#29. ごはんと結婚とギルドデュエル(嵐の前の静けさってやつですかね)
私達を助けてくれた《竜翼の旅団》ギルドマスターのツバサと、その先生?であるリオさん(長いのでそう呼ぶことにした)を連れ、コユオススメの例のレストランでお礼を兼ねてご馳走する。
「ゲームに出てくるご飯ってすっごく美味しそうに作ってあるからいつも食べたくなっちゃうんだよねー!」
そう言って、ツバサはこんがり焼けたマンガ肉にかぶりつく。
DDOは味覚がほぼ完全に再現されているから、この世界の料理は見た目だけじゃなくて味もしっかり美味しい。
口に含んだ『食べ物』を『咀嚼』することで設定された味を感じ、飲み込むと喉を通って胃に落ち……擬似的な満腹感を刺激する。
とはいえここは仮想世界なので、満腹でも実際には何も胃の中には入ってないから、多少苦しいことに目を瞑れば実のところいくらでも食べることができる。
だからなのかはわからないけど、ツバサは顔より大きいマンガ肉をぺろりと平らげると続けて大きなエビを鷲掴む。
「あ~むっ♡」
ぷりんとしたエビの身にかぶりつき、もっぐもっぐと幸せそうに咀嚼していた。
「ツバサちゃんよく食べるね~、おなか空いてたの~?」
「ん~ん。リアルじゃたくさん食べられないから、こっちでいっぱい食べるんだー。あたし少食だからね。えっへん」
なぜ自慢げなのだろう。
そう思いながら両手に骨付き肉を持ち交互に食べる二刀流を披露するツバサを見ていると、リオさんがフォークを置いて真剣な眼差しを向けてくる。
「カナメ……ツバサは明るく元気なことだけが取り柄で他はからっきしだが、きっと明るい家庭を作れるだろう。ぜひ嫁に貰ってくれ」
「どうしてそうなる!?」
「いやなに、物欲しそうな顔をしていたものでな」
私の鉄板ジョークさ──と言ってフォークを持ち直したリオさん。
流石に冗談だと分かってるけど、いつものほんわか雰囲気を消し去った人物がひとり……。
「それはダメだよ。カナメちゃんに結婚はまだ早いよ」
「ヒメ?」
「どうしても結婚したいならわたしを倒してからにしてください」
「ヒメさん?」
「おっ、決闘だね? やるなら受けて立つよー!」
「ちょっと!?」
すると、慌てる私を見てヒメは息を吹き出した。
「冗談だよ~♪」
冗談には見えなかったよ~?
ぱーっと手を広げて笑っていますけど。
「まぁ、あたしはもう先生と結婚してるからカナメちゃんとは結婚できないんだけどね。DDOの結婚システムはハーレムを許さないのだ……」
「な、なんで結婚したの……? その……元々そういう関係……とか?」
「結婚すると《結婚指輪》って特別なアクセサリーを装備できてね。その装備効果で夫婦のストレージが共有化されるんだー。だから万が一死んでも装備はドロップせずに先生のストレージに収納されるの!」
「……なるほど、デスペナルティを打ち消せるのか」
検索してみると、他にも結婚式場でスクリーンショットが撮れたり、限定衣装のウエディングドレスが着れたり、ゲーム的に嬉しいのは『結婚相手を庇った時、ダメージ軽減が発生する』というところ。
「まぁ装備中の武器と防具だけだからストレージ内のアイテムはランダムドロップするし、お金もドロップしちゃうんだけどねー」
「流石にデスペナルティ完全相殺ってわけにはいかないか」
でもチェーンソーが相手の手に渡らなくなるならアリかもしれない。
「ちなみに結婚でどうやって……」
「それはねー! ……あ」
一応聞いておこう……そう思ったけど、ツバサは何か思い出したのか申し訳なさそうな顔になっていく。
「えっと……《妖精国デルティオ》って言う、四番目の街で指輪を作るためのクエストを受けるんだよね……」
「まだ二つ先じゃん!」
早いうちに最前線へ行かないと……いや、その前に《キャラバン》から仕掛けてきそうだなぁ。
あのギルマス、だいぶ頭に血が上ってらっしゃったみたいだし。
「まぁ焦る必要はない。《キャラバン》も一人のプレイヤーに執着するほど暇ではないしな。はいあーん」
「もぐ……あの、コユ自分で食べられるから……むぐっ」
さっきからリオさんはなぜコユに食べさせているのだろう。
なんかよだれ掛けまで着けられてるし……。
「もうすぐ《ギルドデュエル》が始まる。私達も出場するからには上を目指すつもりだ。恐らくエルド達は前年の雪辱を晴らしたいだろうしな。受けて立とう」
「そうだ! カナメちゃん達も出場するよね! せっかくギルド作ったんだし!」
「うーん……でも《キャラバン》って90人くらいメンバーがいるんでしょ? 他のギルドだってそれくらいいるはずだし……こっちは3人だからなぁ」
「その心配はいらない。《ギルドデュエル》では全員のレベルは50で統一され、人数差による不利を考慮してメンバーの少ないギルドには支給品など、なんらかの形でサポートされる。前年はトーナメント形式で、少数派ギルドにはNPCで人数補填されていた。まぁ、今年はどうなるか分からないがな」
リオさんはコユの口周りをナプキンで拭きながら教えてくれる。
「面白そうだし、やっぱり参加しようよ~。賞金は山分けだ~!」
「ヒメがそう言うなら……《ギルドデュエル》っていつなの? 2月に開催なのは知ってるけど」
するとツバサは公式サイトのページを出してくれた。
「本選は2月17日! 予選が9日から11日のあいだ! 参加受付は……1月27日までだよ!」
「今日が18だから……このあと受け付けちゃおっか」
「そ~しよ~♪」
「やるからには勝つわ! 特にあの金髪片眼鏡男、盾で潰してやる!」
「わたしも爆破する~!」
ガタッと席を立ち、手を握り込むコユ。
調子が戻ってきたみたいで、握り込んだ手には剥ぎ取ったよだれ掛けがあった。
「……あとは」
気になるのは黒髪のお姉さん……ユヅキさんだっけ。
「ごめんなさい」と謝ってくれた時の声は、少し震えていた……気がする。
もしまた会えたら……話をしてみたいな。




