を打つゴリ押しコイントスでなんとかユヅキさんのLUC値を上回れた。
《チェンソー・ゼロス》も無事に強化したし……準備は万全だ。
「減った分はギルドデュエルで稼ぐ。ユヅキさんにも勝つ! 特にキャラバンは潰す!」
「みんなぶっ飛ばしちゃお~!」
「おーっ!」
「その前にテストを倒そ~!」
「お……お~……っ!」
もしかすると、このテストが一番の強敵なのかもしれない。
そう思いながら、私はおにぎりをぱくりとひと口頬張った。
■■■
「──月崎さん、お昼休憩。行っておいで」
「あ、はい、ありがとうございます。行ってきます」
風間店長が壁に掛けられた時計に指をさしながら教えてくれて、私は店の奥にある休憩スペースでエプロンを脱ぐ。
コンビニで買っておいたおにぎりをかじり、エネルギー補給。
「……もうすぐギルドデュエルか」
2月に差し掛かり、来週には予選が始まる。
エルドは前回の雪辱を晴らすために《竜翼の旅団》対策を練っている。
きっとあの子……カナメと言うプレイヤーも──。
『──ゲームは楽しくあるべきだ』
ふと、その言葉を思い出す。
昔はいろんなゲームを極めるまでプレイした。
極めた時の達成感が、私の人生に充実感を与えてくれる。
それがたまらなく楽しくて、この気持ちを誰かと一緒に共有できたらもっと楽しいのだろうと思って、マルチプレイが主体のゲームも遊ぶようになった。
でも、今はどうだろう。
PKやモンスターの横取りばかり。
無防備な相手へ、不意打ちの攻撃を仕掛ける。
真っ向からの真剣勝負なんてありえない戦略……達成感なんてありはしない。
今の私は、ゲームを全く楽しんでいなかった。
これはゲームで、私は楽しく遊ぶためにプレイしているはずなのに。
「ゲームは楽しくあるべき、か……」
まさか後輩に言われた同じ言葉をもう一度聞くことになるとは思わなかったな。
…………同じ、言葉……?
「あれ…………?」
同じ言葉だ。
そういえば、顔も似ていた気がする。
髪と目の色が違うだけで雰囲気がガラリと変わるから意識できなかった……あと……リアルより胸が大きくなっていた気がするし。
それに《ギルドデュエル》本選当日の17日にお休みを貰ってる。
「そうだ……ユメちゃんって確か、友達に……ヒメちゃん、だっけ……姫園財閥のお嬢様だとかなんとか……何度かお店にも顔を出してたよね……」
プレイヤー《カナメ》の隣にいたあの魔法職の女の子……確かPNは《ヒメ》だった。
だとすると、あそこにいたのは姫園財閥の……?
もしかして私……とんでもない人に刃を向けてた?
いや、まさか、まさかね。そんな偶然があるわけないよ。
だってヒメって名前は探せば他にもいる。
うん……たとえ金生ユメを略してカナメになったとしても……探せばそんな名前いくらでも……いくらでもぉ……っ。
「お疲れ様でーす。お、月崎先輩休憩中でした……か? あれ? どうしました?」
机におでこをガンガンとぶつけていたところに、もう一人の後輩である五十嵐さんが裏口から入ってきた。
私はおでこからシュゥゥ~と煙を立たせながら、苦笑いを返す。
「な、なんでもない……ただ受け入れ難い現実を前に先輩として恥ずかしくなってただけだよ……へへ……」
「本当にどうしました?!」
頭を必死に打ち付けたけど、もう確信してしまった。
カナメは金生ユメ──私の後輩。
向こうは気付いてなさそうだし、このまま隠し通す……?
あぁでも、キャラクリ苦手であんまり顔弄ってないよぉ……!
カナメちゃんと違って私は黒髪のままだし……時間の問題だ……どうしよう、あんな人達にいいように使われて、拒むこともできないなんて恥ずかしいところを見せた《ユヅキ》と私を結び付けられたりでもしたら……っ!
『月崎先輩がユヅキさんだったんですね。尊敬してたのに、幻滅しました。もうバイト辞めます』
なんて言われるかも……!?
幻滅されたくないよぉ……先輩としてなんとかリアルではかっこいいところを見せないと……あ、ダメだユメちゃん今テスト期間中でまるまるバイトお休みだ。
「へ、へへ……へへへっ……」
「月崎先輩、だいぶお疲れみたいですね……僕、店長に早退できないか相談してきますよ?」
「う、ううん、平気……五十嵐さんに迷惑はかけないから……17日は私もユメちゃんも休み貰っちゃうし……」
「迷惑なんてそんな。僕はそのためにいるようなもんですし、しっかり楽しんで……あぁいや、休んでくださいね」
「うん、ありがとう」
とりあえずこの確信は、今日は忘れることにした。
きっとバレてないと願って。
──でも……そっか。
ユメちゃん、私とゲームして楽しんでくれたんだ……。
「ギルドデュエル……楽しみだな……」




